【池原照雄の単眼複眼】自前技術で未来カー引き寄せる…トヨタFCV市販への軌跡

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トヨタ自動車 加藤光久副社長(トヨタ FCVセダン 発表会)
トヨタ自動車 加藤光久副社長(トヨタ FCVセダン 発表会) 全 8 枚 拡大写真

「3億円也」だった今世紀初頭のFCスタック

トヨタ自動車が2014年度内に、水素で発電しながら走行する燃料電池車(FCV)のセダンタイプの市販を始めると発表した。ホンダも15年には同様に投入する計画であり、排ガスはなく、航続距離もガソリン車並みという21世紀のエコカーが日本メーカーの主導で実用段階に入る。トヨタは1992年にFCVの開発に着手、まさに「苦節20余年」を経て、“未来カー”を現実の世界に引き寄せた。

小泉「完全にクリーンなんだね。奥田さん、政府の公用車は全部これにしようか…」
奥田「いや総理、どんがら(=車体や足回り)は200万円でできますが、電池は3億円くらいかかるんですよ」
2001年夏に、当時の小泉純一郎首相とトヨタの奥田碩会長の間で、こんな趣旨の会話が交わされた。トヨタがFCVの『FCHV-4』による公道試験を日米で開始したのが、政府の経済財政諮問会議の場で話題にのぼったのだ。

トヨタが開発に着手してほぼ10年が経過した当時も、燃料電池(FC)スタックは、まだとんでもないカネ食い虫だった。FCHV-4は、初めて高圧タンクによる水素貯蔵を採用したモデルで、現在のFCVの原型となった。SUVタイプの5人乗りで最高速度は150km/h、航続距離は250km程度だった。これをベースにした『FCHV』が翌02年12月に、日米で計6台限定販売される。政府向けなど日本でのリース販売の価格は月120万円。売る方も使う方も、割の合わない出血価格だった。

水素吸蔵合金も使ってみた…

14年度内に、まず日本で売り出す今回のFCVは、水素のフル充てんが3分くらいででき、そこからの航続距離は700km程度と、電気自動車(EV)をはるかに凌ぐ性能だ。問題の価格は消費税別で「700万円程度」。15年夏からは欧米でも販売する計画だが、恐らく当面はグローバルで年数百台から数千台規模だろう。採算は厳しいが、「15年の市販目標を表明し、全力で開発に取り組んできた。頑張って何とかこの(性能や価格)レベルにたどり着けた」(加藤光久副社長)というコメントには実感がこもる。

トヨタは車載用の半導体の一部も80年代から自社開発・生産しているように、カナメとなる技術は自社で手掛ける「手の内化」に怠りない。FCVではFCスタックと、水素貯蔵システムは「一貫して自社開発にこだわってきた」(同)。燃料である水素の貯蔵や生成については、試行錯誤の連続だった。96年に同社初のFCVとなった『FCEV』では「水素吸蔵合金タンク」を搭載した。重くて貯蔵効率も決して良くなかった。

環境技術への経営判断の差

翌97年には、その後、多くの自動車メーカーが手掛けた「メタノール」をクルマに積んで水素に改質するタイプも試作。さらには硫黄分などの不純物を除去した「クリーンガソリン(CHF)」から水素を生成する方式も研究した。CHFタイプの開発では、00年に米GM(ゼネラルモーターズ)と提携している(その後解消され、GMは13年にホンダとFCV開発で提携)。

結局、メタノールもCHFも「改質器という、一種の化学プラントをクルマに積まなければならない」(当時のトヨタ担当技術者)という非効率さによってFCVシステムから脱落、高圧タンクによる水素貯蔵が本命となった。あらゆるものに手を染めた20余年の紆余曲折と試行錯誤こそが、トヨタのFCV開発の血肉となっている。

豊富な資金力が研究の支えとなったのは否定できないが、開発に着手した90年代のトヨタはGMやフォードモーターにはまだ、事業規模で大きくリードされていた。そこを埋めたのは環境技術への経営判断の差であったし、自前技術にこだわる創業以来の伝統だろう。もっとも、これからも「激しい技術競争が続く」(加藤副社長)この分野で、万全なリードなどはない。また、水素という一般には未知の物質を高圧で貯蔵するクルマの安全や安心に対する理解を深める活動も、普及に向けたリーディングカンパニーの重い役目だ。

《池原照雄》

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