【土井正己のMove the World】マツダ決算、過去最高の意味…中国地方の底力を見た

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世界戦略車マツダ デミオと小飼雅道社長
世界戦略車マツダ デミオと小飼雅道社長 全 8 枚 拡大写真

11月5日、トヨタが中間決算としては過去最高の数字を発表した。規模も利益率も、世界No1を維持できそうである。日本経済にとっても朗報だ。しかし、その6日前、10月31日のマツダの決算にも注目したい。

本年上半期の連結決算は、売上高は前年同期で、16%増の1兆4538億円、営業利益は同41%増の1039億円、純利益が3.7倍の933億円だった。いずれも過去最高の数字である。あいにく、同日に日銀の黒田総裁が大型の金融緩和を再び発表したために、話題がそちらに流れ、マツダの好決算があまり取り上げられなかったが、中国地方にとっては超ビッグニュースである。

◆「超円高」で連続の赤字

マツダは、国内生産の輸出比率が約8割と高く、収益は為替の影響を受けやすい。振り返ると、リーマンショック後は「超円高」に苦しみ、2009年3月期、2012年3月期には最終赤字を計上している。当時、株価も最低を記録し「マツダは生き残れるのか」という噂が出たほどである。「為替」というのは、輸出企業にだけ課される理不尽な換算コストで、国内で円建て取引している部品産業には、例えマツダ車に搭載され輸出されても、基本的には影響はない。つまり、円高時には、マツダが防波堤になって、「為替の大波」から中国地方の中小モノづくり企業を守ってきたとも言える。

マツダは、この厳しい時期に増資までして研究開発に打ち込んだ。そして出てきたのが「SKYACTIV(スカイアクティブ)」技術。『CX-5』や『アクセラ』など次々とヒット商品を生み出し、今年は、『デミオ』が「2014-2015日本カー・オブ・ザ・イヤー」も受賞した。この急激な復活は、やはり、地元サプライヤーの協力があってのことであろう。今回の決算数字は、地場産業のこれまでの苦労が結実したものと言える。

◆「SKYACTIV」を支えた生産技術、そしてメキシコへ

これまで、マツダは「輸出比率が高すぎる」とメディアからも揶揄されてきた。確かに輸出比率が高いと為替の波は受けやすく、収益が不安定になるということは否定できない。しかし、むやみに海外に生産拠点を移転してしまうというのは、もっと問題である。「SKYACTIV」技術も、クルマの開発技術と工場での生産技術が、「ワンセット」で完成して、はじめて、低コストで品質の高い商品を世の中に送り出すことができたのである。これが、完璧にできてこそ、「マザー工場」としての役割を担うことができる。

「マザー工場」で完成された「ワンセット」の技術は、海外に工場を作る場合も、そのセットごと移植されていく。それにより、世界どこで作っても、低コストで高品質のプロダクトを作り出すことができる。逆に言えば、「マザー工場」のレベルが低いと、世界どこへ出ていっても負けるだけなのだ。

だから、いくら生産のグローバル化を進めていくとしても、日本でのモノづくり力は、持続的に向上させなければならない。マツダの小飼雅道社長は生産技術畑出身であるので、このあたりのことはよく理解しているのだろう。

マツダは、「SKYACTIV」技術を導入する時期に合わせて、生産技術の革新にも力をいれた。円高に対応するためである。「1ドル80円で利益が出なければ死ぬしかない」。輸出比率の高いマツダでは、生産技術の革新、そして飛躍的なコストダウンは死活問題だったのだ。「超円高」により、マツダのモノづくり力は、明らかに強力なものになった。

そして、本年から稼働を始めたメキシコ工場にその生産技術が導入された。日本の「マザー工場」には、200人近いメキシコ人が研修に派遣されたという。現在、14万台の生産台数だが、2016年には25万台としトヨタへの供給も始める。

◆日本のモノづくりとグローバル化

為替というのは、確か日本経済にとって、不安定要素ではあるが、一方、日本のモノづくりを強靭にしてきたツールであったと思う。1985年の「プラザ合意」で、円は、1ドル200円台から一挙に150円レベルまで急騰した。当時は、トヨタ、日産を含めほとんどの日本の自動車メーカーは輸出主導型のビジネスをやっていたので、当然、収益は厳しいものとなった。各社は、コストダウンを必死に行った。その後も、暫く安定したかと思うと、また円高が進み、大きなコストダウンを求められた。これを繰り返すことで、日本の自動車産業は、体質がどんどんと筋肉質に、強くなっていったと思う。

今後も、「マザー工場」でのモノづくり力をさらに強化し、イノベーションを引き起こし、そして、海外にも移植していく、これが日本の「モノづくり」のグローバル化サイクルだ。「超円高」を乗越えた中国地方のモノづくり力。これから、その強靭な体力で、グローバル化を一層進めることだろう。今回の記録的な決算数字を心から祝福したい。

<土井正己 プロフィール>
クレアブ・ギャビン・アンダーソン副社長。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野、海外 営業分野で活躍。2000年から2004年までチェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2010年の トヨタのグローバル品質問題や2011年の震災対応などいくつもの危機を対応。2014年より、グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームであるクレアブ・ギャビン・アンダーソンで、政府や企業のコンサルタント業務に従事。山形大学工学部 客員教授。

《土井 正己》

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