【ジャガー XE 試乗】乗り味もデザインも「優しい」印象で一貫…千葉匠

試乗記 輸入車
ジャガー XE ポートフォリオ
ジャガー XE ポートフォリオ 全 10 枚 拡大写真

コンサバとは言わないまでも、驚きはない。プロポーションはスポーティだし、居住性も悪くないけれど、それだけに優等生的なデザインに思える。どこか突き抜けたところがないとジャガーらしくないのでは?…昨秋のパリモーターショーで初めて『XE』を見て以来、抱いてきた疑問だ。

ところが試乗してみたら、たちどころに疑問が消えた。箱根で短時間ながらステアリングを握るチャンスを得たのは、200psのプレステージと240psのポートフォリオ。嬉しいのは、パワフルなポートフォリオでも運転手を急き立てないことだ。飛ばせば楽しいのはもちろんだが、「もっと踏め」という悪魔の囁きは聞こえてこない。

中間加速の伸び感が心地よいエンジン、そして操舵力が軽く、しかもそこにまったく雑味のないステアリング。「人当たりが優しい」とでも言おうか。これは『XJ』や『XF』にも共通する美点であり、ジャガーらしさだと思う。

そこに気付いてあらためてエクステリアを眺めれば、これも見る目に優しいデザインだ。初代XJに由来するフロントグリルをはじめ、ジャガーの伝統を随所に表現しながら、それを主張しすぎない。押し付けがましさやアグレッシブさは皆無。乗り味とデザインの印象が一致する。

注目したいのは、例えばフェンダーの稜線。フロントからリヤへ一本のラインを通しつつ、Bピラーの下でそれがいったん薄れるので、二本のラインがあるようにも見える。これも実は伝統の表現だ。

名車『Eタイプ』をはじめ、ジャガーのスポーツカーは伝統的にリヤフェンダーの稜線が丸く盛り上がっていた。「ハンチ・ライン」と呼ぶこれを最新の『Fタイプ』も採用しているのだが、セダンはもっとエレガントで伸びやかなスタイルでありたい。そこでXEは前後のフェンダー稜線を一本でつなげて長さ感を見せると共に、稜線の上の段差の幅を変化させた。

Bピラーの下では段差ゼロ。そこから後ろに行くにつれて段差が広がって稜線の存在感を強調し、その下にある後輪にボディの視覚的な重さがしっかりかかるイメージを醸し出す。ハンチ・ラインも狙いは後輪の踏ん張り感だから、それと同じ効果を、よりシンプルで穏やかな手法で表現しているのだ。

キャビンを後方に向けて絞り込み、リヤフェンダーの肩口に充分な寸法を確保したのも後輪の踏ん張り感に表現する要素。しかしXFほど大胆に絞っているわけではない。そこが冒頭に述べた「突き抜けたところがない」という印象の主因なのだが、XEのボディはXFよりコンパクトだ。踏ん張り感と後席居住性の両立はよりシビアだったのだろう。

とはいえ競合他車に比べれば、キャビンの絞り込みは強いし、ルーフラインはよりクーペ的でスポーティ。それでいて室内スペースも負けていない。パッケージ寸法だけでなく、インパネ上面を手前にスラントさせたり、シートバックを削いで後席レッグルームを稼ぐなど、広さ感を表現するデザインの工夫もそこに効いている。

XEは事実上、かつての『Xタイプ』(01~09年)の後継車。Xタイプが失敗して経営危機に陥ったジャガーが、プレミアム・コンパクトセダンのカテゴリーに再挑戦するクルマだ。捲土重来を期すためには、居住性でライバルに負けることは許されない。それを踏まえた上で、ジャガーらしく、アグレッシブではないスポーティさを表現したのがXEのデザインである。

デザインとは本来、内に秘めた価値をカタチに表現すること。そこに立ち返って言えば、見て乗って印象が一貫するXEは、疑いなくグッドデザインだと言えると思う。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★

千葉匠│デザインジャーナリスト
1954年東京生まれ。千葉大学で工業デザインを専攻。商用車メーカーのデザイナー、カーデザイン専門誌の編集部を経て88年からフリーランスのデザイン ジャーナリスト。COTY選考委員、Auto Color Award 審査委員長、東海大学非常勤講師、AJAJ理事。

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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