「なんだ(!?)この鋭い切れ込みかたは…」。写真撮影のため、福井さんを前にして『i』(アイ)を移動してもらった。フロントタイヤがズバッと切れ込んだその姿を眼前に、筆者は身震いしてしまった。
福井さんはさりげなくいう。「長さと幅は絶対的に“軽”になる。その中で室内を極力広く取りたい。安全もシッカリ確保したい。デザイナーが勝手に思い込んだラインを素直に実現したらどうなるのか? いろいろな思いを突き詰めていったら、こうなったのです」
全長3395mm。ホイールベースは2550mm。これは「eK」シリーズより210mm長い。福井さんが続ける。「デザイナーには今回、細かなリクエストはしなかった。デザイナーが本当に描きたいものが欲しかったのです。(一般的にデザイナーは)ボンネットはこうあってガラスがあって、この商品の狙いはこうで、という標準的な線を要求されてきた。デザイナーたちがトライしてきたデザインスケッチの中に、ガンダムチックなモノあれば、優麗なラインのモノもあれば、いろいろあった。その中のひとつに、この提案がありました」
では、エンジンの搭載位置はデザインの結果の必然だったのか? 「いえ、いろいろな意見の結果です。パッケージ面から、“軽”というのが市場でどういう受け取られているのか? 議論しました。それは“妥協の産物”でした。つまりこれまでは、幅がこれで長さがこれで、室内はこの広さしかないのだ。しかし、本当にエンジニアリングで突き詰めれば、もっと(室内は)大きくとれるのでは? と、どこのメーカーもエンジニアも思っていたはず。やろうと思えばここまでできる。そしてデザイナーもやろうと思えばここまでできる」
「衝突に関しては、大きなクラッシャブルゾーンを取りたい。そうした各部門の目的に従って要求を並べていって、ホワイトボードに書いていって、これを達成するためには、どんなメカニズムがいるのか、どんなレイアウトがいるのか? その中での集約した結果がこうなったのです」
こうして生まれた近未来的なデザイン&パッケージは“軽”の常識を超越していた。(つづく)