【インタビュー】マツダロータリーはEVエクステンダーで復活、2019年ターゲット…藤原清志マツダ専務

これまでマツダの環境対応は、ディーゼルエンジンを中心に特徴のあるパワートレインで差別化を図ってきたが、ZEVではどのようにマツダのDNAを表現していくのか。マツダの研究開発を担当する取締役専務執行役員の藤原清志氏に話を聞いた。

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マツダの藤原清志専務
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アメリカ・カリフォルニア州のZEV規制が、2018年にはマツダにも適用されることになる。ZEV規制では、EVまたはPHEV(プラグイン・ハイブリッド車)の販売比率を16%以上とすることが求められており、達成できない場合は罰金を払うか、または競合他社からCO2排出枠を購入しなければならない。

そんななかマツダの小飼社長は11月中旬、EVを2019年、PHEVを2021年に発売する方針を明かした。これまでマツダの環境対応は、ディーゼルエンジンを中心に特徴のあるパワートレインで差別化を図ってきたが、ZEVではどのようにマツダのDNAを表現していくのか。マツダの研究開発を担当する取締役専務執行役員の藤原清志氏に話を聞いた。(聞き手はレスポンス編集長三浦和也)

■マツダ保有マーケットを考え、PHEVよりもEVを優先する

---:小飼社長は先日、EVは2019年、PHEVは2021年に発売するとコメントしました。

藤原:バッテリーはまだまだ価格が高く、EVは非常にコストがかかります。それゆえ商品化についてはとても慎重に考えなければなりません。マツダは何兆円も利益を出している会社ではなく、赤字からトントンになり、ようやく利益がでるようになったばかりの会社なので、リアリスティックに考えざるを得ません。EVやPHEVを作ると言っても、1車種のためだけにパワートレインを開発して、それがたくさん売れてビジネスになりかつ規制に対応できるかというと、そうではありません。マツダはマツダなりの戦略が必要です。

---:いまの言葉はEVを指して言っているのだと思いますが、ちょうど藤原専務の後ろに前回の東京モーターショーに展示された『RX-VISION』のイラストが見えます。たとえロータリーエンジンでもこのクルマのための専用開発というわけにはいかない、とも私には聞こえました。

藤原:そうですね。我々がRX-VISIONを手掛ける時は、このようなクルマをつくる体力、ビジネスの基盤がしっかりした後、ということです。我々はRX-VISIONを世に出すために、懸命にビジネスの基盤を強化しようと頑張っているのです。

---:EVに話を戻しましょう。マツダは2018年に強化されるカリフォルニア州ZEV規制のため、EVやPHEVを売らなければならない。このスカイアクティブEVがどのようなクルマなのかが興味あります。

藤原:ガソリンが安く大型車のシェアが大きいアメリカでは、EVのニーズが基本的には少ないという現実がまずあります。しかし、ZEV規制によって各社一定数EVを売る必要があります。ニーズの少ないところに供給過多が起きるので、2018年ごろは非常に厳しい競争環境になっているはずです。ZEV規制は販売割合を求めているので、安売り競争になり、そうなると利益どころか各社赤字でEVを販売しなければならなくなる。しかし、この先罰金を払い続けながらビジネスをするわけにもいきません。アメリカで商売をするなら、ZEV規制は乗り越えなければいけないテーマです。

---:罰金よりも車両赤字が少なくなるタイミングが、2019年ということですか。

藤原:そこはそうではありません。我々がEVの準備を進めていき、世に出せるであろうタイミングが2019年ごろだということです。マツダは内燃機関もEVもPHEVも、全部一緒に進める体力はありません。これまでスカイアクティブのガソリン、ディーゼルエンジンが出来上がって、トランスミッションもATとMTが出来上がって、それからEVに着手しました。スカイアクティブを名乗るにあたっては、私は社内に相当高いハードルを課しています(笑)。それが出来上がるめどが2019年ということです。

---:ZEV規制にあわせて2019年に出す、ということではなくて、用意できるのが2019年、ということですね。

藤原:その通りです。

---:欧州の自動車メーカーはサプライヤーの力を借りて、エンジンとトランスミッションの間にモーターを入れるという形でPHEVを手早く実現しています。マツダがそのような手法をとらなかったのはなぜでしょうか。

藤原:それはマツダが欧州市場のメーカーではないからです。マツダは欧州、日本、中国、アメリカ、ASEAN、5つの地域ほぼ同じ規模の市場があります。欧州中心ではなく、全地域でバランスのいい戦略が必要なのです。欧州のメーカーは、欧州の規制で有利なPHEVを一気に広げましたが、いっぽうでアメリカのZEV規制ではPHEVはポイントが低いので、PHEVはより多くの台数を売らなければなりません。

---:今秋、パリのモーターショーで欧州メーカーが一斉にEVを登場させたのは、それが背景だったのですか。

藤原:2つ理由があると思っています。まず大型車中心のプレミアムメーカーは、北米市場向けにEVを用意する必要がありました。いっぽうルノーなど小型車中心のメーカーは、PHEVはそもそも小型車には向いていないので欧州市場向けにEVを用意したという理由です。

---:アメリカの市場を考えると、PHEVは解ではなく、EVだと。

藤原:PHEVだとポイントが少ないので、台数をたくさん売らなければなりません。そこが北米市場と欧州市場の違いです。マツダは、欧州に対してはCO2排出量の少ないディーゼルエンジンがありますので、欧州のCO2規制に対して見通しが立てられます。急いでPHEVを発売する必要はありません。いっぽうのEVは、『デミオ』クラスのEVを用意してアメリカ、欧州でも発売する。そして、さらに厳しい欧州の2025年規制に対してはPHEVを用意していく。時間軸をずらしてEVとPHEVを用意する戦略です。『CX-5』や『アテンザ』など大きなクルマをEV化するには大きな電池を積まねばならず、それだけ値段もあがってしまいます。マツダブランドでは1000万円級のクルマを売ることができません。電池容量と価格を抑えつつ航続距離を伸ばすことができるPHEVが適していると考えます。

---:ハイブリッドはどうしますか。

藤原:マイルドハイブリッドになると思います。

---:マイルドハイブリッドですか。『アクセラ』に搭載しているトヨタハイブリッドシステムではなく?

藤原:私たちのエンジンが良くなっていけば、本格的なハイブリッドは必要なくなっていきます。自分たちのエンジンに最適なハイブリッドを使うと思います。

---:トヨタとの協業分野はどこになるのでしょうか。

藤原:EVで協業します。先に申しましたように、EVマーケットは厳しいと考えています。トヨタさんとは開発や安全性、購買などさまざまな分野で協業できる可能性があると思っています。

■EVでマツダの“走り”はどう表現されるのか

---:CX-5が登場しました。私はまだ乗っていないのですが、乗る前からマツダのブランドと一致した走りが完全にイメージできます。マツダはそれだけのブランド価値を非常に短期間で醸成してきたと思います。

藤原:まだまだ全然できていません。例えばアウディの歴史をみても30年はかかっている。我々は2001年にZoom-Zoomから始めてまだ15年程度。あと15年はかかると思っています。

---:そうすると、EVでもそのブランド価値をぶらさずに育てていかなくてはいけませんね。

《三浦和也》

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