【マツダ デミオ 3400km試乗 後編】遠くまで足を伸ばしたくなる燃費、疲労度の少なさ…井元康一郎

試乗記 国産車
マツダ デミオ XDツーリングのMTで3400kmを走った。写真は外輪山の阿蘇スカイラインにて。
マツダ デミオ XDツーリングのMTで3400kmを走った。写真は外輪山の阿蘇スカイラインにて。 全 23 枚 拡大写真

マツダのBセグメントサブコンパクト『デミオ』のターボディーゼル+6MT「XDツーリング」で3400kmあまりロングツーリングする機会があった。前編ではマイナーチェンジで大きく変わったシャシー性能についてリポートした。後編ではパワートレイン、安全装備、居住感、装備の使い心地などについて触れる。

ディーゼル+MTを気持ちよく乗るなら

105ps/220Nm(22.4kgm)を発生する1.5リットルターボディーゼル+6速MTのパフォーマンスは、ツーリング用途には必要十分なレベルで、1080kgというディーゼル車としては至極軽量な車体を余裕を持って加速させる。ただ、ディーゼルスポーツのような強烈なパワー感を味わえるというほどでもなく、あくまで実用エンジンの範疇にとどまる。昨年のゴールデンウィークに3700kmツーリングを行ったホンダ『フィットハイブリッド』が驚くほど速かったのに比べると見劣りする。

動力性能がそれほど高くないのは、6速MTが最終減速ギアまで含め、かなりのハイギアードなのが原因と思われる。変速機のカバレッジは市街地では1~3速、一般的な郊外路で~4速、流れの速いバイパスで~5速といったところで、6速を使えるのはアップダウンの少ない高速道路くらい。一般郊外路や山岳路の制限速度が80~110km/hと高い欧州への適合性を主眼としたような仕様で、速度の低い日本ではポテンシャルを生かしきれずもったいないという感があった。100km/h@6速クルーズの回転数は1600rpm強である。

デミオディーゼルの運転は、他のディーゼルとちょっとコツが異なる。このエンジンはNOx(窒素酸化物)吸蔵還元触媒を使わずにディーゼル排出ガス規制をクリアしていることが売りだが、低NOx燃焼を保つためか、1200rpmを切るような極低回転のフレキシビリティは他のディーゼルに比べて劣る。加えてギアレシオがワイドなため、普通のディーゼルの間隔でポンポンとシフトアップしてしまうと、ドライバビリティが悪化した。常用回転の下限を1300rpmと考え、普段は1500rpmあたりをキープ、急勾配の登坂時には2000rpmあたりになるようギアを選択するのが、スムーズに走るのに最も良いように感じられた。

実燃費でも30km/リットルを越える

燃費は、普通のディーゼルに比べてやや高い回転域で走ってもなお、素晴らしい数値であった。とくに郊外路の走行比率が高いロングツーリング燃費は優秀の一言で、熊本北部~鹿児島までの227.9km区間は、熊本付近でかなりきつい渋滞に巻き込まれながらも実燃費30.4km/リットルをマークした。

その区間は多少ペースを抑え気味に走ったのだが、ブレーキングを多用してクルマの運動エネルギーを無駄に捨てるような走りをしなければ、ハイペースで走っても燃費の低下は小さかった。その他の区間では最低が26km/リットル、最高28.2km/リットルであったが、最高値は大阪東部から夜間の速い流れにがっつり乗って浜松まで達したときのものだった。

東京から鹿児島、および熊本から東京のロングラン実燃費は通算で27.0km/リットル。筆者が800km以上のロングドライブをこなしたモデルのなかでは、トヨタ『アクア』、フィットハイブリッドを僅差で抑え、最も良い数値であった。コールドスタート&ショートトリップが多かった鹿児島エリアでの参考燃費は19.5km/リットル。これらはすべて、後述するDPF再生込みの数値である。

ターボディーゼルは排出ガス中の有害物質のひとつである粒子状物質をフィルター(DPF)で捕集し、一定以上たまると燃料を余分に噴射してDPFの温度を上げて粒子状物質を焼く、いわゆるDPF再生が行われる。デミオの場合、ロングドライブ時で通常、220~240kmごとに再生が行われた。昨年2月に乗ったアクセラディーゼルが平均350km間隔だったのに比べると短い。再生には距離にして15~20kmほどかかり、その間だけは燃費が威勢よく低下する。

面白いのは、負荷が軽すぎるとそのインターバルが短くなる傾向があったこと。熊本~鹿児島間を、試しにペースを抑え気味に走ったとき、途中で再生が1回行われたが、鹿児島に到着後、前回の再生から150kmほどで早くも再生モードに入り、「えっ、もう?」とびっくりした。DPF再生の間隔が短くなってしまっては元も子もないし、燃費はもともと非常に良いので、エコランより走りを楽しんでしまったほうが断然トクな気がした。

