イヤーカーとなったトヨタ『iQ』は、軽自動車のある日本では価値の見えにくい部分もありますが、その存在はコンパクトカーの価値や概念を変えていくきっかけになると期待しています。今後は、たとえばCO2ベースの税制への移行などといったことも議論されてこなければならないはずです。
インポート・カー・オブ・ザ・イヤーのシトロエン『C5』は、何と言っても“ハイドロ”の優しい乗り味が魅力。以前ほどではないにしろ癖のあるクルマではありますが、他には代えられない価値があります。決してメジャーな存在ではないですが、この賞をが、それに触れる人を増やす契機になれば、素敵なことだと思います。
以下に、2008 - 2009日本カー・オブ・ザ・イヤーに於ける私の配点と、その理由を記します。
一応、補足しておきますが、これは今年の、ではなく今年度のプライズです。iQのような発表直後、発売前のクルマが入っているのは、今年2008年を代表するクルマという評価ではなく、2009年に向けて大きな価値をもつモデルだという意味だと解釈しています。念のため。
●日産『GT-R』:10点
開発の目的、目標がクリアで、すべての技術がそれを実現するために妥協が無いことと、そのパフォーマンス、世界に与えたインパクトの大きさを評価しました。最後までiQと迷いましたが、こちらを10点にしたのはGT-Rは自分で実際に購入したから。その責任をとって、というところです。
●トヨタ『iQ』:9点
GT-Rと同じくコンセプトが明快で、そのために用いられたパッケージングやテクノロジーも大いに注目に値するクルマです。今後の軽自動車を含むコンパクトカーに与える影響も大きいはず。たとえば、これより燃費の悪い軽自動車に、税制面で優遇する根拠があるだろうか? という話です。
●アウディ『A4』/『A4アバント』:3点
デフの位置を前方に移動させ、前輪位置を前出しした画期的なパッケージングは、乗り心地の面でも走りの面でも、大きな躍進に繋がっています。特にフルタイム4WDのクワトロの驚異的な走行安定性を、大きく評価するものです。
●ジャガー『XF』:2点
技術的に新しさはありませんが、その走りの調律ぶりは、クルマを操ることの楽しさ、感動を改めて深く実感させるものです。そうした従来のジャガーらしさと、斬新なインテリアの革新的なジャガーらしさの融合ぶりには乗るたび感心させられます。
●ダイハツ『タント』:1点
現行の軽自動車規格については、そろそろ限界を感じている面はありますが、その中では広さ、使い勝手と断トツのバリューをもっているクルマだと思います。
●特別賞
「MostFun」はフィアット『500』。痛快な走りだけでなくデザイン、インテリアの雰囲気など周囲までファンな気分にするクルマです。
「Best Value」はホンダ『フリード』。小さなサイズで3列シートを実現し、各席の居住性も納得の行く仕上がりです。但し近い将来の人数分のヘッドレストと自立式シートベルトバックルの設定を望みたいとは思います。
「Most Advanced Technology」は日産GT-Rを選びました。『エクストレイル』の「20GT」クリーンディーゼルも悩んだのですが、世界に発信するプライズにGT-Rが入らないのは…と思い、こういう結論に至りました。
島下泰久│モータージャーナリスト。
クルマの基本である走りの楽しさから、それを取り巻く諸々の社会事象、さらには先進環境・安全技術まで、クルマのある生活を善きものにするすべてを守備範囲に、専門誌から一般誌、各種ウェブサイトなどに執筆。著書に『極楽ガソリンダイエット』(二玄社刊)。