【三菱 i-MiEV 600km試乗 後編】ロングドライブで見えたEVの潜在能力と大きな課題…井元康一郎

試乗記 国産車
三菱 i-MiEV 600km試乗…コバック(三菱サテライトディーラー)の普通充電
三菱 i-MiEV 600km試乗…コバック(三菱サテライトディーラー)の普通充電 全 17 枚 拡大写真

走行性能や快適性という点では長所が短所を大きく上回る『i-MiEV(アイミーブ)』だが、ドライブを進めるにつれ、ネガティブな面も見えてきた。それは、予想を超える航続距離の短さと、インタラクティブなコミュニケーションシステムを搭載していないことによる充電スポット情報提供のまずさである。

◆急速?普通?営業時間は? 不十分な充電スポット情報

東京・田町にある三菱自動車で車両を引き取り、葛飾を経由してから首都高速、横浜新道、国道1号線を走って小田原に向かった。事前に調べたところ、充電スポットまでの走行距離は120km強。公称航続距離は180kmということで、電力を食う暖房を使用せず、かつ飛ばさなければ箱根越えは無理でも小田原までは十分届くのではないかと考えた。が、実際にドライブしてみると、小田原より手前の国府津近辺で航続残表示が10km台に。

充電スポット表示機能のあるカーナビで周辺のスポットを検索したところ、三菱サテライトショップ大磯というところが最寄り。走行距離106.1km、航続残表示12kmという状態でたどり着いた。

が、いざ着いてみると、そこに急速充電設備はなく、単層200Vの普通充電しかできないのだという。車載ナビは急速充電、普通充電の区別をまったくつけることなく、一律で充電スポットを表示しているのだ。また、その充電スポットがどの充電ネットワークのものか、営業時間や休日はいつかといった情報提供もまったくない。とりあえず50分ほど充電し、航続残を何とか34kmまで回復させ、小田原であらためて急速充電をすることにした。

が、小田原でもカーナビに表示された国道1号線近くの急速充電スポットは土曜日ということでことごとく休み。探し回っているうちにまたもや航続残が心もとなくなってきたため、広報車両が加入している充電サービス「チャデモチャージ」が適用されない日産自動車のディーラーに立ち寄って充電した。本来のビジター料金は税込み1080円と高額だが、現在は30分540円で充電してくれる。

その後、箱根峠を越え、富士宮の三菱ディーラーで、初めてチャデモチャージの会員としてまともに急速充電のサービスを受けることができた。バッテリー残量23%の状態で充電を始め、30分で79%に。EVの充電制御はモデルによって異なる。アイミーブは日産『リーフ』に比べ、急速充電の受け入れ性は明らかに低かった。

◆ロングドライブに耐える性能を持っているはずだが…

今度は目的地を比較的近くの藤枝に取り、暖房を使用し、信号からのスタートでも交通の流れをリードするような運転パターンでどのくらい走れるか試してみた。航続残は暖房未使用だと101kmだが、暖房を入れると78kmと、2割以上ダウンする。それなりに暖房の影響は大きいようだ。

富士宮から国道1号線由比バイパス、藤枝バイパスと進行。その間、バッテリー残量は見る見るうちに減っていく。わりと余裕をみていたつもりだったのだが、藤枝に着いたときには走行距離57km、航続残10kmと、わりとぎりぎりの状態であった。それでも充電できるのだからいいかと思い、三菱ディーラーにたどり着いてみると、営業時間外ということで入口は閉鎖。急速充電器の電源も落とされていた。

これは大変なことになったと、さらに周辺を検索してみたところ、三菱の中古車ディーラーにも設置されているとのこと。残り10kmを下回るという冷や汗モノのドライブで行ってみると…そこも急速充電器は休止。致し方ないので、途中で見かけたネットカフェで急遽、ディーラーの開店時間まで夜明かしすることに。その時点での航続残は3km。

朝を迎え、走行64.6km、後続残2kmの状態で静岡三菱藤枝店に滑り込んだ。訪れてから知ったのだが、三菱系ディーラーでもすべての店がチャデモチャージに入っているわけではなく、この店舗も未加盟。静岡ナンバー以外は三菱車からも充電料金を取るとのことで、ここでも540円を支払った。レギュラーガソリンが150円程度の水準だと、冬に暖房をつけ、アイミーブらしい走りを楽しみながらドライブすると、レギュラーガソリンのハイブリッドカーに走行コストで勝てなくなるというのは、少々痛いところだ。

