伊予鉄グループの取り組みを知る上で欠かせないのが、地方の公共交通システムと経済の密接な関わりである。
モータリゼーション以降、マイカー所有率が上昇し、交通システムにおけるクルマ依存度が高くなった。この傾向は地方において特に顕著だ。大都市圏以外に住む人ならわかると思うが、地方の経済は駅ではなく幹線道路沿いに展開しており、「クルマでしか行けない商業施設」は現在も増加している。
地方におけるクルマ依存の高まりは、一方で公共交通を衰退させる。これは伊予鉄グループでも同様であった。
「平成12年度までで見れば、バスの利用者は最盛期の14%、7分の1以下にまで減ってしまった。鉄道の利用者についても(最盛期の)50%ダウン。(伊予鉄グループの公共交通事業全体で)毎年4〜5%ずつ利用が減っていくという状況にあった。当時、伊予鉄グループの鉄道・路面電車・バスで、毎年 3〜4億円の赤字が出るという状況で、その分を不動産事業や百貨店事業、航空代理店事業で穴埋めするという構造だった」(西野元・e-カード常務取締役)
公共交通部門の赤字を他部門が補填する。これが企業としての伊予鉄グループにとって死活問題であるのはもちろんだが、本質的な問題は「都市部の空洞化、地元経済の衰退という構造的な問題の方が深刻」(西野氏)だったという。
「モータリゼーションの進展により、道路がよくなり、クルマの所有台数が増えた。駐車場が整備された郊外型店舗が増える。大規模デベロッパーによる郊外の開発が進むことで、クルマの方が便利になり、公共交通離れが加速していく。これは地方都市の中心部から(大規模駐車場がある郊外型ショッピングモールに)人が離れてしまう事でもあります。同じベクトルで、公共交通の利用者も減っていくわけです」(西野氏)
まさに悪循環である。モータリゼーションによるクルマ依存社会が、経済の仕組みを“クルマありき”に変えた。道路沿いに大規模チェーン店舗が連なる「ロードサイド型」や、飛び地のように大規模店舗が点在する「ショッピングモール型」といった郊外型経済の誕生である。一方で、公共交通と徒歩で訪れる地元商店街を中心とした「地域経済」は、郊外型の大規模開発や全国チェーンの荒波に飲み込まれてしまった。
モータリゼーション以降、「クルマ依存社会」の到来がもたらした、それが地方の現実である。
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※「『おサイフケータイ×公共交通』から拡大する新たなるビジネスの胎動」では、e-カード常務取締役である西野元氏によるサービス開始後の最新事情や今後の展望についての講演、ジャーナリスト神尾寿によるITS最新事情のレポート、パネルディスカッションなどが行われます。