「電話で119番」は本当に最適か? フライトドクターめざす中学生が突きつけた現実【岩貞るみこの人道車医】

日本臨床救急医学会「学生の救急通報に関する認識とスマートフォンアプリケーションによる救急通報の可能性」動画より
日本臨床救急医学会「学生の救急通報に関する認識とスマートフォンアプリケーションによる救急通報の可能性」動画より全 8 枚

目の前に傷病者がいたら救急車を呼ぶ。電話で119番だ。けれど、電話が一般的な通信手段だと信じているのは大人だけではないだろうか? そう考えたのは、福岡県の西南学院中学2年生(当時)の小田向日葵(おだ・ひまり)さんである。

ドラマ「コード・ブルー」を見てドクターヘリで傷病者のもとへ飛んでいくフライトドクターを目指す小田さんは、医療監修&撮影現場にもなった日本医科大学千葉北総病院が開催するドクターヘリの見学会に参加。医師になる決意を強くする一方で、その場でフライトドクターが言った「小中学生のみんなは、傷病者への処置より、一秒でも早く救急車に来てもらうことに注力して」という言葉が心に残る。そして、119番通報を、もっと小中学生でも使いやすいものにできないかと考えたのである。

電話で119番通報をするほかに現在は、スマホを使った映像通報システムである「LIVE119」が開発され、導入する自治体が増えてきた。スマホから119番通報をすると、消防指令室からショートメッセージで動画撮影用のURLが送られてくる。これを使うと傷病者を映しリアルタイムで指令室に見てもらえるというものだ。

ただ、このシステムには問題がある。通報したあとショートメッセージが送られてくるのを待ち、記載されたURLをタップしてブラウザを立ち上げて……とやることが多いのだ。さらに動画は、こちらから一方的に送るだけで双方向通話はできない。指令室と話をするためには、別のサイトを立ち上げなければならず、小中学生が(いや、大人でも)傷病者を前に迅速に行うにはハードルが高いのである。

「きっと、私のまわりの生徒たちも、今の119番通報が使いにくいと感じる人は多いのではないか。もっと簡単に動画通報ができるアプリがあればどうだろう? 小中高校生のリアルな声を知りたい。」

そこからが小田さんの行動力である。言葉で「こんなアプリ」と説明するよりも、実際にあったほうがわかりやすいと考え、すぐに制作に着手。3か月かけて、『119番通報アプリ』を完成させた(注・実際には消防に接続することはできない)。ホーム画面から2タップで通報でき、しかも、自分たちが慣れ親しんでいるLINEビデオ通話のように、相手の顔も映し出される2画面で、双方向のビデオ通話ができるものだ。画面は、自分自身が傷病者であることも想定して、インカメラへの切り替えも可能になっている。

2022年6月~9月。西南学院の先生たちに協力してもらい、西南学院小学校6年生70人、同中学生640人、同高校生495人、合計1205人にアンケートを実施し、803人(回答率67%)から回答を得た。

(1)緊急通報の経験の有無は?
36人が経験あり。

(2)傷病者を目の前にしたときの気持ちは?
救急車を呼びたい=78%
場所を伝える自信がない=32%
通報に不安あり=24%
逃げたい=8%など。

(3)『119番通報アプリ』で通報できるなら使う?
使いたい=78%

(4)その理由は?
状況をくみ取ってくれそう=64%
場所が伝わりそう=55%処置を身振り手振りで教えてくれそう=53%

(5)アプリ機能で他に欲しいものは?
チャット形式の文字通信、会話の自動字幕化、救急車の動体マッピング機能など。

119番通報の経験があると答えた生徒は803人中36人とかなり多く、今後は子どもが通報者となる状況を考えて制度を整えていく必要性を強く感じる。そして、回答にあった「場所を伝える自信がない」は、行動範囲の狭い子どもならではの感情だといえる。アプリへの期待として、「状況をくみ取ってくれそう」「処置を教えてくれそう」が上位にあるのは、通報者の「孤立したくない」「ひとりだと怖い」という恐怖感の現れのように思える。その証拠が、「逃げたい」という意見が出ていることだろう。そう、119番通報は勇気がいる。子どもなら特にだ。


《岩貞るみこ》

岩貞るみこ

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家 イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。著書に「ハチ公物語」「しっぽをなくしたイルカ」「命をつなげ!ドクターヘリ」ほか多数。最新刊は「法律がわかる!桃太郎こども裁判」(すべて講談社)。

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