世界最大のIT見本市CESでも引き続き注目を集めたVR、ARはゲーム業界にとどまらず、自動車業界にも浸透しつつある。ユーザー体験や販促のためのツールという認識が強いが、車内体験の向上、さらには開発に関する新しい技術も続々登場している。そんな自動車に関するVR、ARの最新動向をまとめた。
◆ARヘッドアップディスプレイ技術:ハーマンとWayRayの提携
自動車部品・オーディオ機器の大手ハーマンとホログラフィックARディスプレイ開発のWayRayは、CES出展に合わせ、自動車市場向けの戦略的提携を発表した。広い視野角のフルフロント・ヘッドアップディスプレイを開発するためのコラボレーションとなる。ハーマンのCESブースでは、既存の技術よりも視野角が広い、フルカラーのヘッドアップディスプレイを車のフロントガラスに投射するデモが行われた。
このコラボレーションの目的は、ハーマンのコネクテッド・カーのプラットフォームに完全に統合し、自動運転をインテリジェントで安全かつ直観的な体験とすることだ。
WayRayのシステムには、ヘッドアップディスプレイハードウェア、車の追跡装置、運転支援コンポーネント、およびシステムを制御・管理するためのアプリケーションが組み込まれている。
ほとんど目に見えないフィルムをほぼ全面に貼り付けたフロントガラスは、ホログラフィックなワイドスクリーンとして情報の新しい媒体となる。標準運転アプリケーションでは、速度、経路情報、安全データなどの情報をドライバーおよび乗客に提供。同時にエンターテインメントを楽しむこともできる。
米技術系ニュースサイトVenture Beatの17日付記事によれば、WayRayのVitaly PonomarevCEOは、これほど洗練されたレベルでは「今の市場に競合製品はない」と自信を示す。さらに、既存の製品が約30cm3のスペースを必要とする一方で、同社のハードウェアコンポーネントはコンパクトサイズ。極めて簡単にダッシュボードに収まるという。
HARMAN Connected Car社のPhil Eyler社長は「ハーマンとWayRayの提携は、シームレスで統合され接続された、より安全なクルマ体験を提供する絶好の機会」と述べ、WayRayのPonomarevCEOも「車の周りで何が起こっているかを視覚化し、車がどのように走っているか、また経路情報を提供することで、乗客は実際に運転していなくても、運転に関して完全な情報を把握できる」と、ホログラフィックディスプレイがもたらす安全性を強調する。
昨年11月、韓国サムスンがハーマンの大型買収を発表しており、Venture Beatは「ますますホットなカーオートメーションとテレマティクスの分野へのエントリーポイントとなっている」ハーマンの市場価値の高さについても伝えている。
◆透明ガラスにデジタル情報を表示、スマートグラス開発加速か
ディスプレイ技術メーカー米DigiLensは19日、透明ガラス上にデジタル情報を表示する、AR / VR製品開発のための2200万ドルの投資調達を発表した。
同社は2021年までに一千億ドル級の市場が見込まれるという、ARおよびVR用のホログラフィック光導波路技術と関連ナノマテリアルを開発している。同社に投資するフォックスコン、ソニー、コンチネンタル航空、パナソニックなど大手企業との戦略的提携を活用し、企業、コンシューマー、および輸送アプリケーション用のARディスプレイやセンサーを市場に投入していく。今回の投資で、二輪車ヘルメット、車のフロントガラス、VRヘッドセット、戦闘機などの航空宇宙用途、ARスマートグラスなどの製品の開発は、さらに加速する見通しだ。
同社のジョナサン・ワルダーンCEOが「完成に数年を費やした」と語る、HUD(ヘッドアップディスプレイ)製造のための回折光学マテリアルと露光プロセスにより、フルカラーかつ広角視野の革新的なディスプレイが実現する。
「次世代ディスプレイ技術はガラスだ。ガラス上に表示されるデータは、ゲーム、ナビゲーション、テレプレゼンス、教育、産業、医療、軍事などの分野における、拡張現実や複合現実アプリケーションにとって重要な機能」と、ベンチャーキャピタル会社の投資家の評価は高い。
「AR-HUDは、ドライバーの安全性を向上させるだけでなく、自動車が実際に見ているものに対するドライバーの信頼を高め、自動運転の普及を加速する」と、コンチネンタル航空も安全性への貢献を重視する。「大型のAR-HUDディスプレイは、重要な運行情報を目の高さに表示し、自動運転車が見ているものをそのまま見せるため、ドライバーの安全を確保できる」とする。
またパナソニックは数年前から同社を支援。未来の車のデザインにAR-HUD技術の活用を考えている。
◆VRを開発に活用するファラデー・フューチャー
電気自動車を開発する新興企業ファラデー・フューチャーは、車両の3Dモデリングに積極的にVRを取り入れている。「VRは、私たちが実験と実装を効率的に行うことを可能にする」と公式サイトでVRの効用を説くスタートアップ企業にとって、仮想空間に設計とエンジニアリングのプロセスを置くことは、最小限のリスクでアイデアを形にする最良の方法といえる。
自動車のインテリアデザインには通常、車の内部キャビンの大型レプリカを作る必要があるが、そのためには数ヶ月の時間とコストがかかる。一方VRシステムを使用すれば、完全に設計されたインテリアを1日で実現し、膨大な時間と研究開発コストを節約できる。仮想世界で作業することで、新しいアイデアや技術にしたがって調整可能な、インタラクティブな環境を構築することができる。「プロセス全体を加速し、予期せぬほどの可能性を秘めている」と同社が最大に評価するVRは、今後も開発の中枢を担うと見られる。
昨年4月、ファラデー・フューチャーはネバダ州ラスベガスの製造施設建設を発表し、10億ドルを投じて今後10年間で約4,500の雇用を創出するプロジェクトを開始している。「通常は4年かかるプログラムを、半分の時間で完成させる」目標には、VRによる効率的な開発が大いに貢献することだろう。