【CES 2017 総括】 潮目が変わった!CarとITが歩み寄りターゲットはレベル3HMI生体認識も

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NVIDIAのブースにはTesla モデルSが置かれていた。NVIDIAのSoC「DRIVE PX2」が積まれている。
NVIDIAのブースにはTesla モデルSが置かれていた。NVIDIAのSoC「DRIVE PX2」が積まれている。 全 6 枚 拡大写真

今月始めに開催されたCESを総括してみたい。自動車業界から見た今年のCESは、大きく3つのテーマが明らかになった年であった。

■レベル3の実現に向けた生体認識の提案
■NVIDIAの伸展
■AlexaによるIoTの実現

以下、それぞれのテーマについて論じてみたい。

■レベル3の実現に向けた生体認識とHMIの提案

これまで完全自動運転、つまり”無人運転”を標榜して憚らず、圧倒的なソフトウェア開発力を背景に自動運転の実用化を強力に推し進めてきたGoogleが、今回のCES開催を前に一歩引く形となった。

※参考記事
撤退報道、新会社設立・・・Googleの自動運転車はどうなる?最新動向に迫る より

”米国のテクノロジーニュースサイトThe Informationは12日、「プロジェクトに最も近い関係筋の情報として、Googleの持株会社アルファベットが、ハンドルもペダルもない革新的な車の開発計画を、少なくとも当面は諦めた」と報じた。同サイトによれば、Googleは今後「自動車メーカーと提携し、より伝統的な機能を備えた自動運転車の現実路線に舵を切った」とされる。米国のニュースサイトThe Vergeはこの報道を受け、アルファベットCEOラリー・ページなど、ハンドルもないまったく新しい車の自力生産の計画に現実性を認めない反対派と、 まるごと開発したいXの自動運転車部門との間に、対立の動きがある、と伝えた。

一足飛びに無人運転を目指すGoogleを意識して、浮足立っていたかのように見えた自動車業界だが、今回のCESにおいては、まずは次の「レベル3」を実現するための課題を、ひとつずつクリアしていくための現実的な提案がみられた。

レベル3に向けた最大の課題とは、昨年夏のテスラの事故で明らかになったように、「いざという時、自動運転から人間に、運転をきちんと引き渡すこと」だ。人間のことなので、常に運転ができる状態をキープするのは難しい。よそ見をしたり、スマートフォンを見たり、眠くなったりするものだ。

しかしそんな時でも、きちんと人間に運転してもらうために、「生体認識」の技術を提案していたTier1サプライヤーが非常に目立った。私が見たところだけでも、ボッシュ、ZF、コンチネンタル、日立オートモティブシステムズ&クラリオン、Gentex、NVIDIA。錚々たるサプライヤーの面々だ。生体認識の方法は様々だが、いずれも現実的な提案であった。

今年夏に発売されるメルセデスベンツ『Sクラス』では、限りなくレベル3に近いレベル2が実現される。生体認識を搭載したクルマは、まもなく市場に出回ることになる。

■NVIDIAの伸展

車載SoCの市場が見えてきたいま、今回のCESではNVIDIAの無双っぷりが例年にも増して目立った。アウディとのさらなる提携を発表し、さらにボッシュ、ZFとの提携も発表。さらに新しいSoC「Xavier」を発表するなど、パワフルかつスピーディ。ジェンスン・ファンCEOの辣腕ぶりには圧倒されるばかりだ。

注目すべきは、ボッシュ、ZFとの提携である。両社ともに世界的なTier1の巨人であり、NVIDIAよりも車載のノウハウがある。量産化に向けた自動車メーカーとのすり合わせ開発の経験値、サプライマネジメントの能力など、言わずもがなであろう。ZFからは具体的な製品(ZF ProAI)も発表された。

自動運転のAIに欠かせないのがディープラーニングの能力であり、そのディープラーニングに欠かせないのがGPUだ。だから、GPUに強いNVIDIAが市場を席捲しているわけだが、対抗する動きはある。車載の実績が豊富なクアルコム(NXP=Freescaleを買収)は、スマートフォン向けSoCで鍛えた”コネクテッド”能力が強みだ。また、BMW-Intel-Mobileye連合のように、自動車メーカーも巻き込んで共同開発する動きもある。

■AlexaによるIoTの実現

今年のCESでは、「Alexa」のロゴをそこらじゅうで見かけることになった。Alexaとは、米Amazonが提供する音声AIアシスタントである。連携インターフェイスが外部にも提供されており、それを利用した数々のスマート家電を見かけたほか、自動車メーカーでも、フォードとフォルクスワーゲンがAlexaとの連携を発表した。

なぜAlexaが選ばれるかというと、北米ではAlexaが市場に浸透しており、Alexaに対応するAPI、デバイス群が多い(Alexa skillsと呼ばれる)。Alexaだとできることが多いのだ。どのようなことができるかというと、フォードのブースに提示されていたのは以下のような例だ。「リビングの電気をつけて」「室温を22度にしておいて」「ガレージのライトをつけて」「クルマのバッテリーの状態を教えて」「クルマをロックしておいて」。

これはつまり、Alexaが人間とのHMI(ヒューマン=マシン・インターフェイス)でデファクトになったため、IoTデバイスはAlexaと連携して動くようになり、そしてコネクテッドカーもAlexaと連携して、スマートホームとつながった。AlexaがIoT機器のハブとなり、人間からのコマンドを聴いてIoTのベネフィットを実現していることになる。家電とクルマを巻き込んだ、まさにCESならではのショーケースであった。

■まとめ

現実の市場では、自動運転のレベル2が普及フェーズに入り、いよいよレベル3の発売前夜という状況になっている。いっぽうで、レベル3に向けた課題も明らかになり、それに対するアイデアがCESで提案された。来年のCESでは、レベル3が実用化されているだろうか。あるいは、現実の製品はきっちり線引きされたものではなく、限定的な状況ではレベル3が実現している可能性もある。

レベル4については、自動車メーカーだけでなく、サービサー主導の実証実験が世界中で盛んだ。日本でもDeNAが無人運転バス「ロボットシャトル」の運用事例がある。いまは限定的な状況での運行だが、徐々に運行範囲が広がっていくだろう。ボトムアップの動きとして注目したい。

またレベル4に向けては、肝心な“AI”そのものがまだ見えてこない。SoCの上で動くソフトウェアのことだ。圧倒的なテスト走行距離をこなし、世界をリードしているGoogleは、FCAと提携し、ホンダと協力関係を結んだが、その成果は未知数だ。そしてその競合となるのはTRIか、あるいはUberか。

そしてコネクテッドカーについて。Alexaがさらにデファクトの地位を固め、IoTのベネフィットが拡張していくのか。そして高精度3D地図の利用が始まるのかどうか。また、つながることによる「自動運転車の乗っ取りリスク」も議論が進んでいる。来年に向けて、このあたりが注目ポイントだ。

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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