【ドライブコース探訪】「西郷さん」を予習するなら鹿児島ではなく宮崎へ?

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西郷隆盛宿陣資料館
西郷隆盛宿陣資料館 全 15 枚 拡大写真

九州東岸を走る国道10号線。延岡から宮崎-大分県境の山岳路に向かってしばらく北上したところで、西郷隆盛宿陣資料館という案内板が目に入った。最寄りのJR日豊本線の駅は日向長井だ…ということは、このあたりが明治期の長井村か。

明治維新期の西南戦争末期、延岡・和田越の決戦に敗れた薩摩軍の西郷隆盛がここ、旧長井村の児玉熊四郎宅で軍解散を決定。残存勢力約1000名で政府の多重包囲網を突破した可愛岳の戦いが繰り広げられたという話は鹿児島の郷土史で出てくる。その舞台、実物はこんなところだったのかと感銘を覚え、旅の予定を変更して立ち寄った。

西南戦争当時は茅葺屋根だったであろう屋根こそ近代的な素材に変えられているが、建物は古風な雰囲気を色濃くとどめていた。ここが宮崎県の史跡になったのは戦前、昭和8年のことだそうで、長年にわたって大切に保存されてきたのが幸いしているようだ。

屋敷の広間には西郷隆盛を筆頭に、桐野利秋、村田新八など薩摩軍の主要人物が軍議をひらいている様子が等身大ジオラマで再現されていた。資料展示も豊富で、西南戦争を描いた錦絵の写しや古い時代の風景写真、また西郷隆盛と同じ日数で九州山地を縦断することを試みたイギリス人アラン・ブース氏の話を載せた新聞のスクラップなど、興味深いものが多数。外には「西郷さんの飲んだ井戸」と銘打たれた井戸も。

特徴的なのは、その展示内容が完全に薩摩寄りなことだ。西郷資料館という性質上、ある程度薩摩びいきになるのは自然なことだが、ここの展示はその領域を越え、“西郷愛”に近いものを感じさせるほどだった。

資料館の切符を販売している地元の高齢男性に話を聞いてみたところ、宮崎は薩摩藩とつながりが強かった南部だけでなく北部も薩摩支持の色が濃かったのだという。延岡での決戦前、すでに西南戦争の大勢は決していたのだが、薩摩軍が劣勢ながらも長きにわたって戦いを継続できたのは、民衆から支援を受けられていたことも大きかったのだろう。

その男性は「この集落では毎年、お盆に初盆を迎えた人の遺影を掲げてみんなで盆踊りをする風習があるんですが、真ん中には西郷さんの肖像を掲げます。ずっと昔からの話です。やっぱり西郷さんには親しみがあるんですよね」と続けた。

何とそこまで!! 鹿児島人は西郷隆盛のことを誇りにしているとよく言われるが、現実には言っていることもやっていることも「西郷南洲翁遺訓」に記された言葉や生き様とはかけ離れたことばかりという感がある。それよりはこの延岡の人々のほうがよほど西郷愛に満ちているではないかと、鹿児島人として気恥ずかしさすら感じた次第だった。

ちなみにこの宿陣跡の裏手、可愛岳の裾野は古代神話の主役級のひとり、ニニギノミコト終焉の地とのこと。資料館入口の顔出しパネルは何と、西郷隆盛とニニギノミコトの豪華ツーショットだ。解説には「西郷隆盛はこの可愛岳のふもとであるこの場所で最後の軍議を開き、軍の解散を決意して可愛岳を越え、鹿児島に帰りました。もしかしたら西郷隆盛はここがニニギノミコトの御陵であることを知っていたのかもしれませんね」と書かれていた。

2018年のNHK大河ドラマは「西郷さん」に決まったが、西郷愛を肌で感じたいという場合、まずは宮崎のこの小さな資料館にぜひ立ち寄ってみていただきたい。現代鹿児島人も忘れてしまったものが山のように詰まっている。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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