【豊田喜一郎の言葉】「需要がある人々が安い自動車を買えるように」…その2

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創業者 豊田喜一郎氏
創業者 豊田喜一郎氏 全 4 枚 拡大写真

現在トヨタ自動車の創立記念日は11月3日となっている。これは1938年11月3日に、挙母工場(現本社工場)が竣工したことに由来しているが、9月1日もまた、トヨタにとって、ひいては日本の自動車業界にとって、大きな意味を持つ日である。

今から79年前に当たる1936年の9月1日、後のトヨタ自動車にあたる豊田自動織機自動車部は、1台の乗用車を発表した。『トヨダAA型』と名付けられたその自動車は、トヨタにとってはもちろん、日本自動車産業においても初の国産乗用車だった。

本稿では、当時の資料に残された豊田喜一郎の言葉を現代語訳することで、日本自動車産業黎明期の様子を追っていく。

◆国産自動車と価格の問題について

国産自動車を作るにあたって、喜一郎は「思い切って安くしなければならない」と考えた。時を同じくして成立した自動車製造事業法により、海外メーカーの新規参入が制限されるなど、国産車を生産に向けて邁進するトヨタにとっては追い風も吹いてきた。

(以下、豊田喜一郎の言葉)

幸い、自工法(編集部注:自動車製造事業法)ができて、ある程度の無謀な値段の競争は防がれた。

しかし、逆にこれができたために、外国車も内地車(編集部注:国産車)も以前より高くなるようでは申し訳がない。少なくとも自工法ができたために、国産車が発達し、需要がある人々が安い自動車を買えるようにならなければならない。こうした意味で、われわれ自動車製造業者には大きな責任がある。

しかし、はじめからそう安くできないのは当然である。値段を安くするために材料や製作が悪くなり、使用に耐えないようになっては意味が無い。これが、国産自動車の出鼻における大きな困難である。「安くて良いものを作れば必ず売れる」という原則は少しも変わらないが、はじめから安くて良い物ができるはずはない。この難関をどのようにして突破するかが重要なのである。自工法は無理な競争、特に外国車のように基礎も十分に固まった実力のある会社のダンピングを防ぐ意味では有効かもしれないが、正当な競争においてはやはり自らの力に頼るしかない。

私の父(編集部注:豊田佐吉)が、「自動車を作らないか」と何度も言った。しかし、それから3~4年も手を着けなかったのは、この点について考えていたからである。

まず、技術的実力の養成と、経済的実力の養成をしてからその製作に取り掛からなければならないと考えていた。もちろん、自工法の成立など夢にも思っていなかったので、乗用車200台の製作に対して、1台あたりどれくらいの損失をして、それをどれくらい続けていけば国産車として認められるようになり、製作費相当の値段で買ってもらえるようになるかを考えていた。そして、果たしてそれだけの辛抱が出来るかどうかを考えた。その結果、その辛抱を成し遂げれば、国産車として成立しないこともないような気がした。

自動車以外の工業において、外国よりも安くて良い物を作れる能力を持っているわが国が、自動車の製造だけはどうしてもそれができないという理由はないと考え、過去数年間は技術の養成と会社の内容の充実に努めてきた。

昭和8年(編集部注:1933年)頃、やっと技術的基礎もできつつあり、会社の経済的状態も悪くはないことから、ここで自動車製造に当たらなければ永久に着手できはしないと考え、思い切って自動車の製作を始めたのが昭和8年の9月1日である。

すべての事業は、手を付け始めたならば一瀉千里に遂行する方がかえって経済的であると、振り返ることなく自動車の製造に突き進んでみたが、何分慣れない仕事である。乗用車の発表まで3年も費やしたことはお恥ずかしい次第である。

《底本「トヨダニュース 第六号」1936(昭和11)年8月25日》

《現代語訳:瓜生洋明》

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