【トップインタビュー】ダイハツ工業・伊奈功一社長…『ミライース』で軽の原点に戻る

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ダイハツ工業 伊奈功一社長
ダイハツ工業 伊奈功一社長 全 12 枚 拡大写真

ガソリン車最高の30km/リットル(JC08モード)という圧倒的な燃費の『ミライース』を市場投入したダイハツ工業の伊奈功一社長。廉価グレードでは80万円を切る価格とともに、2年前から半ば公約と化した開発目標をクリアした。経済性・省エネ・省資源といった「軽自動車の原点」に回帰することで軽トップメーカーとして、またトヨタ自動車グループで担務する「小さなクルマ」メーカーとしての存在感を磨き上げていく。

《インタビュア:池原照雄》

●ターゲットは「HV並み燃費を半分の価格で」

----:国内外の生産の回復状況ですが、6月に発表した今年度売上計画の約132万台(受託車、OEM供給車含む)は達成できそうですか。

伊奈:ほぼその計画どおりに進んでいます。軽自動車はもともと部品調達の影響が少なかったこともあって、その線で行けるかなと見ています。

----:6月時点の今年度業績予想では連結営業利益を前年度比18%減益の850億円としています。生産が順調であれば上ブレの可能性もありますね。

伊奈:9月20日に発売した『ミライース』の販売状況によりますね。私は大変期待しておりますが、まだ業績予想を修正する状況ではありません。ミライースの反響によって変わってくることになると思います。

----:そのミライースですが、あらゆる技術を動員して「第3のエコカー」にふさわしい燃費性能と軽自動車に求められる低価格を目標どおりに実現しました。

伊奈:このクルマで軽自動車の原点に帰りたいというのが一番の想いです。軽は日常の足として、やはり燃費がよくて価格が安くて使いやすい――こういう軽の原点に戻りたいと。われわれは『タント』のようなクルマも造ってきました。これはこれでお客様に大変支持をいただいています。タントは居住空間を訴求しましたが、安くて燃費のいいクルマに振って、本当にシンプルな軽を追求しようと取り組みました。

ハイブリッド車(HV)の価格が段々下がっていますし、登録車の燃費も良くなってきているというなかで、ひと言で表現するなら「HV並みの燃費をHVの半分の価格で」という高いターゲットを掲げてやってきたのです。そうしたクルマを造ることが、軽の原点に戻ることでもあり、日常の足として皆さまに使っていただけることにつながります。ミライースは、国内の自動車市場に大変大きなインパクトを与えることができると期待しています。

●「設計素質」が最もいいクルマを造ろう

----:技術陣も相当頑張ったということですね。

伊奈:ええ。今までの軽の設計を根本から見直そうということでした。いわゆる「設計素質」が最もいいクルマを造ろうということで、最初の段階から見直したことが一番大きく燃費や価格に寄与することになりました。

設計素質というのは、安全性能をベースにしながら、部品の構造や点数、素材はこれで良いのかと、設計を原点から見直すことです。性能を満足させながら、造りやすさまでも含めて、いわば「いい図面」を書くということです。原価低減には調達も重要ですが、やはり設計素質を良くするということが一番ですね。

----:軽の工場としては最先端のラインと定評のある大分の中津工場(ダイハツ九州大分工場)で造ることが価格や品質面にも寄与しているのでしょうね。

伊奈:大分の工場は世界的と言っていいほど、非常にシンプル、スリム、コンパクトになっていまして、いわゆる「造りやすい工場」です。ここで生産するのは大変意義のあることで、このクルマの目標を達成するうえでも大きく寄与しています。

----:ミライースに採用した開発手法や技術を「イーステクノロジー」と呼んでいますが、このテクノロジーは今後、どのように展開されますか。

伊奈:イーステクノロジーについては、これからはあらゆる軽自動車、そしてインドネシア、マレーシアで造っているクルマにも展開していきます。ただ、すべての軽がリッター30km走るということではありません。たとえばタントみたいな居住空間が大きく、スライドドアも使っているクルマは重量がありますから。

----:海外では今年7月のジャカルタモーターショーで現地向けのコンパクトモデル『A-Concept』を発表しています。このクルマにも応用されるということでしょうか。

伊奈:A-Conceptはミライースそのものではありません。基本的にはインドネシアに特化したクルマで、インドネシアの人々に受け入れられるということを大前提にしています。

そうしたコンセプトのなかでも、イーステクノロジーで入れられるものは徹底して入れていこうという方針です。ただ、インドネシア特有の仕様などもありますので、すべてが展開できるわけではないのですが、軽量化やエンジンのフリクションロスの改善など、極力導入しようと考えています。