飛び石伝いでも急速充電を利用しながらドライブできれば、週末に1000kmまで距離を延ばしたいと考えていたのだが、藤枝でそのプランは断念。御前崎で冬の海を眺め、かつおの漬け丼を食し、亀石峠~伊東を経由して都内に戻った。2日目、12月6日の夜は寒波の襲来で気温が下がり、あらかじめ用意していたブランケットと手袋では寒さが身に染みるようになった。そこで暖房を使用し、小田原、戸塚と2箇所で充電しつつ、深夜の葛飾へ。富士宮、藤枝間のようにアクセルを威勢よく踏んだりしないで運転してみたが、やはり暖房をつけると航続距離はそれなりに短くなる。また、急速充電中はサービス電源は供給されるが暖房が使えないため、寒さをしのぐための工夫は必須だ。

田町の三菱本社に帰着した時点での総走行距離は624.0km。その間、急速充電8回、普通充電1回の計9回、充電を行った。今年6月に日産『リーフ』をドライブしたときは、急速充電のみ7回で1014kmを走った。走り切った後の航続残にはリーフの6割程度の能力を備えていることになる。シティコミュータープラスアルファという用途としては十分であるばかりでなく、ある程度のロングドライブにも耐える数値であるはずなのだが、距離を延ばす気にさせられなかった。

◆自動車メーカー自ら“甘え”を捨てるべき

その最大の要因は、長距離走行の頼みの綱である急速充電網の情報提供がきわめて貧弱だったことにある。前に述べたように、充電スポットが急速対応か普通かの区別なく表示されたり、営業時間や休日がまったくわからないというだけではない。充電スポットの情報自体がかなり古いとみえて、新設されたスポットについてはほとんど表示されなかった。充電スポットの数がいくら増えても、情報が的確に提供されなければ、そのスポットはないのと同じだ。スマホと比べても情報提供のスピード、質の両面で優れている日産リーフのカーコミュニケーションシステムに比べ、その後進性は言い訳が立たないほど。ここが改善されれば、それだけでクルマとしての魅力が増すことだろう。

もうひとつの難点はやはり航続距離。空調不使用で130km、空調使用でせめて100km走れれば、長距離ドライブ時の安心感、快適性は劇的に上がる。現会長の益子修氏はアイミーブについて、「バッテリーの改良は日々進んでおり、航続距離の問題はどんどん解決に向かう」と豪語していたが、今のところ、それはほぼ空手形に等しい状態だ。このあたりはきちんと有言実行でやっていかないと、EVへのユーザーの失望につながりかねない。

航続距離を延ばせないのであったら、せめて瞬間電力消費率、充電後の使用電力量など、エネルギーマネジメントに関する情報を細かく出してほしいところだ。それらの情報がわかれば、クルマの走り方によってどのくらいのエネルギー消費となるのかといった、効率のおいしいところを掴みやすくなるし、バッテリーの電力残量がわかればどこまで走れるかの推量も楽になる。走り方によって推算がころころ変わる航続残の表示だけでは、レーダーも通信機もなしに、原始的な羅針盤だけでヨットで外洋航行するようなもので、不安だらけのドライブになってしまう。

EVは今のところ、シティコミュータ用途に向いていると言われる。が、これはEVの性能的な制約を正当化する方便としては一見もっともだが、クルマの本来の商品特性からみれば、必ずしも正論ではない。街の中を短距離走るだけなら、絶対的なエネルギーの使用量はごく小さい。そこを電気に置き換えたからといって、節約できるエネルギー量も石油エネルギーへの依存率引き下げへの貢献度もタカが知れている。また、商品力の面でも市街地でのごく短い距離の移動でエンジン音がするしないなどということなど正直どうでもいいし、ましてや走りの良し悪しなど蛇足もいいところだ。

EVを今後、ますます普及させて行くためには、自動車メーカーが自ら、シティコミューター用途に限定するような“甘え”を捨て去る必要がある。バッテリー開発に携わるエンジニアからは、難産だったエネルギー密度引き上げの技術に目鼻がついてきた段階であるという声が聞かれる。それが出てくるまで待つという手もあるが、その前段階でもやれることはしっかりやって、ユーザーの関心を引き続けないと、大きなムーブメントにならない。

三菱のEVは日産の攻勢の前にすっかり目立たない存在となり、販売台数もすっかり細ってしまっているが、潜在的には非常にいい素質を持っている。また、三菱はEVこそ次世代エコカーの本命という言いだしっぺでもある。充電スポットのネットワーク化などは、チャデモ協議会を仕切る東京電力がまったくやる気を見せていない以上、三菱単独ではどうしようもない。2014年にはトヨタ、日産、三菱、ホンダの4社が新たに充電ネットワークを立ち上げるとのことなので、それに期待したい。が、EVの使い勝手を良くするという点についてはやり残したことが山のようにある。EVのパイオニアというプライドがあるなら、プラグインハイブリッドばかりでなく、EVについてももう一度しっかりとしたビジネスを組み立てるべきだ。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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