「みんな運転うまくてビックリ!」相鉄が運転体験イベント初開催

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相鉄は初の「電車運転体験会」を開催。参加者は一様に緊張した面持ちで電車を運転した。
相鉄は初の「電車運転体験会」を開催。参加者は一様に緊張した面持ちで電車を運転した。 全 23 枚 拡大写真

関東大手の相模鉄道(相鉄)は5月3日、JR相模線の厚木駅に隣接する厚木操車場(神奈川県海老名市)で「電車運転体験会」を開催した。相鉄が運転体験イベントを行うのは初めてで、大手私鉄の運転体験イベントとしても珍しい。参加者は緊張しつつも電車の運転を楽しんだ。

参加者は同日9時、相鉄本線かしわ台駅の改札前に集合。すぐ近くにある車両基地(かしわ台電車区・車掌区)の会議室に移動し、動画などを使った講習を受けた。会議室の奥に設置された実物のブレーキハンドルや運転シミュレーターも使い、ブレーキ操作の「感覚」をつかんでいった。

約1時間の講習を終え、再びかしわ台駅へ。ここから7000系電車の回送列車に乗り、厚木線を通って運転体験会場の厚木操車場に向かった。通常は乗れない厚木線の列車に乗ることができるのも、このイベントの「目玉」の一つ。参加者は運転台の後ろから、厚木線の線路の様子をじっくりと眺めていた。

現在の相鉄本線は1926年5月、二俣川駅から厚木駅(厚木操車場)までの区間が開業。これにより現在のJR相模線との接続が図られた。しかし戦時中の1941年11月、現在の小田急線海老名駅に接続させる区間が開業したのに伴い、厚木駅に乗り入れる部分は厚木線として独立。旅客列車は運行されなくなり、戦後は在日米軍向け航空燃料を運ぶ貨物列車の運行や、新造車両の搬入ルートとして使われてきた。

回送列車は10時半頃、厚木操車場に到着。外に出ると、見たことのない黄色い車体・短い2両編成の電車が2本、留置線に並んで停車していた。これが運転体験で使用する電車「モヤ700系」。7000系を改造した事業用車両で、走りながら架線の状態をチェックする架線検測や車両の入替作業などで使われている。営業運転を行うことはなく、実際に運転される機会も月に数回程度と少ない。なかなか見られないモヤ700系を運転できるというのが、このイベント最大の「目玉」だ。

参加者は3人ずつの班に分かれ、いよいよ運転体験に進んだ。まずは運転士が手を添える形で運転し、その後は指定された地点に停止させることを目指して運転。15~20km/h程度のゆっくりとした速度で、留置線内の線路を1往復した。

参加者は運転中、一様に緊張した面持ちで、運転を終えるとホッとした表情を浮かべていた。神奈川県小田原市からやってきたという中学生は「ブレーキの微妙な調整が難しかった」と話す。通勤で相鉄線を利用している50代の男性も「自動車の運転とは全く違う難しさ。これを毎日運転されている運転士さんはすごいと思う」などと語った。

今回の運転体験距離は片道で約300m。1往復なら約600mで、相鉄線内では西横浜~天王町間の営業距離に相当する。今回のイベント参加者は「次の駅」まで列車を運転したわけだ。記者が見た限り、どなたも停止位置を大きく外すことはなく、急加速や急停車による衝撃もほとんど感じなかった。

相鉄営業部企画課の蛯原信也課長は「どなたも運転がうまくてびっくりした。皆さん鉄道ファンで、基礎知識がしっかりしているからでしょうね」と感心していた。

■徐々に緩和された運転体験イベントの「制約」

自動車を運転する場合、運転免許の資格を取らなければならない。これは鉄道の世界も同じだ。「動力車操縦者運転免許に関する省令」(1956年7月20日運輸省令第43号)に基づき運転免許を取得しなければ、通常は鉄道車両を運転することができない。

ただ、自動車は不特定多数の立入りが制限されている私有地などでは、免許がなくても運転できる場合がある。鉄道も、関係者以外の立入りが制限されていて、営業運転で使用することがない線路(車両基地の留置線や駅構内の側線など)なら、運転士の資格を持たない職員が車両を移動させることがある。各地の鉄道事業者が行っている運転体験イベントも、車両基地の留置線などが使われている。

とはいえ、安全の確保が全てに優先される鉄道の世界において、運転体験イベントを行うのは容易なことではない。とくに列車の運行本数が多い大手私鉄の場合、車両基地内の留置線であっても営業用の車両がひっきりなしに出入りしている。これでは周囲の安全に気を配りながら、運転体験を行うための線路や車両を確保するのは難しい。

また、留置線は営業車の編成より少し長い程度に敷かれていることが多い。車両の留置が目的だから当然といえば当然だが、留置線1本と車両1編成を運転体験用として何とか確保できたとしても、実際に運転できる距離は極端に短くなってしまう。相鉄も「運転体験イベントをやりたいという話は以前から社内にあったが、線路や車両の確保が難しく、なかなか実現しなかった」(蛯原課長)という。

しかし、こうした制約は徐々に緩和されていった。航空燃料輸送の貨物列車が運行を終了したことで厚木線はほとんど使われなくなり、厚木操車場の線路にも余裕が生まれた。また、2005~2006年に導入されたモヤ700系は最小2両で運転可能という短い編成のため、1本の留置線内でも相当長い距離を走らせることができる。こうしたことから、相鉄は創立100周年(今年12月)記念企画の一環として運転体験イベントの開催を実現させた。

大手私鉄では珍しい運転体験イベント、しかも通常は見ることすら難しい事業用車両の使用が予告されたこともあってか、全国各地から応募が殺到。募集定員(付添い除く)9人に対し応募総数が410人で、競争率は約46倍だった。蛯原課長は「指導運転士の確保など各部署との調整は大変だったが、イベント自体への反対の声はなかった。今回の反応を見ながら2回、3回と続けていきたいと思う」などと話した。

相鉄には「関東大手私鉄のなかで知名度が低い」という意識がある。同社は神奈川東部方面線の建設による東京都心への直通運転を数年後に控えており、今後もイベントなどを通じて認知度の向上を図っていく方針だ。

《草町義和》

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