----:インドネシアではトヨタブランドのクルマも生産しています。A-Conceptも供給することになりますか。

伊奈:まだA-Conceptそのものが、文字通りコンセプトの段階ですから、現時点では何も決まっていません。商品化もできるだけ早くとは思っていますが、まだ詳細な時期までは決定していません。

----:ダイハツのOEM供給によるトヨタの軽自動車販売がスタートしました。トヨタへは3車種投入時で年6万台ということですが、量が少ないなという感じです。

伊奈:まだ始まるところですから…。われわれ、3車種6万台というのは契約で決めているものですし、それをいま、変えるつもりはありません。

----:軽のOEMでは、2012年春に富士重工業が全面的にダイハツからの調達とする予定です。供給力は大丈夫ですか。

伊奈:それはほとんど心配していません。ダイハツ全体で見ればミライースが加わり、(増加する)OEMを含めても、今の体制で供給力は十分あると見ています。

●インドネシアはフル稼働で年50万台体制へ

----:経営の重要課題に「調達改革」を挙げていますが、どのような取り組みをされ、また進捗状況はいかがでしょう。

伊奈:調達改革では、オープンでフェアという従来の方針を基に日本全国および海外で新しい取引先を開拓し、われわれのメリットがある企業さんとは、お付き合いを始めようと取り組んでいます。ミライースの場合ですと、国内での新規の調達先は14社となっています。

また、今まで取引があるものの新しい部品でも取引が始まったというケースが18社くらいあります。さらに中国、韓国、東南アジアといった海外の調達先も新たに数社加わりました。先ほどの「設計素質」と調達の改革をペアになって進めることが重要なんですね。

----:最大の海外生産拠点であり、需要の伸びも高いインドネシアでは、2012年末に稼働予定で年10万台の新工場に着工しました。

伊奈:新工場は計画どおりに建設を進めています。既存工場の能力も(年初の年28万台から)現時点で33万台に引き上げましたので、新工場が完成すれば43万台となります。これは「2直定時」での能力ですからフルに残業すれば50万台くらいまでは行けるかなと思っています。

----:トヨタ向けも含め、当面の需要増には対応できますか。

伊奈:ええ、新工場が完成すれば、今のペースの需要増には対応できると考えています。

----:インドネシアの新車需要は今年80万台から85万台の見込みで、ASEANではタイを抜いて最大となりそうです。長期的には一段の能力増も必要になりそうですね。

伊奈:新工場の用地はまだ余っていますから、時期を見ながら(能力増を)やっていくことも考えるようになるでしょうが、今の段階では、まだ具体化はしていません。インドネシアは急激に市場が拡大していますが、こういうのは一直線にずっと行くということは余りありませんので、減少局面も考えていかねばなりません。

●グローバルで活躍できる人材を

----:今年6月にはインドネシア法人(AMD=アストラ・ダイハツ・モーター)のスディルマン・M・ルスディ社長をダイハツ本体の取締役に起用しました。海外工場では自立化も課題ですね。

伊奈:極力、自立化を進めたいと考えています。部品も現地調達を増やしていますが、人材もできるだけ向こうの方でやっていただこうと。スディルマンさんはずっとAMDに勤めていただき、能力はもちろんのこと、人望も厚い素晴らしい方で、AMDを引っ張っていただくにふさわしい方です。また、AMDとマレーシアのプロドゥア社との連携もさらに進めていきたいと考えています。

----:その両国の拠点は、トヨタグループのアジア事業推進という観点でも重要ですね。

伊奈:われわれはトヨタグループのなかで、最も小さいクルマでの役割を担っているわけです。その分野で燃費性能など存在感を示すようなクルマを造っていくのがダイハツの使命と思っています。この地域でも、もっともっと貢献できるように取り組んでいきます。

----:今後、ダイハツをどう引っ張っていかれますか。

伊奈:われわれは小さいクルマをピンポイントにしており、これからもそこに重点志向していきます。ミライースのような商品を送り出すことができたのは、これまでの生産改革や調達改革への取り組みの成果を示すことでもあり、大変素晴らしいことです。

ただ、グローバル化という点では、主にはインドネシアとマレーシアですから、企業全体として外を見る眼が少なかった。そういった点では、世界全体を見渡しながらグローバルで活躍できる人材も育てていきたいと思っています。

伊奈功一(いな・こういち)
1973年名古屋工大大学院修了、同年トヨタ自動車工業(現トヨタ自動車)入社。98年元町工場機械部長などを経て2002年取締役に就任し本社および元町工場長。03年常務役員に就き高岡工場長、堤工場長などを歴任。07年専務に就任し生産企画本部長・製造本部長およびグローバル生産推進センター長。09年ダイハツ副社長に転じ車両開発や品質、生産企画・製造など技術部門全般を統括。10年6月に社長就任。オフはゴルフ、スキー、スキューバダイビングを楽しみ英気を取り戻す。愛知県出身、63歳。

《池原照雄》

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