デミオの場合、DPF再生込みでも上記のように燃費は至極良好なので、あまり気にせず走るのが吉だと思われた。DPF再生が行われていない区間に限定すると、ロングランではオンボード表示でいとも簡単に30km/リットル台後半に乗る。市街地でも流れが良ければ30km/リットルをオーバーさせるのは簡単だ。粒子状物質の生成量を減らしてDPF再生のインターバルが長くなったり、DPF再生のさいの熱損失低下で再生時間が短くなるなどすれば、実走燃費をさらに大幅に引き上げることも可能であろう。今後の技術革新が楽しみである。

これだけ燃費が良いと、ワンタンクでの航続距離もそれなりに期待したくなるのだが、デミオの6速MTモデルのタンク容量は35リットルと、ATより9リットル少ないため、レンジは短い。ロングドライブ時は700km台半ばくらいで給油するというイメージだ。これはJC08モード燃費30km/リットルに到達させるため、車両重量を計測に有利なしきい値である1080kg以下に抑えるための措置なのだが、顧客にとっては燃料タンクが小さいことは何のトクにもならない。44リットル版を作ってくれればデミオディーゼルも余裕で航続1000kmクラブ入りできるのに…と、ないものねだりをしたくなったのも確かである。

あると嬉しいアダプティブLEDヘッドライト

デミオでロングツーリングをしているなかで、これは素晴らしいと思った装備がある。ひとつはハイ/ロービームを自動的に切り替える「アダプティブLEDヘッドライト」だ。デミオのランプは単にハイ/ローを切り替えるだけでなく、先行車や対向車を避けて照射するインテリジェント配光機能も持つ。実際に走ると、照射範囲が刻一刻、うねうねと変化するのが見て取れる。これがあると都市部以外はほぼ常時ハイビームとなるため、路肩、標識、案内板等々、夜間走行時の視界がまるで違う。

筆者がインテリジェント配光アクティブハイビームつきの市販車で初めてロングドライブをしたのは2014年夏、ボルボ『V60 R-DESIGN』のときだった。V60の自動ハイビームのハイテク感はすごいもので、対向車が現れると影がすっとそのクルマのほうに延び、向こうの動きに合わせて影がすーっと動く。初めて見た時は“何これかっこいい”と思ってしまったほどだ。

デミオのインテリジェント配光にはそこまでのハイテク感はないのだが、ボルボに対して優越しているポイントもある。11分割式というマルチセグメントLEDであることを生かし、先行車に光を当てないまま上の道路案内板は照らすなど、ウルトラCの照射パターンをいくつも持っている。また、郊外路で照明が並んでいる箇所など、他のモデルではロービームになってしまうような場所でも音を上げずにハイビーム状態を保つのも好印象だった。

ただ、対向車は問題ないのだが、先行車の認識については少々煮詰めが甘いところもあった。認識率が良くなかったのは、メッキ部分の多いトラックやデコトラ。そういう車両が直前にいるとき、ブレーキランプが明るく点灯するとカメラが認識してその部分をロービームにするものの、ブレーキをリリースしてテールランプが暗くなると見失い、ハイビームに切り替わるといったことが何度もあった。そういう時は「おいおいデコトラにパッシングしないでくれよ」と、慌てて手動でロービームに切り替えることになる。

ハードウェアのほうはすでに十分なスペックを達成しているので、アルゴリズムをさらにブラッシュアップして認識精度を上げてほしい。よいプログラムができたらすでに装着車を買った顧客にもサービスで新ソフトを入れてあげるというのも一興というものであろう。

そんな冗談のような挙動をすることもあるとはいえ、アダプティブLEDヘッドライトがあったほうが断然いいことに揺るぎはない。Bセグメントでフルアクティブハイビームを装着可能なのは輸入車を含めて目下、デミオのみ。価格はブラインドスポットモニターやバック時の車両、歩行者近接警報とセットで税込み11万7720円と高いが、せっかく買うなら最初からそれだけ高かったと思って装着するのが吉だと思われた。

もうひとつ、あってよかったと思ったのは、先行車に追従するアダプティブクルーズコントロール。全車速追従ではないが、クルーズ時の他車の認識精度はまずまずで、バイパス走行などは至極楽ちんであった。試乗車は6速MTだったが、シフトアップ時は次のギアより少し高めの回転数で待機するようチューニングされており、スロットルを自分で調節せずともショックほぼゼロでシフトチェンジできた。シフトダウン時もクラッチミートの瞬間にちゃんと回転合わせがなされ、乱暴にクラッチをつながなければやはりスムーズさは維持された。なかなか賢い制御である。

