東京モーターショー2011に最新のEVソリューションとして、レンジエクステンダーEV(E-REV:航続距離延長型電気自動車)の『A1 e-tron(イートロン)』を出品しているアウディ。日本法人のアウディジャパンがショーに先立って開催した試乗会に来日した本社Eモビリティ戦略責任者、ハイコ・シーガッツ氏に、クルマの脱石油戦略について話を聞いた。
---:アウディは2009年にEVスポーツカー「e-tron」を発表して以降、EVのコンセプトモデルを続々発表しています。クルマの電動化へのチャレンジはグローバルなトレンドですが、EVへのチェンジはそれだけ急速に進むと見込んでいるのでしょうか。
シーガッツ氏:クルマの電気化は今後、着実に進んでいくと考えています。アウディがEV開発を加速させている理由が、EV化のトレンドに対応するためであることはいうまでもありません。しかし、急激にEV化が進むかといえば、そうではないと思います。今は一般の顧客が購入を望んでいるというよりは、各国が政治的な思惑からEV化を奨励しているという段階にとどまっていると考えます。
---:日本ではEV購入には高額な補助金によって支えられています。EUもアメリカもそうですが、それでも一般ユーザーにとっては価格が高すぎる状況です。
シーガッツ氏:まさに価格がEVの最大の課題だと思います。顧客はCO2排出量削減にも関心がないわけではありませんが、快適性や使い勝手、価格には妥協しません。環境ソリューションとして賞賛されるEVであっても、支払ってもよいと考える上乗せ額はごくわずかです。充電設備などのインフラが未成熟なのも課題です。EV化の意味がより大きいのは走行距離の短い都市部ですが、そこでは各家庭が充電設備を持てるわけではないというジレンマもある。価格、インフラ、性能など、すべての点について正しいソリューションを政府や自動車メーカーが提示しないと本格的な普及は始まりません。
---:レンジエクステンダーのA1 e-tronは、それらの課題に対する回答なのですか。
シーガッツ氏:もちろんソリューションの提案というつもりで作っていますが、現状ではあくまでプロトタイプで、一般ユーザーを対象とした20台のプロトタイプの試験運用を開始した段階です。純EVの『A3 e-tron』もそうですが、量産するかどうかは決まっていません。しかし、よりEVに寄ったクルマを使いやすい性能と受け入れられる価格で提案し、販売ボリュームが上がれば、サプライヤーとの価格交渉も有利になり、普及への足がかりをつかめる。ベーシックカーサイズでありながら4人が乗れ、荷物も載るA1 e-tronはその方向性を示せるものだと思っています。EVはドライビングがとても楽しいという特性を持っていて、私は大好きです。これからも電気化に向けて頑張っていきます。
---:電動化という観点では水素エネルギー利用についても有望な実用化技術が続々と登場しています。
シーガッツ氏:水素エネルギーもインフラを含め、難しい問題はまだまだ山積みです。が、10年後には非常に有望なソリューションとなると思っています。クルマの性能の鍵を握るエネルギー密度が非常に高く、とても面白いものとなるでしょう。