『デミオ』をベースとしたBセグメントのクロスオーバーモデルが『CX-3』である。しかしこのクルマ、必ずしも万人が想像するクロスオーバーモデルではない。明らかにターゲット層を絞り込んだ提案型の商品だった。
デビューした時思ったことは、日本市場でライバルになるのはほぼ間違いなくホンダ『ヴェゼル』だろうということ。つまりあちらはデミオのライバルたる『フィット』がベースで、その成り立ちも極めて似通っていたからだ。ただ、向こうはハイブリッドやガソリン仕様が用意されるのに対し、CX-3はディーゼルのみの設定。ただし、FWDと4WDの用意はあるし、向こうにはないマニュアルの設定がある。
デミオに比べて全長で215mm、全幅で70mm、そして全高で50mm拡大している。サイズ的には全高を除けばほぼヴェゼルといい勝負だから、その外観を見た時ほとんどの人は、ヴェゼル並みの室内空間を持っていると想像してしまう。ところが、CX-3の室内空間はほぼデミオ並。拡大されたリアオーバーハングによって、若干ラゲッジスペースは拡大しているものの、前後シートのスペースはほぼデミオと同じでリアは若干狭いくらいなのだ。ここで多くのクロスオーバーを想定したユーザーはあれっ?となるはずである。
実はこれ、敢えてマツダが狙った部分だというから、明らかにターゲット層を絞り込んだクルマである。マツダのデザインチームが最も力を注いだ部分は、上質さと美しいデザイン。だから、どっしりしたエクステリアではあるが、明らかにグリーンハウスをコンパクトにしてスポーツカー的なロングノーズ、ショートデッキスタイルを実現した。指名買いされればそれでいいという割り切りが、このクルマには溢れている。
ディーゼルのみの設定もそうだ。今の日本じゃメジャーとはなり得ないMTの設定にしてもそう。しかし、一部のファンにとってこれは堪えられない設定ともいえる。エンジン自体は1.5リットルの直噴ターボディーゼルで、最大トルクをターボの過給圧を変えることでデミオより20Nm多い270Nmとした以外は大きく変わっていない。トランスミッションのギア比も同じ。ただしファイナルは異なる。
で、走りはどうか。実は単純比較してもデミオより130kg重くなっていることが、走りに影響していないかという部分が気になったのだが、動力性能的な差は少なくとも一般道を走る限り、体感できるものではなかった。むしろその重さが功を奏して乗り心地はどっしりとしている。
現実的に、今デミオのユーザーである僕からすれば、走りのイメージはまさにデミオそのもので、デミオで感じられる不快なリアの突き上げ感が、CX-3では見事に消えていること、そして同じくリアから入り込んでくるノイズもこのクルマでは消えていることが印象的だった。リアからのノイズがないのは、地上高が上がって路面から離れたことと、テールゲートにちゃんとガーニッシュが施された(デミオは鉄板むき出しだ)こと、さらにラゲッジの床面が2重になっていて、音源を遠ざけた効果があるからと想像できる。
一番注目したのはナチュラルサウンドスムーザーという仕掛け。ディーゼルでは不可避的に表れるノック音を消してやろうという試みで、ピストンピンの中にダンパーを組み込んでノック振動を打ち消すという対策を施した。ダンパーと言ってもその正体は中央がくびれた棒である。ところがこいつが中に入るだけで、入っていないピストンピンと入っているピストンピンを叩いて比べると、あら不思議…、入っているピストンピンは何と綺麗にキーンという澄んだ音がするのに対し、入っていない方はコツコツと無垢の金属を叩いている音が出る。
さぞやこいつは効果がありそうと思えたが、現実的にはきっちり3500Hzの音源を小さくしてやる効果があるだけだから、正直なところ万能ではない。ただ、うちのクルマのノック音と比較したらほとんど無いに等しく、音質もカンカン叩くような金属音から滑らかなシュルシュルという音に変わっている。精々回転数にして1500rpm程度の部分だから、効果の範囲は限定的なのだ。
というわけで、CX-3は乗ってみると熟成の進んだデミオのようだった。ただしお値段はそれなりで、かなり高価だ。だから、指名買いする人にのみ受けるクルマで、間違いなくメーカーからの提案型商品である。
■5つ星評価
パッケージング ★★★
インテリア居住性 ★★★
パワーソース ★★★★★
フットワーク ★★★★
おすすめ度 ★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来37年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。