3Dマップで交通事故の実況見分がなくなる? その可能性と課題とは【岩貞るみこの人道車医】

次世代 高精度3次元地図データイメージ
次世代 高精度3次元地図データイメージ全 2 枚

高精度3次元地図データ、略して(ここでは)3Dマップ。自動運転には欠かせない技術で、ダイナミックマッププラットフォーム(株)が作った3Dマップは、2019年に日産『スカイライン』(プロパイロット2.0)に採用されたほか、2021年に世界初のレベル3を実現したホンダ『レジェンド』にも組み込まれている。

3Dマップは車両にGPSアンテナ、レーザースキャナー、カメラなどを搭載し、走りながら周囲の物を、位置情報を持った点の集まりとしてとらえてそのデータを集め、さらに、必要なときは人による現地測量を併用して作り上げていく。こうして作られた3Dマップでは、道幅やセンターラインはもちろん、周囲の建物や標識、ガードレール、高速道路の分岐部分にあるクッションドラムの高さまで測ることが可能だ。その誤差は1cm程度という正確な立体地図である。

ダイナミックマッププラットフォーム(株)では、2023年現在、高速道路や自動車専用道のほか直轄国道の計測も行い、全8万kmに及ぶ地図データを保有。今後は主要地方道に取り組んでいくといい、つまり、自動運転状態で走れる道が増える可能性が広がるということだ。また、3Dマップは車両に組み込まれるだけでなく、地図状態のまま、さまざまな事業に活用することも可能だ。

◆交通事故調査に3Dマップが活用できる可能性

1cm単位で正確な地図。ということは、交通事故調査にも活用できるのではないか?

そう考えたのは、交通事故関連を専門とする弁護士軍団である。その中のおひとり、前々回のこのコラム「交通事故とEDR」でもご登場いただいた、損保会社の元顧問弁護士、もみのき・友近法律事務所の友近直寛氏に聞いてみた。

友近先生(以下、友)「我々が期待しているのは、実況見分調書の代わりにできるのではないかということです」

----:実況見分って、交通事故のあと加害者を現場に連れて行って、現場検証をするというやつですね。

友「そうです。そのときに、警察官が道幅を計測し、信号機の位置などを確認していくんですが……」

----:通行止めにしたり車線規制したりして、巻尺を伸ばしているやつですね! あれ、迷惑ですよね! 道幅なんて事前に測っておけと心の底から思います! 特に高速道路!

友「そうなんです。正確で立体的な3Dマップがあれば、毎回、現場で巻尺を伸ばさなくても、道路環境、つまり、道幅や障害物までの距離、障害物の高さなどの把握が可能になります。あの作業はもっと簡単にできるのではないかと」

----:簡単にしてください! 高速道路で車線規制しなければ、にっくき渋滞がなくなります。

友「渋滞が発生しなければ、それを起因とする追突事故も起こらないし、経済効果も高まるし、二酸化炭素の排出量も減らせるわけですよ」

----:いいことだらけじゃないですか。すぐに、やりましょう!

友「ただ、まだ問題があるんです。例えば、高速道路ではNEXCOなどが、路面工事をして車線を引き直したり、標識を建てたりしますよね。ダイナミックマッププラットフォーム(株)によると、そうした工事のあと、車両を走らせて情報収集するまで数カ月遅れることがあり、タイムラグができるんです」

----:その間、事故が起きたら、実際と地図情報が違っちゃうということですか。

友「はい。実況見分調書として使えません。問題はそれだけでなく、地図上にどうやって車両位置を再現するか、その方法も確立されていないんです」

◆「再現」の課題と、今できる鑑定方法

----:再現方法とは?

友「3Dマップ上に加害車両と被害車両の正確位置をあてはめなければならないんですが、加害者と被害者、目撃者の証言、EDR(イベントデータレコーダー)に記録された速度などの情報、防犯カメラやドラレコの映像を参考にしても、正確な車両の位置を出すための方法や基準が確立されてないんですよ」

----:勝手にここだと決めるわけにはいかないですもんね。では、まだ3Dマップは使えず、通行止めをして警察官が巻尺を持って走り回ることになるんですか。


《岩貞るみこ》

岩貞るみこ

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家 イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。著書に「ハチ公物語」「しっぽをなくしたイルカ」「命をつなげ!ドクターヘリ」ほか多数。最新刊は「法律がわかる!桃太郎こども裁判」(すべて講談社)。

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