【川崎大輔の流通大陸】夜明けを迎えるカンボジア中古車ビジネス

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WINGS Garage
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カンボジア自動車市場は夜明け前

カンボジアの首都プノンペンではここ最近、中間所得層の増加に伴い自動車の台数が急増してきている。朝夕のプノンペン市内の道路は自動車渋滞が発生している状況だ。Department of Land Transportationの自動車新規登録台数データによれば、2014年の新車、中古車合わせた登録台数は約4万1000台であった。販売の80%近くがプノンペンに集中している。2004年の1万5000台(新車、中古車合計)であったことを考えれば、10年間で自動車需要が急速に伸びているのがわかるだろう。

伸びている自動車需要だが、カンボジア国内市場の約9割が中古車となっている。理由として新車への輸入税が高く設定されているためだ。カンボジアは周辺諸国と異なり中古車輸入に好意的である。低い税金体系を享受するため中古車がカンボジアに多く入ってくるという市場構造になっている。特徴的なのは、約8割の中古車がアメリカから輸入される左ハンドルの日本メーカー車であるという点だ。

1990年代以降の右ハンドル車に関しては右ハンドル規制によって登録ができなくなっている。カンボジア国内の日本メーカーのシェアは高く、特にトヨタ車のブランドイメージが良い。プノンペンで走る半分近くがトヨタブランドである。「レクサスRX(ハリアー)」は成功車のシンボルであると言う。2015年11月にプノンペンを訪問した際には「カローラ」「カムリ」「ハイランダー」「ランドクルーザー」なども街中で目立っていた。

一方で、まだまだ2輪のバイクは多い。最初は驚くが1台のバイクに3人がまたがって走っている光景はすぐに当たり前の光景となる。4人家族で1台にまたがっている光景もしばしば目にする。2004年には2万2000台ほどの登録台数であった2輪バイク市場だが、10年後の2014年には30万台に達している。カンボジアの自動車市場はこれから夜明けを迎えるであろう。

◆中古車の終着点であるカンボジア

カンボジアの中古車販売は、若干の波はあるが右肩あがりで増加している。バイクから新車への乗り換えは無理でも、中古車なら低い税金体系の恩恵を受けているため手がとどくという人もプノンペン市内で現れ始めている。プノンペン市内には約300店の中古車販売店があり市場は活発だ。しかし、輸入される車のほとんどが事故車であるという問題がある。

他(ほか)の国で使われなくなった自動車、アメリカでの事故車やかなりの距離を走り自国で販売できないような車がカンボジアに入ってきている。聞くところによればアメリカでの買い付け方法はほとんどが保険業者からの買い付けということだ。事故車を含むこれらの車を修理整備して販売する。事故車のような安価な車を購入して、同じく安価な労働力を安価な偽装パーツや輸入中古パーツを使って修復させる方がカンボジアのニーズに合っているようだ。世界ではカンボジアの経済力、マーケット規模が世界的に比べて弱いため、品質や付加価値が不要な中古車市場との認識があるためだ。

◆カンボジアでアフタービジネスを行う魅力

長崎県内で「アラジン」の名称で自動車買い取り・販売事業を営むウイングス。プノンペンの日系中古車販売店「Wings GARAGE」の親会社だ。ウイングスの海外事業部長であり、プノンペン責任者である深豊幸氏に、カンボジアビジネスの魅力と課題について話を聞いた。

カンボジアでビジネスを行う魅力は、「将来の大きな可能性があるということ」と深氏は言う。確かに、人口が1400万人ほどと市場規模が小さいことは否定できない。しかし、カンボジアには巨大な若年層の市場がある。これからのカンボジアの経済成長に伴い、若い世代の所得が増加するだろう。車に興味がある若い中間層が増え、2輪バイクから自動車への乗り換え層をねらえる可能性がある。また、自動車の普及台数が増加するにつれてメンテナンスの需要も高まっていくことだろう。

◆カンボジアの中古車販売店は「散髪屋ビジネス」

カンボジアで「Wings GARAGE」に残されている課題は、中古車販売に関して他社との優位性が見いだせていないことにある。「Wings GARAGE」は日本の親会社から程度の良いドイツ製のメルセデスやBMWの左ハンドルの高級中古車を取り寄せてカンボジアで販売している。カンボジアで人気のレクサスやカムリなどの中古車は右ハンドルであり日本の親会社から仕入れができていないのが現状だ。

一方で、「Wings GARAGE」がレクサスやカムリなどの車をアメリカから仕入れても価格競争に巻き込まれるだけで、販売するのは難しい。深氏は「カンボジア社会が散髪屋ビジネス」であると言う。つまりお父さんが買っているから安心だろうという縁故ビジネスのため、その中に入り込めていないということ。お金持ちはお金持ち、低所得者は低所得者だけと、限られた階層間でしかビジネスができない閉鎖的なコネ社会がカンボジアにはあり、これが1つの大きな課題となっている。

◆「Wings GARAGE」としての強みと今後の展望

カンボジアで「Wings GARAGE」としての強みはリピーター率が9割と高いことであるという。何かの問題が生じた際の対応を日本人がしっかりと行っているためだ。またプノンペンの中で唯一、中古車の販売と整備を同じ場所で行っている。現在は、競争力が少ない中古車販売よりも点検、修理、整備がビジネスの中心となっている。今後の展望として深氏は「整備、販売をしっかりと両立していきたい」と語る。

政治も安定し経済成長が今後も続くと考えられるカンボジア。2018年7月の国政選挙の方向性については常に情報を得ておく必要があるが、カンボジアの国自体が長期ビジネスに投資をしてきておりカンボジア経済、自動車市場にとってはプラスの要因だ。一方で、個人的には安全とは言えない中古車の流通から消費者を守る必要性を感じる。新車市場を政策的に駆逐するような高い税制は時代外れだ。新車に対するこのような税制はこれからカンボジアが検討すべき課題と考える。カンボジアの自動車ビジネスはこれから夜明けを迎えるであろう。

<川崎大輔 プロフィール>
大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

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