【ホンダ フィットRS 900km試乗】回して楽しい爽快エンジン、エコランせずとも好燃費…井元康一郎

試乗記 国産車
夜明けの東伊豆にて
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2013年秋に第3世代モデルへとバトンタッチしたホンダの主力コンパクトカー『フィット』。ハイブリッドモデルが人気で販売台数の過半を占めているとのことだが、昨年7月に北海道の鷹栖プルービングセンターでプロトタイプに試乗したときに最も印象に残ったのは、1.5リットル直噴+6速MTの爽快感だった。そこで年末年始に1.5リットルのスポーツモデル「RS」を900km近くドライブし、そのフィールを再検証してみた。

◆高回転が楽しいエンジン

フィットRSの1.5リットル直噴はレギュラー仕様でありながら最高出力132馬力と、排気量1リットルあたりの比出力が90馬力近い高性能版だが、熱効率のピーク値は36.5%と、一般的なオットーサイクルエンジンとしては限界に近い数値を実現しているという。JC08モード燃費は19.0km/リットルと、フィットシリーズでは最も低いが、クルマの運動エネルギーの管理に気を配れば燃費良く走れるのではないかと考え、その点も観察してみた。

最初のドライブは東京・葛飾を出発し、伊豆半島南端の石廊崎~西伊豆を中心としたドライブ。走ったのが大晦日ということもあり、リゾートエリアの交通量は全般的に少なめであった。

前夜に富士市に入り、2013年のラスト日の出を見るために5時過ぎに出発。沼津から急勾配とタイトコーナーの連続する亀石峠を通って伊東に出た。1.5リットルエンジンは低速域から必要十分なトルクを発揮し、上り勾配でもギア固定、スロットルワークだけでスルスルと走ることができるが、力感は実用エンジンと大差があるというわけでもなく、面白みは薄い。このエンジンの本来の力量を味わうには2500rpm以上、大いに楽しむには4000rpmから6500rpmというイメージであった。

日本の公道の制限速度を考えた場合、6速MTのギア比、とくに2-3-4速をもう少し低速よりにしたほうが、ツーリングをより楽しめるクルマになると思われた。高速道路の流入路などで試してみたが、2速でレッドゾーン手前まで回すと、90km/hを超えてしまう。その先は6速までクロスレシオ気味で気持ち良いが、日本の公道よりはサーキットランやヨーロッパの峠道で楽しむようなセッティングだった。

◆シミュレーターのようなドライブフィール

伊東から下田を越えて石廊崎、さらにそこから堂ヶ島、恋人岬など西伊豆方面へと続く地方国道のクルーズはとても快適なものだった。足回りは固めだが、不快な突き上げなどはうまく抑えこまれており、疲れは少ない。

ただ、スロットル操作へのエンジンの追従性が大変ナチュラルに仕上がっているのに対して、ハンドリングは少々デジタルライク。ステアリングを切り、まずフロントが沈み、それにリアがどうついてくるかといったクルマ動きを感じながら走るのではなく、この速度域でステアリングの舵角をこれだけ取れば、クルマはこう走りますよといった、シミュレーターのようなドライブフィールであった。このあたりは同クラスのライバル、スズキ『スイフト』と対照的だ。

実は第2世代フィットは、車両とドライバーのコミュニケーションが非常にうまくいくクルマのひとつだったのだが、第3世代フィットの開発に携わったエンジニアによれば、「ステアリングを切ってもクルマの反応が鈍く、切り足したら今度はクルマが曲がりすぎてふらつく」という意見がユーザー側から少なからず出され、このようなセッティングになったのだという。

ユーザーニーズに応えなければならない自動車メーカーの苦労は理解できるが、フィットRSはどのみちクルマの運転が好きなユーザーしか買わないグレードなのだから、RSについてはツーリング性を高めるシャーシセッティングをしたほうがいいのではないかと感じられた。サスペンションのキャパシティ自体は、全面新設計されたモデルらしく十分で、やや荒れ気味の西伊豆の国道や県道においても、185/55R16サイズのブリヂストン「トランザER300」の能力をきちんと使えている。

