生まれ変わったジープ『チェロキー』。日本市場には3種のモデルが導入されるが、そのうちV6エンジンを搭載した「リミテッド」というモデルは、最早プレミアムSUVの域に届く性能、質感、クオリティーを備えていた。
身も心もすべて全く新しくなったチェロキー。北米では2世代にわたって『リバティー』の名で呼ばれてきたが、グローバルを意識してか、再び北米市場もチェロキーの名に戻された。そして新たなプラットフォームはといえば、フィアットから提供されるものをベースに、アメリカ市場に合わせて拡幅したCUSWと呼ばれるものが使われている。従来のモノコックにラダーを溶接したユニタイズドフレームとは異なり、完全なモノコック構造になった。
デザインだって斬新。7スロットグリルはボンネットの上まで回り込み、ライト類のレイアウトも特徴溢れる。そしてエンジンは直4、V6が用意され、直4の方は従来『PTクルーザー』などに使われていたワールドエンジンをベースに、フィアットのマルチエアテクノロジーを注入した新エンジン。そして今回試乗したV6は、すでにクライスラー『300』などに採用されているペンタスター3.6リットルユニットのボアを5ミリ縮小して、3.2リットルとした新エンジンである。そしてトランスミッション。こちらは縦置きトランスミッションでは定評のあるZF社が、初めて横置きエンジン用に開発した9速AT。今これを使うのは世界でもクライスラーとランドローバーだけだ。
というわけで何から何まで新しいチェロキー。エクステリアのみならず、インテリアのクオリティーも従来とは格段に変わり、使用している素材からそのクオリティーまでを考慮すれば、ほとんどプレミアムSUVと呼んでも差し支えないほど上質感に溢れる。それは走りも同様で、3.2リットルユニットはそのスムーズな回転とパワーアウトプットは秀逸。しかも抜群に静かだ。これと組み合わされる世界初の9速AT、確かに十分にスムーズではあるが、やはり初物だけあってまだまだパーフェクトとは言えない。
まずマニュアルモード用に通常のPRNDと並行して+-のレーンが走るのだが、厳密にこれはマニュアルモードとは言えない代物で、確かにシフトチェンジは可能だが、きっちりとドライバーの意思通りにはシフトしてくれず、あくまでもコンピューターが優先される。それにシフトレバーのクリック感も妙に粘着質で、他のマニュアルモードと違ってストロークも大きく、操作性は良くない。しかも停車すると最後にシフトした例えば5速なら5速の表示のまま止まる。これは次に5速で発進するというわけではなく、1速から5速までオートマチックでシフトすることを意味するのだ。
100km/hでほとんど負荷をかけないで走るとエンジン回転はおおよそ1300rpmほど。しかしこの時入っているのは9速ではなく実は7速。ではいつ9速に入るのか? 今でしょ…ではなくて、車速にしておよそ140km/hほど出ないと入らない。というわけで日本の交通状況でこの9ATはある意味宝の持ち腐れになる。それに1速のギア比がかなりローで、アクセルの踏み方によってはスムーズな発進ができないのも考え物だった。
内装は前述した通り、非常にクオリティーが高い。ただ、あくまでも個人的な感想だが、どうやら僕にはシートが合わないらしく、どのようなポジションをとっても長時間乗ると左足の太ももに違和感を感じた。今回は400km以上走ってみたが、高速をスムーズに走ればおおよそ10km/リットルは走るから、燃費性能もまずまず。かつて、オフロードの雄として名を馳せたスパルタンなイメージは完全に過去のもので、上質なアーバンSUVに大変身している。勿論、オフロード性能はジープの名に恥じないものを持っているはずだが、こいつは試していない。
パッケージング ★★★★
インテリア居住性 ★★★★
パワーソース ★★★★
フットワーク ★★★★
おすすめ度 ★★★★
中村孝仁|AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来36年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。