クルマ関連の出展がほとんどの「人とくるまのテクノロジー展」で、映画やテレビ放送などで広く使われるデジタル音声圧縮技術を開発した「DTS」他が出展。臨場感溢れるサラウンドサウンドを再生する「Neural:X」、昨年傘下に収めた「HD Radio」に関する出展も行った。
出展のメインとなっていたのは「Neural:X」。既存のコンテンツでも上下方向の成分を割り振ってより立体的な音場を再現するアップミックス技術だ。限られた空間の車内においても「DTS:X」と同等の臨場感あふれたサウンドが広がる。会場では車内に見立てた試聴スペースが用意され、ここで来場者は「Neural:X」による効果を体感した。
興味深かったのが「HD Radio」の出展だ。これはアメリカ国内で提供されているラジオの地上デジタル放送のこと。それがどうして日本国内に向けて出展したのか。実は、DTSは昨年秋、HD Radio技術の開発した米アイビクイティ・デジタル(iBiquity Digital)を買収した。日本ではラジオのデジタル化が構想は上がるものの、周波数帯の変更に伴う投資額が大きく、特にローカル局を中心とした反対の声で実現に至らなかったという経緯がある。
一方、「HD Radio」は既存のAM/FM アナログ放送の周波数を利用しながら、そのサイドバンドを利用してデジタル信号も同時に伝送するハイブリッド方式を採用している。そのため、放送局は設備も従来のまま使え、従来のラジオで受信することもできる。現在は交通情報や天気予報を含むデジタルらしい多彩なコンテンツも提供中だ。
アメリカでは全米ラジオ放送局約1万2000局のうち約9割が「HD Radio」に対応。また、受信機としては、米国市場に参入している大手自動車メーカー全36社が一部車両に「HD Radio」技術を導入済みで、DTSによれば2014年に米国で販売された車の約35%に装備されているという。
今回の出展は、「この方式を日本も導入することで手軽にラジオ放送のデジタル化が可能になる」(dtsジャパン テクニカルスペシャリスト渡邊 均氏)という提案を行うため。日本では従来のVHF帯を使った「V-Lowマルチメディア放送」がスタートしたばかりだが、これには専用受信機が必要で、受信エリアも現状では3大都市圏に限られている。渡邊氏によれば「従来のインフラがそのまま使えるHD Radioへの関心はとても高かった」とのことだ。