災害時の非常用電源として役立つEV…V2H・V2Lのしくみと活用法

クルマに蓄えた電気を家庭用電力として利用するV2H

停電時やアウトドアでも頼りになるV2L

V2Hはどのくらいのコストがかかる?

日産 アリア(参考画像)
日産 アリア(参考画像)全 13 枚

世界中が地球の温暖化防止と脱炭素に向けて動き出し、CO2(二酸化炭素)の排出量を減らすことが急務となった。SDGsやカーボンニュートラルなど、環境に配慮した取り組みが活発になっている。今、脱炭素社会に適した乗り物として脚光を浴びているのが、ゼロエミッションのBEV(バッテリー電気自動車)とFCV(燃料電池車)だ。内燃機関と大きく違うのは、燃焼作用を必要としないのでCO2に代表される有害物質の排出をゼロに抑えられることである。新しいパワートレインを積む両車は、クリーンエネルギーを活用して行こうという世の中の流れにも合っているから、一気に数が増えてきた。

モーターにバッテリーを組み合わせたBEVと水素を燃料とするFCVは、内燃機関にはない魅力を持っている。これらの電動車両は「移動可能なバッテリー」だ。V2H(Vehicle to Home=ヴィークルトゥホーム)機能を備えたBEVやFCVは蓄電池としても利用できるのである。災害時の避難所などに横付けして、非常用電源として機能させることが可能だ。エンジンと違って有害ガスを発生しないし、作動音も驚くほど静かだから屋外イベントなどでも周囲に気兼ねすることなく電気機器を使うことができる。

V2H(イメージ)V2H(イメージ)

◆クルマに蓄えた電気を家庭用電力として利用するV2H

BEVとFCVの魅力の1つ、それは「V2Hに柔軟に対応できること」である。V2Hは、BEVなどのバッテリーに蓄えられている電力を、住宅の分電盤とつなぐことによって室内の照明や暖房器具、家電製品などを動かすシステムのことだ。が、その前にBEVは乗り物だから、走らせるためには充電しなくてはならない。家庭用の「交流電気」をBEV用の「直流電気」に変換して充電する。

これとは逆に、BEVに蓄えた電気を家電製品などに給電するためには「直流」から「交流」に変換してあげる必要がある。V2H充放電器の内部に組み込まれたパワーコンディショナーによって変換し、住宅内に設置した分電盤へと給電される。

ちょっと出費はかさんでしまうが、BEVとV2H充放電器を建物や住宅とつなげば、充電と給電の両方を行うことができるなど、魅力は大きく広がるのだ。家庭の電力をBEVに、それとは逆に大容量バッテリーを持つBEVから電力を住宅に供給するなど、電力を自在にコントロールすることができる。BEVなどの電力を家庭用の電力源として利用することができれば、日常の電力を節約することができ、CO2削減にも大きく貢献する。

ニチコン製の充放電器(EVパワー・ステーション)ニチコン製の充放電器(EVパワー・ステーション)

V2Hは、再生可能エネルギーの代表である太陽光発電システムを使って電力を作って蓄電池に貯め、その電気を使って照明や家電製品などを動かすシステムへと発展させることもたやすい。台風や地震などで停電した時などの非常時にもバックアップ電源として活用できる。停電が続いたときでも太陽光発電システムを備えた家なら快適に暮らすことが可能だ。日中は太陽光で作った電力を住宅内に供給し、太陽が沈んでしまう夜間はBEVに充電していた電力を家に給電すれば、長期間にわたって電力を確保することができる。

◆停電時やアウトドアでも頼りになるV2L

BEVやFCVには家庭用機器などの電源となる「V2L(Vehicle to Load=ヴィークルトゥロード)」に対応しているクルマが多い。この機能装備は最新のプラグインハイブリッド(PHEV)などにも搭載され、万一の停電などの時にも頼りになる。一般的な12V電源に加え、家庭で使っている電圧100Vの電源コンセントを搭載しているから車内やクルマの周辺で電気ケトルや調理器具などを使うことが可能だ。その多くは1500W程度の出力まで対応しているから、電子レンジなども使えるだろう。

トヨタ bZ4XのAC100Vコンセントトヨタ bZ4XのAC100Vコンセント

走行中に電力を使えるシーンよりも便利だと感じられるのは、停まっている時だ。アウトドアレジャーで使えるし、自然災害などに見舞われて停電した時の非常用電源としても大いに役に立つ。その実力は高く、バッテリー容量の少ない『ホンダe』や日産『リーフ』の40kWh仕様でも、貯め込んだ電気で一般的な家庭の3日分の電力をまかなう(1日の家庭の消費電力を約10kWhとして計算)ことができる。日産『アリア』(66kWh)やトヨタ『bZ4X』(71.4kWh)などバッテリー容量の多いモデルならより心強い。また、可搬型の外部給電器を追加すれば、BEVを介して多くの電気機器に電力を供給することが可能だ。

V2HとV2Lは日産『サクラ』やマツダ『MX-30』など、日本製BEVのほとんどが搭載しており、PHEVにも採用車が増えてきた。海外勢でもヒョンデ(韓国)やBYD(中国)、メルセデスベンツ(ドイツ)などのBEVに搭載されるようになっている。

◆V2Hはどのくらいのコストがかかる?

ちなみにBEVや住宅とつなぐことができるV2H充放電器は40万円台からあり、家庭用の蓄電池や太陽光発電装置なども選択肢が大きく増えてきた。ただし、工事費と設置スペースがそれなりにかかる。また、設置には申請が必要だ。大がかりな機器なので工事を含めた設置費用をトータルで計算すると100万円を軽く超えてしまう。

が、エネルギー危機が叫ばれていることもあり、V2H充放電器、家庭用蓄電池ともに経済産業省や自治体からそれなりの額の補助金が出ている。改築や新築などの予定がある人、BEVの購入を考えているという人は、V2Hの導入を検討した方がいいだろう。電力需要の平準化にも大いに役に立つ。

最近は地震や台風などの災害が増えてきたし、火山活動も活発だ。大規模ではなくても災害時には停電などで電源が落ちるだけでなく通信手段も立たれる可能性が高い。そういったときにも、V2H機能を備えたBEVとFCVは頼り甲斐のある相棒になってくれる。

V2H(イメージ)V2H(イメージ)

《片岡英明》

片岡英明

片岡英明│モータージャーナリスト 自動車専門誌の編集者を経てフリーのモータージャーナリストに。新車からクラシックカーまで、年代、ジャンルを問わず幅広く執筆を手掛け、EVや燃料電池自動車など、次世代の乗り物に関する造詣も深い。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

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