作業用アームロボットも実戦への投入に向けてテストが行なわれているが、実はホンダ『ASIMO』の技術はすでに実戦投入されていた。それはオートバイの世界選手権MotoGPで走らせているワークスマシン「RC212V」だ。
800ccの排気量から210ps以上を絞り出すエンジンには、F1GPで培われたテクノロジーが注ぎ込まれているのだろう。そのエンジンのパフォーマンスを無駄なく発揮させるためにASIMOのテクノロジーが使われているのだ。
具体的には姿勢角センサーというパーツがマシンに組み込まれ、走行中の動きを検知している。内部に組み込まれているのはジャイロセンサーと加速度センサーで、マシンの動きの変化とその勢いを見ているのである。
ASIMOが転ばないようにバランスを取るために身体の動きを検知しているセンサーと同じ性質のものだが、ASIMOの方がセンサーとしてはより高性能なものを搭載していると言う。
オートバイの場合、コーナーでは車体をバンクさせることで遠心力と釣り合いを取りながら曲がっているが、このバンク角となるロール角が大きくなると加速方向に使えるグリップ力は減っていくから、エンジンパワーを抑えることで扱いやすい特性にするそうだ。
さらにコーナーの立ち上がりではフロントタイヤが持ち上がるウイリーを防止するために前後のタイヤの水平方向となるピッチ角も見ており、リヤタイヤが滑ったりすることでスライドした時に発生する急激なヨー角も検知している。
さらに前後のホイールの回転数の差を見ることでホイールスピンを防止するトラクションコントロールと組み合わされることで、タイヤのグリップを活かし切るのだ。
ただしレギュレーション上、クルマのESC(横滑り防止装置)のようにブレーキを制御することは禁止されているため、エンジンの出力だけを制御することでライダーが扱いやすい状態を作り出すことを狙っているそうだ。
この姿勢角センサーやトラクションコントロールによる制御はセッティングにより介入のレベルを調整することができると言う。
もっとも上手いライダーほど、このセンサーによる制御を控えめにしているそうで、2011年MotoGPチャンピオンのC. ストーナー選手は非常に介入を少なくしているそうだ。コーナーの立ち上がりでバンクしたままフロントタイヤを浮き上がらせながら立ち上がるような芸当を見せるのは、姿勢角センサーではなくライダー自身のセンサーとコントロールによるもの、ということか。
ともあれ圧倒的な速さで今シーズンのモトGPを席巻したレプソル・ホンダ。その速さの裏にはASIMOの技術が活かされているのであった。