首都高速の大規模更新・改修はなぜ必要か…気になる工事箇所、渋滞、料金、ドライバーへの影響は

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大規模更新と大規模修繕箇所の対象箇所
大規模更新と大規模修繕箇所の対象箇所 全 17 枚 拡大写真

2013(平成25)年1月、「首都高速道路構造物の大規模更新のあり方に関する調査研究委員会」が開催された。この委員会は2012年から産学の有識者らが集まり開かれているもので、昨年1月に開催された会合で第7回目を数える。ここでは、大規模更新補修計画についての具体的な提言と報告内容が示され、老朽化が進む首都高速道路の大規模な更新・修繕を強く求める内容となっていた。

それを受け首都高速が2013年の12月に大規模更新の計画を発表し、橋梁の架け替えや床版の取替えによる更新(いわゆる建て替え)が必要なのは約8km、現状の構造を維持したまま大規模な補修・修繕を必要な部分は約55kmと見積もる。この更新・修繕による事業費は合計6300億円規模を試算している。

ここまで大規模な修繕をおこなう必要性はどこにあるのか。またこの更新・修繕に伴う、一日あたり95万台にのぼる交通への影響はどのようなものになるのか。首都高速道路の大規模更新事業化作業チームで同計画に携わる角田征氏と峯村智也氏に話を聞いた。

◆修繕がおいつかない要修繕損傷箇所は10万件を突破

1962(昭和37)年に京橋~芝浦間をつないだ1号線の開通にはじまり、年々ネットワークを広げ、都心における流通の大動脈の役目を果たしている首都高速道路。現在の総延長は約300kmに達しているが、10年後にはそのうち約3割の道路が供用から50年を経過することとなる。

首都高速道路では定期的な点検・修繕作業を実施しているが、点検によって発見された損傷のうち、修繕済みの件数を差し引いた“まだ直せていない損傷の数”(要修繕損傷件数)は増加の一途をたどっている。2002(平成14)年には要修繕損傷件数は3万5700件数だったが、2013(平成25)年には10万6100件にまで増加した。

このように道路が傷んでしまう原因は、単に経年劣化によるものだけではない。首都高速道路 計画・環境部大規模更新事業化作業チーム角田征氏によれば、「首都高速道路は大型車の交通量が一般道路の約5倍に達しており、大型車の通行が道路の疲労損傷を助長している」と説明する。さらに海に近いエリアでは、海水による塩害や橋脚への侵食なども道路にダメージを与えているという。

点検・修繕のため作業を継続する一方で、首都高速道路では災害対策など安全補強をおこなっているという。阪神大震災以降は直下型地震への備えとして落橋させないシステムの導入などは2012(平成24)年度までに完了した。

◆なぜ修繕でなく建て替えなのか?

しかし、現状の対策では「当面の対応しかできていない」(角田氏)認識をもっているという。

なぜなら「首都高は修繕自体が困難な箇所があり、修繕だけでは対応できない部分があるため」(角田氏)だという。たとえば、1号羽田線の東品川桟橋・鮫洲埋立部。東品川桟橋では桁下と海水面が近接しており、維持管理が困難な構造になっている。干満により海水面が上下するため一日のうち2、3時間しか点検・修繕ができない。

また、鮫洲埋立部では「(昭和39年の)東京オリンピックに間に合わせるために作られた、現在でいえば仮設で用いられる構造で50年が経過しているところがあり、海水により土中でタイロッドが腐食した影響で、路面にひび割れ(平成18年12月)及び陥没(平成20年6月)が発生している」(角田氏)という。

都心環状線の銀座や新富町付近でも同様に、古い基準で建設された(例えば鉄筋のかぶりなどのサイズ。43mmであり、現行道路橋示方書における、鉄筋の最小かぶりの70mmを満足していない)ために巨大地震時には擁壁が損傷しかねない危険にさらされている。

◆事業費の財源は将来の受益者負担へ

そのため首都高速道路では、早期の修繕事業実施に向け、計画に必要な財源を安定的に確保できるよう国等と連携。実施時期、施行方法等については、「安全に関わるため、できるだけ早く着工できるよう、国や地方公共団体等と連携し、お客様のご理解を得ながら速やかに決定したい」(角田氏)と語る。

更新・修繕のための財源はどうか。更新・修繕工事のために通行料金が値上げされるとなれば、運輸業者やドライバーにとっては死活問題になりかねない。この点について角田氏は「財源については、国交省のほうで45年の徴収期間を考慮して、将来の受益者負担という形でまかなうことを考えている。国に対しても、値上げやあらたな税金投入ではないかたちで審議しているところ」だという。また、工事の着工から完工までの期間は10~15年を予定している。

◆全面通行止めはせず、迂回路や段階的修繕で渋滞を回避

最後に修繕工事が行われた際、通行止めなどで交通が滞る可能性はないのか。角田氏は、「首都高は交通の大動脈であり、工事による渋滞は可能な限り最小限にとどめる。全面通行止めはしない方針」と答える。

たとえば、羽田線の更新工事期間中は、既存道路の隣接スペースに迂回路を設けるなどの対策をとる。また都心環状線(竹橋、江戸橋)では内回り、外回りをそれぞれ一車線以上確保して段階的な更新をおこない、通行帯を確保しながら片側ずつ施行する予定だ。

◆道路の絶え間ない維持管理が円滑な交通を実現する

「これまでは(新規開通道路など)道路をつくることに焦点があてられてきたが、それを維持・管理することも当社にとっては重要な役目。保全管理の取り組みと大規模更新の重要性をひとりでも多くの方に知っていただければ」と道路保守に携わる峯村氏は語る。

首都高が都心交通の要の役を担って半世紀が経つ。ちょうど半世紀前におこなわれた東京オリンピックの開催タイミングで首都高速道路のネットワークが整備されたが、今後も安心・安全な移動を維持するためには大規模な更新・修繕は避けて通れない重要な課題だ。

《北原 梨津子》

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