【川崎大輔の流通大陸】ハイブリッド車王国、スリランカの今

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SBT Lankaは、2014年の後半に日本からスリランカへの中古車輸出ビジネスを行うためスリランカに進出した。立ち上げを行ったジェネラルマネージャーの野武氏にスリランカにおける中古車ビジネスの課題と魅力について話を聞いた。

◆スリランカの自動車市場の特徴

大きな特徴としてスリランカの自動車市場は、需要ベースではなく政策ベースの市場となっているということだ。2009年の内戦以降の市場は政府が輸入税率を弁として利用し、市場の流通台数をコントロールしている。そのため、市場規模が急激に上がって、急激に下がるような大きな波を繰り返している。

2つ目の特徴としては、日本からの輸入車(新車、中古車)が多くを占める市場と言える。1948年までイギリス領であり自動車は右ハンドル車に限定される。そのため同じ、右ハンドルである日本車の人気が高い。総じてスリランカ人は親日的であるというのも要因のようだ。同じ車種であっても、タイで生産された車よりも、日本で生産された日本製を好む。

3つ目の特徴としては、新しいハイブリッド自動車が多いことが挙げられる。ガソリン車、ハイブリッド車を含め中古乗用車は2年以内のものしかスリランカに輸入できないという車齢規制がある。また、政府は環境対策を重視し、低燃費車に対する優遇税制を打ち出していた。そのため、税金の低い高年式のハイブリッド自動車、電気自動車、軽自動車が多く輸入されるようになった。スリランカは日本からの高年式ハイブリッド自動車王国なのだ。

◆SBT Lankaのスリランカビジネス

日本からスリランカへの中古車輸出台数は2014年で3万1814台、2015年は5156台と62%の大幅な増加となった。SBT Lankaは2014年の終わり頃にスリランカが参入した。ビジネス開始からわずか1年弱、スリランカでは後発組である。それにもかかわらず、既に日本からスリランカへの中古車輸入市場にける大手企業の仲間入りをし、快進撃を実現している。それを可能に理由は「スリランカにオフィスを構え、現地に根付いたビジネスを始めたことで信頼感が増したため」と野武氏は分析している。

従業員数は既に100名を超え、中古車ディーラーへの営業、日本からディーラーへ中古車を送る手続きに関するアフターフォロー、船積みの後の追跡サポートなどを行っている。

ビジネスを開始した翌年2015年、SBT Lankaはスリランカへの中古車輸入市場の約20%のシェアを獲得した。正確な統計データを得ることはできないが同市場で3番目の規模となった。「大手3社でスリランカ輸入中古車市場の8割ほどのシェアを取っており、それ以外は比較的小規模な会社のシェアではないだろうか。」と野武氏は指摘する。

◆スリランカ中古車輸出ビジネスの現状

2015年後半に行われた増税により直近のスリランカ中古車市場は停滞気味だ。2015年11月20日からの自動車輸入税の改正によって、ほとんどの車種の輸入税が引き上げられた。ガソリン車(排気量によるが大体150%から160%)の増税だけでなく、環境対応のハイブリッド車(排気量によるが大体80%から90%)や電気自動車(5%から50%)も大幅増税である。それにより2015年11月、12月の輸入台数が月間4000台程度であったものが、2016年の1月は月間1800台と半減した。

付け加えてその他2つの理由から、2016年のスリランカ自動車市場の拡大が懸念されている。理由の1つ目が付加価値税(VAT)の増税、2つ目がスリランカルピー安、である。VATは4月以降から12%から15%に上げられる検討がされており、車体価格が上がる可能性が高い。更に2015年末に比べ、2016年3月は10%近くのルピー安となっている。言い換えれば以前100万円の車を購入するのに110万円支払う必要がある。

また、スリランカへの中古車車体価格(FOB)は他国より高く2015年平均で174万円/台となっており、自動車1台あたりの負担が大きい。中古車のオートローン貸し出し制限が今まで車体価格の9割までだったが7割に減額されたのも追い打ちをかけている。

2015年初めにあった増税の際は、2か月ほど市場が落ち込んだが、その後すぐに元に戻った。一方で今回の増税では市場がまだ戻っておらず、中古車ディーラーでも在庫がたまってきている模様だ。日本からスリランカへの人気車種で言えば、トヨタがプリウス、アクア、アクシオ、ハイエース。ホンダは、ヴェゼル、フィット(GP5)、フィットシャトル、グレイス。日産はリーフ、スズキはワゴンR、ハスラーだ。一方で、2016年に入り、増税の関係でハイエースや電気自動車の輸入がストップしている。また一時期人気であったベゼルは昨年後半より減りだした。一方、台数は減ってはいるがアクア、プリウス、アクシオはいまだに輸入され続けており、併せて、ワゴンR(スズキ)、エクストレイル(日産)も入ってきているようだ。

◆スリランカ自動車ビジネスの課題と魅力

スリランカの課題は「政府の施策が変わりすぎで、税金の上下が激しいことに尽きる。」と、野武氏は言う。特にここ2年間の変更は激しく、そう言った傾向がいつまで続くのかは不透明な状況にある。また、「今回の増税率は今まで以上に大きく、2016年のスリランカの自動車市場は大変なのではないか」というのが正直な野武氏の意見だ。

一方で、スリランカで自動車ビジネスを行う魅力もあると言う。高年式高価格と車体価格が高いため、1台あたりに対して高い利益が見込めるのだ。「景気が早く良くなってほしい」というのがスリランカの自動車関連ビジネスに関わる方々の本音であろう。

ビジネスにおけるスリランカの可能性は、アジア・インド・中東・アフリカのゲートウェイとなり得る地理的優位性、まだ飽和状態に達していない自動車市場拡大の可能性と中古車・整備などを含む自動車アフタービジネスの可能性、更に親日的な国民性が挙げられる。スリランカは多くの可能性がありながら、まだ十分に活用されていない国だ。そこにスリランカの最大の魅力があると個人的に感じている。

<川崎大輔 プロフィール>
大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

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