【インタビュー】ボルボ独自のプレミアムブランドへ…デザインバイスプレジデント

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ボルボデザインバイスプレジデントのジョナサン・ディズリーさん
ボルボデザインバイスプレジデントのジョナサン・ディズリーさん 全 16 枚 拡大写真

ボルボカージャパンは、ラインナップのトップに位置するボルボ『S90』、『V90』、『V90クロスカントリー』の導入を開始した。先般販売が開始された『XC90』以降、大幅ににデザインが変わったボルボ。その理由やスカンジナビアンデザインとは何かをボルボデザインバイスプレジデントのジョナサン・ディズリーさんに聞いてみた。

■スカンジナビアンデザインは哲学だ

---:ボルボのデザインを語るときに、スカンジナビアンデザインというワードが用いられます。このスカンジナビアンデザインとは具体的にどういうものなのでしょうか。

ディズリーさん(以下敬称略):私はスウェーデンに住み始めて16年ちょっとになりますが(彼はイギリス人)、スカンジナビアンデザインを考えるときにはこの国の人々が持つ価値観を思い浮かべます。周りの人々に対して慮り、環境に対しても大いに気遣い、何に対しても平等で、それは子供に対しても同じです。つまり、ライフスタイルを通して、いかにそれぞれの人たちに対して居心地の良いものに出来るかという価値観を持っているのです。

また、スウェーデン人やスカンジナビアに住んでいる人たちは全体的に教育水準が高く、知識が豊富です。その一方で物静か。他人の意見に対して敬意を払いつつ、自分の知っていることはひけらかさないのです。

優れたデザインに対してリスペクト、敬意を払うことも特徴です。それは、表面上だけではなく、どのようなクオリティのものであるか、クラフトマンシップがどのくらいそこに注がれているのかまで見ています。そして、リスペクトされたデザインの設計思想や、デザインは自然から生まれて来ていることが多い。こういったところからスカンジナビアンデザインは生まれてきているのだと思います。

---:クラフトマンシップを重視したり、知っていることをひけらかさなかったりということはイギリスにも共通するように感じますが。

ディズリー:確かにそういったイギリス的なところはあるかもしれませんね。しかし、スカンジナビアのデザインは日本にも似ていると思います。具体的には素材に対して真摯であるということです。例えば、家具などで木材を曲げて使うときに、無理やり感がなく自然な形で曲げていくでしょう。それは革の使い方も同じで、仕上がったときに不自然な姿にしないところはとても似ていると思います。

---:そうするとスカンジナビアンデザインのキーワードは自然という言葉が相応しいですね。

ディズリー:自然、ナチュラルというだけではなく調和、シンプル、エレガントなどになるでしょう。それ以外にも丹精ということがあります。ディテールにまで気を使い作り込むことによって、丹精に作る。だからこそ寿命が長くなるのです。

寿命といえば、スウェーデンの街中にいると、30年から40年前のボルボが新品のような状態で走っているのを多く目にします。つまり寿命が長いのです。そういうクルマを作るメーカーとしてボルボは認識されています。

先日、スウェーデン政府が、電化製品や電話などを新しく買わずに修理をして、使い続けるということに対して税金を返金するということを発表しました。これは、それぞれの企業に対して、より寿命の長い、信頼性の高いものを作ってもらうことを促すための政策でもあるのです。そうすることで新しくものを買わない、ひいては地球にとって優しくなることにつながるのです。これがスカンジナビアンデザインの価値観にもつながるものなのです。

■自分たちの将来を見据えたデザイン

---:さて、そのスカンジナビアンデザインに根ざしてS90、V90はデザインされたのですが、ボルボのデザインは、XC90以降ドラスティックに変わったという印象を持ちます。その理由は何でしょう。

ディズリー:オーナーが変わりましたからね (笑)。ジーリーホールディンググループは、我々をとても信頼してくれており、新しいブランドを作ることを託してくれています。つまり、これまでのやり方を今後も踏襲する必要がなく、以前のプラットフォームやモデルを使う必要もなくなったのです。

そこで、これから先、未来に向けて我々はこうありたい、こう見られたいという方向性を見出さなければいけませんでしたし、かつ特別なものを作らなければいけないという認識がありました。以前は、ドイツ車よりも良かった、パフォーマンスが高かった、というレベルでの特別感を見出そうとしていました。

しかし我々には、テクノロジー、デザイン、クラフトマンシップ、そして安全性という強み、長所があります。そこで、もう一度これらすべてを使い、更にそこを高めていくことによって、再度人々を惹き付けなおし、かつ、遠目から見てもボルボだと認識できるように刷新したのです。