◆500km走行で燃費計の数値は21.5km/リットル

久しぶりに訪れた西伊豆は、東伊豆に比べても交通量がきわめて少ない。オフシーズンであることを考慮しても閑散としていたが、ドライブの魅力という点ではおすすめできるルートだ。駿河湾の海の輝きは相模湾側に比べて明るめで、堂ヶ島では荒々しい波濤を間近に見ることができる。恋人岬から見る富士も雄大。おひとりさまドライブだと浮いた存在になってしまうのが難点だが、夕刻はとくにフォトジェニックであろう。

1名乗車、エアコンOFF、ギアの選択に気を配りつつ、極端な慣性走行はしないという普通のエコランを行いつつ500.7kmを走った結果、燃費計の数値は21.5km/リットル。給油量は24.6リットルで、実測燃費は20.3km/リットル。JC08モード燃費計測で不利なMT車での郊外ツーリングということでJC08モード燃費超えは当然として、36.5%というピーク熱効率を考えると、自分のテクニックがちょっと残念に感じられるリザルトだった。

時折いろいろなドライビングパターンを試してみたり、峠道を何度も通過したりということも燃費を伸ばせなかった一因だが、6速が100km/h巡航で2900rpmと、クルーズ燃費より最高速までの到達時間を詰めることを意識したギアボックスの仕様も少なからず影響しているものと思われた。

年明け、今度は北方に向かってみた。東京・葛飾をスタートし、国道4号線~例幣使街道を経由して日光東照宮からいろは坂を経由して日光湯元に至るというコース。伊豆の時に比べてエコランをさほど意識せず、信号からの通常加速でも3000rpm前後でシフトアップ、ワインディングでも2速主体で走るなど、楽しさを主眼にドライブした。

ある程度元気に走ると、RSに乗る意義は俄然強まる。1.5リットル直噴エンジンの中速域以上の爽快なフィールはBセグメントの実用コンパクトハッチとしてはとても良好な部類であった。唯一惜しいのはフリクション(エンジン内部の摩擦抵抗)ロスがめざましく減っている昨今のエンジンに共通する傾向ではあるが、回転落ちが悪いこと。大した実害はないが、切れ味を鈍く感じさせてしまう要因になる。RSオーナーの平均的なドライビングスキルを考慮すれば、フライホイールをもっと軽く作ってもよかったかもしれない。

世界遺産である日光東照宮界隈は初詣客が駐車場に列をなしているためかなり混雑していたが、東照宮を過ぎ、冬の奥日光に向かう道はガラガラ。日光いろは坂の上りは急勾配というわけでもないため、2速ホールドだとハーフスロットル程度でもパワーを持て余すくらいであった。

◆動力性能と燃費のバランスがRSの魅力

わりと元気よく335.2kmを走り終えた後の燃費計の数値は21.3km/リットル。給油量は17.1リットルで、実燃費は19.6km/リットル。標高差1500m近い山岳ドライブが含まれていたわりには、ある程度エコランも意識した伊豆ドライブとの差は当初の予想よりずっと小さかった。

元気よく走るといっても、一般道である以上、際限なく攻め立てるような走りにはならず、スピードが乗ってしまえばあとは普通にクルーズすることになる。交通量の少ない地方道のツーリングにおいては、加速Gの違いによる燃料消費量の差はドライブ全体からみれば微々たるものでしかないということだろう。同じルートをエコランをした場合の燃費が伊豆ドライブ時の値だと仮定すると、燃料消費量の違いは約0.6リットル。レギュラーガソリン価格150円/リットルの場合、額にして90円程度の違いしか出ない。RSのキャラクターを考えた場合、エコランに血道を上げても得るものは少なく、失うもの少なからずという印象を持った。

年末年始で900km近くを運転してみた結果、フィットRSはロングツーリングを低コストで積極的に楽しみたいというユーザーにとっては総合満足度の高いクルマであると感じられた。動力性能と燃費のバランスが良く、居住空間やラゲッジスペースも広い。少人数の泊旅行にも大いに活躍することだろう。

ネガティブな点は、前述のように走り味が少々人工的なこと。また、シートに長時間座ったさいの疲労度は大きくはなく、日本車の標準は十分に超えているのだが、同じホンダのモデルである『CR-Z』『N ONE』のシートが1000km超のロングツーリングでも疲労感がごく少ない絶品の仕上がりであったのに比べると若干見劣りする。シート骨格などに問題は感じられないので、体圧分散を見なおせばさらに良くなることだろう。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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