「ランクル70」が復活した。日本の環境基準や安全基準に合致できなくなったために絶版になった70も、海外では引き続き販売されていた。海外で厳しくなる規制に対応しているうちに日本の規制に合致できる水準に達したので、1年間の期間を区切って復活することになった。
セミロングホイールベースのバンを復活させたほか、絶版になっていた間に海外向けに開発されたロングホイールベースのピックアップも新設定した。2015年7月以降の生産車には新しい規制が適用されるため、6月末までの生産車しか国内では販売できない。なので1年間の期間限定での販売なのだ。
搭載エンジンはプラドに搭載されているのと同じV型6気筒の4.0リットル。本当ならディーゼルが欲しいところだが、日本の法規に合うディーゼルがないためガソリン車だけを復活させることになった。
運転席の位置は高い。アシストグリップを握ってよじ登るようにして運転席に乗り込むと、室内は一定程度に乗用車的な雰囲気を備えている。SRSエアバッグの標準装備化など、最新の安全規制に適合させるときにインパネを変更したからだ。
走りに関しては実にプリミティブな印象だ。トランスミッションが5速MTだけの設定であるなど、今どきのクルマとして仕上げられた部分はほとんどない。これぞランクル70系という走りを実現するクラシカルな仕様が用意されていて、昔を思い起こさせるような走りを示した。
1GR-FE型エンジンはディーゼルに比べたら高回転域まで良く回るが、今どきの乗用車用エンジンとは違って振動や騒音も大きい。排気量の余裕を生かして低速域でのトルクの粘り強さが印象的ではあるのは良い点だ。
ボールナット式のステアリングは余りハンドルが切れない上に戻りも鈍いので、左折するときなどは油断すると対向車線にはみ出していく感じになる。最小回転半径はバンでも6.3mもあってとても大きい。ピックアップに至っては7.2mもあり、普通の乗り物とは思えないレベルである。
乗り心地は一般的な常識からすれば、ホイールベースが長いピックアップの方が良くなるはずだが、ランクル70ではタイヤの違いなどもあってバンの方が好ましく感じられた。といってもバンでも乗用車のような快適性が得られるわけではなく、ピックアップとの比較で良いというだけのことである。
富士ケ嶺オフロードでも試乗したが、そのコースはとても厳しい設定になっていた。ランクル70でなければ走れないような感じのシーンが多かったばかりか、70であったもデフロックも使わないと走破できないシーンもあった。
しかも最近のSUVなら当然の電子制御技術は何も盛り込まれていない。下り坂なども自分の足でブレーキペダルをコントロールして慎重に下っていくしかない。これが本来のクルマという感じを体感する試乗だった。
ランクル70は、こうした素朴な仕様が欲しい人、あるいはときには本気でオフロードに持ち出すような使い方をする人向けのクルマだ。普通のユーザーが面白がって買うと、乗り降りするたびに感じる乗降性の悪さから、乗り心地、静粛性、快適性、操縦安定性などほとんどの面で後悔することになる。特にピックアップについては、それを本当に必要とする人以外は選ばないのが賢明である。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★
オススメ度:★★
松下宏|自動車評論家
1951年群馬県前橋市生まれ。自動車業界誌記者、クルマ雑誌編集者を経てフリーランサーに。税金、保険、諸費用など、クルマとお金に関係する経済的な話に強いことで知られる。ほぼ毎日、ネット上に日記を執筆中。