実は、ジ―リーホールディングスのオーナー、リッシャ・フーからこういうことをいわれたのです。「確かにスカンジナビアやスウェーデンに住む人々はひけらかすことを避けるかもしれません。それでもこのクルマは世界中で売らなければいけないのです。そこで、ひけらかすのではなく、特別なものに向けてレベルアップをする。そのときに、何があるからボルボがスペシャルなのか、何があるからスウェーデンのデザインはスペシャルなのかをもう一度考えなければいけません」。

そこで、シンプルだけれども美しいもの、素材感もありクオリティも高く、クラフトマンシップも溢れさせるために何をしなければいけないのかを考えていったのです。

もうひとつ、これまで長いお付き合いのあるお客様は、我々にロイヤリティを非常に感じてくれています。そういった方々は新しいボルボの価値も認めてくれています。例えばとても細かいのですが、インテリアの宝石のようなディテールなどです。よく欧米のホテルに行くとベッドにチョコレートが置いてあったりするでしょう。そういった小さな幸せ、小粒だけれども非常に価値のあるものがこういったディテールに込めた思いで、お客様に喜びを感じてもらえると考えています。

更に、こういったことが、これまでボルボが自分たちのレーダーに引っかからなかったお客様にも、プレミアム性もあり、他のブランドよりも良いかもしれないと気づき始めるきっかけになると考えています。そういったレーダーの範疇外だった方々が惹き込まれることで、いまボルボに乗っているお客様は、自分はもうすでに持っていると、(先駆者的な)誇りを持ってもらえるでしょう。

■ボルボが目指すプレミアムブランド

---:いまプレミアム性というワードが出ましたが、ボルボが目指すプレミアムブランドとはどういう方向性なのでしょう。

ディズリー:我々独自のもので、オーナーのリーもそれを目指すようにといっています。その中で一番を目指す。一番以下だと他にあるものになってしまいますからね。

例えば、注文したクルマが納車されるときは特別な瞬間ですよね。そのとき、これまではキーをポンと渡されるか、あるいはテーブルの上に置いてありませんでしたか。特別なものを買ったはずなのに敬意も払われず、プレミアム感もありませんでした。私は本当にいらいらしたものです。

そこで、私が昔から考えていたことを実現させました。素敵な腕時計を買ったとき、その箱を開けるときにドキドキワクワクしませんでしたか。そこで、ボルボの納車時には、ロレックスの腕時計を買ったときのような特別感を演出したいと、黒い箱の中に 内装色とお揃いのキーを2つ入れてお渡しするようにしているのです。これを受け取るときはお祝いのとき。ボルボを買って良かったと誇りと思える瞬間だと思うのです。

■“オタク”からカーデザイナーへ

---:ところでディズリーさんはなぜカーデザイナーになったのですか。

ディズリー:なんでだろう(笑)。初めて自動車の絵を描いたのがいつだったのかは全く覚えていないのですが、4歳か5歳ぐらいにはもう描いていました。しかも上手かったのですよ。自動車も大好きでお小遣いが入るとマッチボックスを買っていました。

自動車のデザインを仕事に出来るというようなことは知らなかったのですが、造形用の青い粘土みたいなものを使って、ミニカーの形状を変えてみたりと、小さい頃からそうしたことを好んでいました。

高校に入ったときにカーデザイナーという職業があるということを先生に聞いて、そんな仕事があるのかと思ったのです。また、製品のデザイン以外に、どのように組み立てられているのか、どのような作りになっているのかということにも興味がありました。よくものを分解して、もう一度組み立てなおしたりしていました。

その後、産業デザインについても学びました。デザインをするにあたってその背後に何らかの哲学や考えがあるものが好きなのです。大学の先生から、ロイヤルカレッジオブアートのデザインコースを勧められ、入学しました。

実はここで、カエルの形をした電気シェーバーをデザインしたのです。なぜそんなデザインにしたのかですって? 口元にそんなものが絶対にあったら嫌だと思うものをデザインしたのですよ。そのようにデザインに考えがあったり、遊び心があったりするものが好きなのです。

ロイヤルカレッジオブアートは修士までいて、 そのときにヘリコプターをデザインし、それがアウディに気に入ってもらい、アウディで自動車のデザインをするようになったのです。そこからずっと自動車のデザイナーです。子供の頃からの夢がかなっていまに至るということですね。

---:これからカーデザイナーになりたい若い人たちに一言お願いします。

ディズリー:私は子供の頃、学校の友人に“オタク”呼ばわりされていましたし、女の子には笑われてもいました。たとえ友人から変なのと思われたとしても、自分が情熱を持っていれば、それに向けて努力をして様々なことをやっていけるものです。しかも楽しんでやっていると、その体験や経験自体がより豊かなものになっていくと思います。

いま、インタビューを受けながらついつい外の景色を眺めて、どんなクルマが走っているんだろうと見ているのですが、面白いのはそれぞれの文化で違うクルマが走っているのです。外を見ながらなるほどこの環境ならこういうクルマが確かにあうと何となく考えていました。なのでやっぱりオタクは抜けていないようですね。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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