水素タンクが炎に包まれたら? 気になるFCVと「未知の燃料」の安全性

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水素燃料の充填口(トヨタ MIRAI)
水素燃料の充填口(トヨタ MIRAI) 全 22 枚 拡大写真

3つの視点から安全対策

トヨタ自動車が12月15日に発売する燃料電池車『MIRAI』は、クリーンな未来のクルマ、水素社会の未来を拓くクルマとして注目される。しかし、水素という自動車ユーザーには未知の燃料を700気圧という高圧でタンクに貯蔵して走ることに、不安を抱く人も多いのではないか。筆者も数年前までは、そのようなすっきりしない思いをもっていた。

MIRAIでは水素の扱いに対し(1)漏らさない(2)検知して止める(3)漏れたらためない―という3つの視点から対策を講じている。「漏らさない」は、自社開発による強度と耐久性の高い水素タンクだ。水素が触れる内層面は水素を漏らさないためのプラスチック素材、次いで中間層は炭素繊維強化プラスチック、そして表層面はガラス繊維強化プラスチックという3層構造にしている。

MIRAIのタンク開発を担当してきたトヨタ自動車 FC技術部兼FC開発部の近藤政彰主査によると、タンクの肉厚は25mmという。40mmだった従来品から「強度を高めたうえで大幅にスリム化し、コンパクトかつ軽量化を図った」のだ。MIRAIの発表会では、停車中に80km/hの別の乗用車を追突させた実験映像が紹介された。衝撃を吸収しながら車体がクラッシュしていくなか、2本の水素タンクは壊れず、水素の放出もない。

◆万が一漏れたら、ためない構造

2番目の「検知して止める」は、水素用のセンサーや加速度センサーなどで水素の漏れや車両の衝突を検知すると、タンクのバルブを閉じるものだ。衝突事故などで水素の配管が切断されても、タンクからの漏出を直ちにストップするようにしている。

3番目の「漏れたらためない」は、「止める」機能が正常に作動しないといった万が一に備え、大気中で濃度が高まると危険になる水素を拡散させるものだ。タンクの下部や配管を車室外に配置することでためないようにしている。この「ためない」という考え方は、車両が火災に遭うという、最もシビアなアクシデントの際も適用される。

◆シビアな火災の時、水素タンクは?

例えば、自宅のガレージに駐車した状態での家屋・ガレージの炎上、あるいは車両との衝突事故による別の車両からの延焼など、水素タンクが炎に包まれるシーンである。近藤主査によると、このような状況で回避すべきは「熱によるタンク内圧力の上昇がもたらすタンクの破裂」だという。このため、高温状態になると、タンクに取り付けた「溶栓弁」とよぶバルブから水素を逃がすようにしている。

この弁には110度Cで溶融する「可溶合金」が使われており、この温度以上になると水素を放出する。「その際は火炎放射状態になる」(近藤主査)という。水素が放出される向きは法規制に基づいて、車両の後ろ方向、かつ地面に斜めに向けた方向にセットしている。こうした規制はLPG(液化石油ガス)やCNG(圧縮天然ガス)というガスタンクを搭載した車両も同じだそうだ。個人的には、燃料タンクが爆発炎上するケースもあるガソリン車と、燃料電池車のシビア・アクシデント時の危険度は似たようなものと考えている。

トヨタは、MIRAIの発売を「クルマ、地球、子どもたちの未来に向けた長い長い道のりへの挑戦の始まり」(技術部門トップの加藤光久副社長)と位置付けている。その挑戦には、未知の燃料に対する社会的な理解促進も重要な要素として含まれている。

《池原照雄》

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