『フォレスターtS』は、スバルテクニカインターナショナル(STI)が手がけたコンプリートカーだ。フォレスターのラインナップで最も尖ったモデルである「S-EDITION」に対し、足回りを強化する各種パーツを装着して運動性能をアップさせたモデルとなる。
「STIが手がけたモデル」と聞くと、真っ先に思い浮かぶのは「速いんだろうな」というイメージだ。『インプレッサ』にしても『レガシィ』にしても、STIが手がけたクルマはとにかくスポーティな印象が先立つ。その一方で「ガチガチに固められていて、運転しにくいのでは?」、「日常的な使用には不向きでは?」というマイナスイメージも同時に思い浮かぶ。
ところが実際に試乗してみると、このマイナスイメージは一気に払拭された。試乗した日は季節外れのゲリラ豪雨に見舞われたのだが、フォレスターtSはまるで路面に吸い付くような、非常に安定した走りをみせてくれたのだ。大雨で視界が失われる中、真っ先に思ったのは「このクルマなら怖くない」ということだった。
STIの車両実験部に所属し、フォレスターtSの足回りを担当したエンジニア、坂田元憲さんは「エンジンとトランスミッションはベース車のものを使っており、STIが手を入れたのはダンパーやスプリング、タワーバーなど、操縦安定性に直結するアイテムとなります。STIのクルマづくりのコンセプトである“Sport, Always!”を継承しているのはもちろんですが、フォレスターtSはレガシィやインプレッサなどとはチューニングの方向性が若干異なります」と説明する。
レガシィやインプレッサと、フォレスターの違い。それは車高の高さだ。SUVであるフォレスターはインプレッサやレガシィよりも重心が高い位置にあるため、カーブを進行したり、レーンチェンジをした場合にロールを生じさせやすい。運転者はともかく、同乗者にとってはこのロールが不安要素のひとつとなっていた。フォレスターtSでは「同乗者に不安を感じさせない」ということを強く意識し、ロールを感じさせないチューニングを施したという。
「専用コイルスプリングを使用して車高を15mm落とし、タイヤの性能を引き出すことを目的に、接地荷重を安定させるためのパーツをフロントとリアの両方に装着しています。開発中にベンチマークとしたのはBMW『X3』ですが、これらパーツを装着したことによって、フォレスターtSは輸入プレミアムSUVに負けないハンドリングを実現しています」(坂田さん)
フォレスターtSは大きなクルマなのだが、ドライバーの意のままに動く。的確に決まるハンドリングは「自分の運転が上手くなった」と錯覚させるほどのものだが、クルマが大きいのでムチャはしにくい。自然とスムーズな運転をするようにくるし、そういう運転をすることにより、非常に乗り心地の良いクルマだとも感じてくる。
「カーブへ進入する際、同乗者に不安を感じさせないことを主眼において開発しているので、フォレスターtSはSTIのコンプリートカーとしては初めて“安全”がテーマになったクルマかもしれません」とも坂田さんはいう。