【ホンダミーティング12】IMAとは別物…次期 フィット に搭載予定のDCTハイブリッド

エコカー ハイブリッド
「SPORT HYBRID Intelligent Dual Clutch Drive」 1.5リットルエンジン搭載のハイブリッドシステム試作車
「SPORT HYBRID Intelligent Dual Clutch Drive」 1.5リットルエンジン搭載のハイブリッドシステム試作車 全 8 枚 拡大写真

ホンダが来年にフルモデルチェンジされる『フィット』シリーズから展開すべく開発を続けている、新タイプのパラレルハイブリッドパワートレイン。そのシステムを現行フィットに実装した試作車を、ごく短距離ながら試乗する機会が設けられていたのでリポートする。

◆IMAとは別物のフィーリング

乗り込んでイグニッションスイッチをオン。現行フィットハイブリッドのシステムであるホンダIMAと同様、エンジンは停止したまま。だが、ブレーキペダルをリリースした後は、すべてにおいてIMAと全く異なるフィーリングを示した。

現行IMAはエンジンにモーターが直付けされているため、発進時からエンジンがかかり、モーターがトルクをアシストするのだが、新システムはモーターとエンジンが切り離されたことで、エンジン回転数ゼロのまま、ハイブリッドモーター単独でスルスルと走りはじめるのだ。

ホンダとしては量産四輪車初となる予定の7速デュアルクラッチ自動トランスミッション「i-DCD」は変速レスポンス、ギア比のセッティングとも大変良好で、シフトショックをほとんど感じさせないまま2速、3速と切れ味よくシフトアップ。すでに完成間近な製品であることを示していた。

巡航時は必要に応じてエンジンが始動、停止を繰り返し、減速時はエンジン停止となるように制御プログラムが組まれているようだった。ちなみに現行IMAもモデルによっては巡航時や減速時にエンジンのバルブを停止させ、モーター駆動ができるようにはなっていたが、いかんせんエンジンとモーターが常時直結されていたため、常にエンジンを引きずることになり、効率的には必ずしもいいとは言えなかった。

それに対して新システムは、DCTのクラッチをエンジンと切り離すことで、エンジンの摩擦抵抗などに邪魔されることなく高効率にモーター走行や減速エネルギー回生が可能というもの。実際に運転しても、ひっかかり感やメカニカルノイズの少なさなど、さまざまな面で現行IMAに対する効率面のアドバンテージを予感させられた。

◆「IMA比でエネルギー効率30%向上」は大げさな数字ではない

また、アクセルの踏み方次第でエンジン停止状態で空走する状態を維持できることは、省燃費ドライブテクニックの介入余地が大幅に広がったことを意味する。新システムの謳い文句である“現行IMA比でエネルギー効率30%向上”は野心的な目標ではあるが、必ずしも大げさな数字ではないように思われた。

ハイブリッドカーの重要な技術課題のひとつであるブレーキ時のエネルギー回生効率も、モーターがエンジンと切り離し可能でエンジンブレーキに邪魔されないこと、モーター出力が増強されたぶん発電量も増えること、回生エネルギー受け入れ性の良いリチウムイオン電池を採用することなどで、かなり高められている模様。

ブレーキには今年販売を開始した純電気自動車『フィットEV』で初採用された電動サーボブレーキが使われているとのこと。基本的に発電で発生する抗力を目一杯活用し、それを超えた時に機械式ブレーキを用いるというかなり進んだ回生協調ブレーキだ。今回試乗した試作車にも電動サーボブレーキが組み込まれていたが、昨年フィットEVに試乗したときと同様、試乗後に電動車両開発の開発責任者に言われるまで全く気づかなかったほど、ナチュラルなフィーリングだった。

◆コアなファン層をふたたびホンダに惹きつけることができるか

新ハイブリッドシステムは、ホンダの近未来の技術ロードマップにおいて、きわめて重要な意味を持つものだ。ハイブリッド自体は次第に先進技術からコンベンショナルな技術に移行しつつあり、パラレルハイブリッドでもエンジンとモーターを切り離せるシステムは日産自動車、アウディ、フォルクスワーゲンなどがすでに市場に投入ずみで、それ自体は珍しいものではなくなってきている。

そのなかでホンダは、シェフラーのアイデアを取り入れたデュアルクラッチ自動変速機を用いたハイブリッドシステムという珍しい方式を選択し、さらに電動サーボブレーキを組み合わせるなど、独特な手法で効率向上を図ったのが興味深いところだ。

現行IMAはコストとシステム重量以外にはハイブリッドカーとして傑出した部分がなく、機械的にもドライブフィール的にも個性が薄かった。そのため、反主流派志向が強く、変わったメカニズムが好きなコアなホンダファンからはほとんど支持されず、フィットハイブリッドや『フリードハイブリッド』など、ベース車の商品力が高いモデルの販売を補強する役割しか果たさなかった。

新ハイブリッドシステムは、性能面で一般ユーザーへのアピール度を増すと同時に、デュアルクラッチ式ハイブリッドという独特の機構を取ることで、コアなホンダファン層をふたたびホンダブランドに惹きつけることができるかもしれない。

性能そのものについては、この分野のトップランナーであるトヨタの現行「THS II」と比べて、市街地ではやや負け、巡航側ではやや勝っているというところに落ち着くものと考えられる。現在のIMA対THSよりははるかに拮抗した勝負になるだろう。もちろんトヨタもすでにTHS IIの更なる改良に取り組んでおり、引き離しにかかろうとしている。ハイブリッドを巡る開発戦争から目が離せそうにない。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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