【池原照雄の単眼複眼】“もっといいクルマ”を強力サポート…トヨタの新生産技術群

自動車 ビジネス 企業動向
TNGAによる新プラットフォーム
TNGAによる新プラットフォーム 全 5 枚 拡大写真

車体剛性やデザイン自由度高める

トヨタ自動車が競争力の源泉である生産現場での変革の取り組みを、このほど内外のメディア関係者らを対象にした取材会で公開した。同社は2013年度からグローバルで工場の新設を凍結してきたので、この間は生産ラインや生産技術での新機軸が公開される機会もなかった。今回は車体や塗装、組立といった主要工程のほか、工場トータルの高効率化や投資削減策などを多面的に提示した。新工場なくとも生産技術は停滞なく進化する――盛りだくさんの取材会にはプレゼン側のそうした思いが詰まっていた。

この取材会は、トヨタの新しい車両開発手法である「TNGA」(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)の進捗状況の説明と併せて開かれた。高性能を引き出す新プラットフォーム(車台)の開発や部品の大幅な共用化などを進めるTNGAは、2015年末までに登場する4代目『プリウス』で初めて適用される。

これにより、同社のベクトルである「もっといいクルマづくり」を加速させていくのだが、生産現場では「もっといい工場づくり」によって、その動きを強力にサポートしようとしている。乗り心地や安全性能の改善につながる車体剛性の向上、デザインの自由度向上など、魅力ある製品につなげる各種生産技術の実用化である。

◆短時間で超ハイテン部品を造るホットスタンプ

車体剛性を高める技術では、鋼板を熱してプレス加工する「ホットスタンプ」と、車体溶接の「LSW」(レーザー・スクリュー溶接)がとくに革新的との印象を受けた。いずれもトヨタ提供の動画をご覧いただきたい。ホットスタンプは、高温に熱した鋼板をプレスした後に冷却し、「焼き入れ」効果で鋼板の強度を高める工法だ。通常はガス炉で加熱するのだが、公開されたのは鋼板に電気を通して900度ほどに加熱する方式だった。これによりガス炉では4分から6分を要する加熱時間は、わずか10~20秒に短縮、大幅に生産性を高めている。

大型設備のガス炉が不要なためライン長は約10分の1で済み、設備費用は3割低減可能という。強くなった部品により剛性を高め、同時に軽量化も図れるので燃費性能の改善にもつながる。実演では強度が590MPa(メガパスカル)の一般的なハイテン材(高張力鋼板)をホットスタンプし、1470MPaという超ハイテン材の部品に仕上げた。このホットプレスは2012年から田原工場(愛知県田原市)などでレクサス『GS』から実用化を始め、現在ではトヨタブランド車にも展開している。

◆車体溶接ラインを一変させるLSWのインパクト

一方、車体溶接のLSWはレーザー光線によって重ねた鋼板を熱して溶接するものだ。車体の溶接は2つの電極チップで鋼板を挟んで通電・加圧によって接合する「スポット溶接」が主流だが、LSWはそれを補完あるいは代替する新しい溶接である。レーザー照射の制御などが難しく、レーザー溶接は鋼板や車体の部署によっては使いにくい工法だったが、トヨタは多くの特許を取得した独自技術を確立、世界の最先端を走っていると言ってよい。

LSWも加工時間の短縮が特徴で、スポット溶接が1点当たり2~2.5秒を要するのに対し、0.3~1秒程度と驚くほどのスピードだ。また、スポットは溶接のピッチ(間隔)を最低でも25mm程度取る必要があるが、LSWはほぼ任意にでき、溶接箇所を増やすことで車体剛性の向上につなげられる。両工法とも溶接機をロボットにセットして使うが、LSWは本体がコンパクトで溶接も高効率なため、車体溶接ラインのロボット台数とライン長を縮減できるのも大きな利点だ。この溶接は2013年から主としてレクサス車の量産ラインに導入している。

LSWは近い将来、大量のロボットが火花を飛ばしながらスポット溶接するというお馴染の車体組立ラインの景色を一変させるインパクトをもっている。こうした新技術群の導入を前提に開発を進めている次期『プリウス』のTNGAプラットフォームは、車体のねじり剛性が現行モデルよりも65%程度も向上するという。

◆「シンプル・スリム」がもたらす好循環

2008年のリーマン・ショック後、トヨタは生産技術開発ではラインや設備、工程などで「シンプル・スリム」を理念として追求、コストを含む競争力の強化に取り組んできた。同時に生産現場も自らの「もっといいクルマづくり」を問い続けた結果、新工法・新技術の実用化が加速しているように見える。

生産技術と製造部門を担当する牟田弘文専務役員は「TNGAの展開によって(生産現場は)さらにシンプルになるし、投資も引き下げることができる。もっといいクルマづくりへの良い循環が回るようになってきた」と、リーマン後からここまでの取り組みを評価している。

■ホットスタンプ

■LSW(レーザー・スクリュー溶接)

《池原照雄》

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

アクセスランキング

  1. マツダ、電動セダン『EZ-6』世界初公開、24年発売へ SUVコンセプトも…北京モーターショー2024
  2. トヨタが新型BEVの『bZ3C』と『bZ3X』を世界初公開…北京モーターショー2024
  3. 【ホンダ ヴェゼル 改良新型】開発責任者に聞いた、改良に求められた「バリュー」と「世界観」とは
  4. 中国製部品の急成長で2025年以降日本製の車載半導体は使われなくなる…名古屋大学 山本真義 教授[インタビュー]
  5. 見逃せない! ホイールのブレーキダスト除去術 ~Weeklyメンテナンス~
  6. Sズキが電動マッサージ器を「魔改造」、25mドラッグレースに挑戦!!
  7. 郵便局の集配車が「赤く蘇る」、KeePerが8000台を施工
  8. <新連載>[低予算サウンドアップ術]“超基本機能”を駆使して「低音増強」を図る!
  9. タイヤブランドGTラジアルよりオールシーズンタイヤ「4シーズンズ」発売
  10. 多胡運輸が破産、首都高のローリー火災事故で損害賠償32億円
ランキングをもっと見る