【神尾寿のアンプラグド】2011年に向けて動き出す「周波数獲得」合戦(後編)

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2011年に行われる周波数再編で、アナログテレビ終了後の跡地利用をめぐって様々な業界・企業が周波数獲得合戦を繰り広げている。その中でも注目なのはビジネスでの運用がしやすい700MHz帯の動向だ。

すでにクアルコムジャパンを始めとする「MediaFLO」の推進グループが獲得に向けて前向きなほか、昨年11月29日に設立が発表された「マルチメディア放送企画 LLC合同会社」(MMBP)もISDB-T方式によるモバイルマルチメディア放送で同様の狙いを持っている。携帯電話キャリアと放送局がタッグを組み、この新たな周波数の獲得に動き出している。

◆トヨタが中心となり、「周波数を獲りに行く」!?

2011年の周波数再編に向けて、自動車業界でも「周波数を獲りに行く」動きが見え始めた。その中心にいるのは、トヨタだ。

現在、自動車業界が専用で使える周波数はETC/DSRCが使う5.8GHz帯と、ミリ波レーダー用の66GHzと77GHzである。しかし、これらは狭域通信や近距離測距用として割り当てられた周波数なので、クルマ同士が通信する「車車間通信」やクルマ向け情報サービスの「テレマティクス」では使いにくい。

自動車業界では一時期、車車間通信やテレマティクスなどITS用途として、携帯電話インフラが無料もしくは低価格の定額でキャリアから“開放”されることに期待する向きがあった。しかし3Gが全盛の今になっても、携帯電話インフラの通信料はクルマ向けとして使いやすい料金体系になっていない。

特に先行して商用化したテレマティクスでは、その登場当初からボトルネックになっていたのが、携帯電話との接続と通信料金の問題だ。誤解を恐れずに言えば、現在の携帯電話各社のビジネスモデルと通信サービスは、“クルマ向け”として使うのに不向きなのだ。

一方で、クルマが自由に使えるモバイル通信インフラの需要は高まるばかりである。プローブカー/フローティングカー、車車間通信、路車間通信を使ったインフラ協調型安全システム、デジタル地図の差分更新など、“クルマが繋がる”必要性は増している。特に先進安全分野での通信利用とデジタル地図の差分更新のニーズは高い。そこで、クルマ向けの新たな通信インフラを持つという考えが広がり始めているのだ。

特にトヨタは、自動車業界が「新たな周波数」を手に入れて、独自の通信インフラを構築するという考えを強く持っているようだ。昨年6月に発表された総務省の「VHF/UHF帯に導入を計画又は想定している具体的システムの提案募集の結果」では、トヨタ自動車が「インフラ協調安全運転支援システム」、デンソーが「車車間通信システム」として提案を行っている。

◆ASV開発計画メンバーに広がるかが鍵

今のところ、自動車業界からの新周波数獲得の動きは、ITSに特に熱心なトヨタグループが目立つ。しかし筆者は、トヨタが旗振り役になることで、自動車メーカー全体に周波数獲得の機運が広がる可能性があると見ている。

そこで注目なのが、国土交通省のASV(先進安全自動車)の開発計画に携わった国内の乗用車・商用車・二輪車メーカー11社の「横のつながり」だ。ASV開発計画の第三期(ASV-3)において、この11社は5.8GHz帯のDSRCだけで車車間・路車間通信を実現する難しさを感じていた。また安全目的以外でも、プローブカーやデジタル地図差分更新などのニーズがあることを鑑みれば、総合的なクルマ向け通信インフラの構築にむけて、国内11メーカーがまとまるシナリオは充分に考えられる。

むろん、自動車業界による周波数獲得の前には、「全国規模でのインフラ整備・サービス運用を誰が行うのか」、採算性やエンドユーザーのコスト負担も含めた「ビジネスモデルをどう描くのか」といった課題がある。特に後者が不分明であることは、携帯電話会社と放送局のタッグに比べて不利な要素だろう。

先進安全システムやテレマティクスなどの情報サービスを普及させる上で、新しい周波数と通信インフラが必要だという議論は、間違ってはいない。トヨタがその獲得に向けて積極的に意見を述べていることは、評価できるだろう。

現在、総務省が事務局を務める電波有効利用方策委員会では、各方面からの提案が32まで集約され、昨年10月に大きく6つの作業班に類型化されたところだ。その中に「ITS関連システム」は残っている。

今後、自動車業界が周波数獲得合戦において重要なプレーヤーになれるかは、「トヨタ以外の自動車メーカーが周波数獲得に賛同し、まとまるか」と、周波数獲得後の「普及プロセスを踏まえたビジネスモデルが描けるか」にかかっている。

2011年の周波数再編に向けた趨勢は、今年中にほぼ見えてくるだろう。自動車業界としても注目のトピックスである。

《神尾寿》

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