弱点はリアシート

オーディオは6スピーカー。サウンドは標準品としては悪くはないが、中音はややキンキンとした響きで、艶やかさに欠ける。『CX-3』はBOSEサラウンドシステムをチョイスすることで手軽にオーディオをアップグレードできるのだが、デミオには設定がないのが何とも残念なところ。不満がある人は純正と置き換え可能なスピーカーユニットが市販されているようなので、とりあえずそれを試してみるといいだろう。

マツダコネクトのカーナビは出始めの頃と比べると精度が上がり、変なところを走っているように表示されることはほとんどなくなった。ただ、センターコンソール上のダイヤルを使った操作性はあまり良いとは言えない。また、昨年2月にアクセラでロングツーリングを行ったとき、一般道優先でルート検索すると無料の新直轄高速道路も避けてしまうといった変な癖があるのが気になったが、それは今も解消されていなかった。低コストでカーナビを装備できるというメリットは結構大きいのだが、もう一歩作り込んでほしいところだ。

室内の居住性は、前席については問題はない。コクピットは完全にドライビング優先の仕立てで、ワインディングで横Gがかかっても左旋回ではドアトリムに上腕を預け、右旋回ではセンターコンソール前部をニーパッドがわりにして体を効果的に支持できるため、とても楽だ。シャシーやドライビングポジションの良さだけでなく、この運転席まわりの仕立てもロングドライブ時の疲れを極小化するのに大いに貢献しているものと思われた。

弱点はリアシート。もともと欧州Bセグメント的な2+2のパッケージングであるため狭いのだが、それ以上に気になったのはリアドアの有効開口面積が狭いことと、開口部上端の後半分がストンと落ちているため、腰をかがめるのが辛くなった高齢者が乗り込むのはけっこう難儀する。後席へのアクセス性はBセグメントとしては最低レベルであった。ボディ剛性を確保するためにこういう開口面にしたのだろうが、もうちょっと広く取ってもよかったのではないかと思う。荷室は広くはないが、長期旅行用のトランクを横積みで2個置けるくらいの余裕はあった。少人数ツーリングであれば十分だろう。

このクルマならどこまででも走れる

まとめに入る。デミオでのロングツーリングはとても楽しいものであった。信頼を置ける足回りや疲労蓄積の少ないシート、加えて夜間視界を強力にアシストするフルアクティブハイビームなどがもたらす“このクルマならどこまででも走れる”という感覚は、3441kmを走ってクルマを返却するまで失われることがなかった。乗り心地がもっとフラットになり、高速やバイパスなどでのクルーズ感が良くなれば、名品の域に達することができそうに思えた。

半面、人を乗せて走るときは室内の狭さやリアドアからのアクセス性の悪さがネガティブに感じられる。このことから、デミオはこれ1台ですべてをすませるようなオールラウンダーではなく、ミニマムサイズのグランドツーリングカーに後席の利便性を追加したような、パーソナル色がきわめて強いサブコンパクトと言える。

ライバルはBセグメントハッチバックモデル全般だが、ドライビングを積極的に楽しみたいというカスタマーにとっては、ある程度の足を持っていることが条件になろう。輸入車勢ではフォルクスワーゲン『ポロ』、プジョー『208』、ルノー『ルーテシア』あたり。日本車ではホンダ『フィットRS/ハイブリッドSパッケージ』、トヨタ『アクアG's』、日産『ノートNISMO』、スズキ『スイフトRS』など、走行性能強化型のモデルが競合しそうだ。

デミオでディーゼルとガソリンのどちらを選ぶかということも悩ましいところであろう。1000kmツーリングのような旅を日ごろから積極的に行うカスタマーであれば、ディーゼルのメリットは大きい。たとえば倉敷から507.9km走行し、熊本北部の給油所で18.4リットル給油した際の支払額は1637円。気分としてはほとんどタダでドライブしているような感じだった。

ガソリン車との車両価格の差を埋めるという計算の仕方だと相当走らないと取り戻せるものではないのだが、ランニングコストが低廉であることは足を遠くまでのばしたくさせる効果があり、回り道、寄り道への心理的バリアが低くなる。まさしく気分の問題なのだが、気分はクルマの満足度にとってとても重要なものだ。このフリーライド感は、月定額制の充電サービスを実施している日産のEVに次ぐもので、ツーリングマニアならそれだけでディーゼルを選んでもいいところだ。

一方、ロングドライブもするが1シーズンに1回という程度のライトなツアラーであれば、車両価格重視でガソリンを選べばいい。デミオのガソリンでのロングドライブは経験がないが、ショートドライブの経験に照らし合わせればロングでは20km/リットルは確実に上回れそうだったので、騒ぐほど燃料代がかさむわけではない。エンジンが軽い分、ワインディングロードなどでの鼻先の軽さはこちらが上で、そこに価値を見出すこともできそうだった。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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