フォルクスワーゲン『ゴルフGT TSI』の1.4リットルTSIエンジンの最大の特徴は、スーパーチャージャーとターボのふたつの過給器を協調制御することで、低回転から高回転まで段付きなしにブーストをかけるという、新しい過給システムだろう。
スーパーチャージャーはふたつのローターを噛み合わせて空気を圧縮するルーツ・ブロワーだ。近年脚光を浴びているツインスクリュー式のリショルム・コンプレッサーに比べると性能は落ちるが、ローターを三葉のスパイラル型にするなどの改良が加えられており、昔のルーツ式に比べて大幅な高回転化を実現している。ターボのほうは固定ジオメトリーの大風量型だ。
ふたつの過給器の役割分担はおおむね、ターボは低回転からレブリミットの7000rpmまでの全領域で過給、スーパーチャージャーはターボのブーストがフルにかからない低回転から中回転域で過給するというイメージだ。低速から一気に過給を立ち上げるため、スーパーチャージャーとエンジンのクランクシャフトの回転比は5:1固定と、通常の機械式過給に比べてかなりの高回転型。
もちろんそれでエンジンを高速回転させると壊れてしまうため、中速域以上では電磁クラッチを切り離して回転を止める。カットアウトの回転数は低負荷の2400prmからフルスロットルの3500rpm(スーパーチャージャーの回転数1万7500rpm)まで連続可変で、停止中は吸気は別経路を通る。
ターボはアイドリングからブーストを開始するが、1.4リットルという小排気量エンジンに大風量タービンを組み合わせているため、低速域ではフルブーストにならない。2000rpm台まではスーパーチャージャーの過給に助けられながらブーストが立ち上がり、ターボが充分に作動する中、高回転域ではターボ単独で過給する。
高過給圧と高回転の苦手なルーツブロワーと、低回転が苦手な固定式大風量タービンそれぞれのデメリットをお互いの長所で補い合いつつ、トルクをシームレス(つなぎ目なし)に発生させる協調制御を実現させたことが、フォルクスワーゲンが手にした最大のキーテクノロジーだ。
また、ふたつの過給デバイスはそれぞれ、リショルムコンプレッサーや可変ジオメトリーターボに比べて価格が安く、ツインチャージャーでありながらコストアップの幅を抑制しているのも特徴だ。