GLM アクシーのデザインはマシーンと自然の共生がキーワード…石丸デザイナー【インタビュー】

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GLM技術本部デザイン部デザインマネージャーの石丸竜平さん
GLM技術本部デザイン部デザインマネージャーの石丸竜平さん 全 16 枚 拡大写真

旭化成とEVメーカーのGLMは共同開発で、旭化成の自動車関連部材を搭載した、次世代クロスオーバーのコンセプトカー、『アクシー』を発表した。そのデザインを担当したGLMの石丸竜平さんは、イタリアにデザイン留学し、首席で卒業した人物。氏にアクシーのデザインの考えや、イタリアで学んだデザインについて話を聞いた。

☆マシーンと自然の共生

---:アクシーのデザインは独特の世界観を感じさせますね。そこで、このモデルのデザインを始めるにあたり、どういうことを意識したのかから教えてください。

GLM技術本部デザイン部デザインマネージャーの石丸竜平さん(以下敬称略):そもそも自分がクルマのデザインを考えるにあたり、特に環境との共生については強く惹かれる部分がありました。これは、デザインを勉強する以前から自然が好きだったということもあります。自然はすごくデザインの勉強になるのです。アイディアで立ち止まった時に自然のもの、例えば面白い形の昆虫を見て、自然はこんな面白いことをやっているのだから、僕が描く絵ぐらいは受け入れてくれるだろうという慰めにもなります(笑)。そこで環境との共生というテーマはすごく面白いと思っていました。

しかし、クルマのデザインの現在のトレンドを無視してはダメですし、新しい形として提案出来るものを探っていた時に、“マシーン”というキーワードを思いつきました。実は、そのマシーンと自然は交わるのか交わらないのか、自分の中での落としどころがよくわからなかったのです。そこで実際に2つの強い思いをひとつの形に落とし込んだらどういうものになるのだろうという発想、そこからスタートしたプロジェクトなのです。

---:いわば相反するものをどうやって融合させようということですね。

石丸:その通りです。このクルマはコンセプトカーなので、フロントフードに大きな穴を開けました。実はこの穴はインテリアにもつながっているようにデザインされています。市販車ではこういったデザインはしませんが、これはコンセプトカーなので、この機械的なマシーンが呼吸したら面白いだろうと考えたわけです。そこであえて特徴的な大きな穴をボンネットの上に開けて、そこから内装まで同じような造形でつなげることで、マシーンみたいなクルマが自然の中を走りながら、自然の空気を取り入れて、水を取り入れて、光を取り入れて、呼吸しているというところを見せたかったのです。

また、私はデザイナーですが3Dも扱いますし、クレイモデルも使います。つまりバーチャルでの検討もやりながら、実際にフリーハンドでスケッチも描きます。特にクレイモデルで実際に触れる感覚を大事にしながらものを作っていくことは、自分の中ですごく大事なデザインにおける要素でした。

---:それでは、このクルマをデザインするにあたり、コンセプトワードなどはありますか。

石丸:私の中では環境との共生がひとつのキーワードでした。そこに対して自分が思っているカーデザインの世界を 、古臭くなりすぎず、しかし過去をリスペクトしながら新しいものを提案したいという思いで形作ったのです。このコンセプトカーは、実際に見て欲しいですね。写真では伝わらない良さがあると思います。実際に実車を見てもらってこのインパクトを受け取ってもらえたら嬉しいですね。

☆過去のリスペクトは1960年代から80年代

---:過去のリスペクトという点では、1980年代のコンセプトカー、夢のクルマ的なイメージや、あるいはリア周りでは1960年代のアルファロメオ『ディスコヴォランテ』を想起させるようなディテールを感じました。

石丸:意識はしていませんが、実は普段1970年代後半から80年代に生産されたクルマに乗っていますし、イタリアにいましたので、ディスコヴォランテも好きなクルマの一台です。もしかしたら無意識のうちにそういった要素を取り入れていたのかもしれません。

---:そうすると自分の中で1980年代への思いが強くあるのですか。

石丸:昔の人たちが想像したような宇宙への憧れとか、幾何学的な表現などにすごく魅力を感じていますので、そういうところがこのクルマのデザインにつながっていった可能性は高いと思います。特に意識したわけではありませんが、自然に滲み出てきているのかもしれませんね。

---:さて、そういった意識のもとに具体的なデザインに落とし込むわけですが、旭化成からは具体的にデザインについてのオーダーはあったのですか。それともGLMに全て任されたのでしょうか。

石丸:私が旭化成の思いを汲み上げながら、旭化成の手となってその形を出し尽くし、その結果、自分の中でこの形が格好良いと思った時に、旭化成に見てもらいました。そのコミュニケーションを密に取ることで、お互いの気持ちがあまりズレずに、色々な案を経ながら、最後の案に辿り着いたのです。つまり、お互いの密なコミュニケーションの中から生まれていったデザインです。

---:今回クロスオーバーとしてデザインされていますが、その他のボディタイプは考えなかったのでしょうか。

石丸:コンセプトカーはインパクトが重要です。例えばワンボックスという単語が頭に浮かんでいたとしても、最終的にはこのデザインに辿り着いたことでしょう。実はこのクルマをSUVだとかスポーツタイプだとかクロスオーバーなどとはいいたくはないのです。今回のコンセプトを全て表現した形のクルマなので、今回のこのコンセプトカー=ボディタイプと捉えて頂きたいと思います。

☆イタリア人になりたかった

---:アクシーのデザインについてはとてもよくわかりました。では、今度は石丸さんのことを教えてください。石丸さんはなぜカーデザイナーになったのですか。

石丸:子供の頃からクルマが好きで、絵を描くのも好きでした。絵を描くことを仕事にしたいとずっと思っていたのですが、そういう仕事は画家しかないと思っていたのです。ただし、子供の勝手なイメージで、画家は死んだ後にお金が入ってくると思っていました(笑)。なのでそれではまずいと思い、完全に絵を描く仕事というのは諦めていたのです。

しかしある時、クルマの絵を書いている人は必ずいるという発想に辿り着いてから、 そこからカーデザイナーになろうと高校の頃から思っていました。

子供の頃に好きだったクルマはフェラーリなどの名前を聞くと心が踊りました。『250テスタロッサ』や『250LM』など、1960年代の少し丸身を帯びた形のクルマに惹かれていました。

---:石丸さんは最近までイタリアでデザインの勉強をされていたそうですが、その時のエピソードがあればお聞かせください。

石丸:日本人は強いなと思いました。私はトリノのIED - Istituto Europeo di Designという学校にいたのですが、学校で先生がむちゃくちゃのことをいってくるのです。次の授業までにA3の紙にデザインを30枚描いて来いとある授業でいわれたとします。また次のある授業で30枚描いて来いといわれる。また次の授業で‥‥。それが5つぐらい重なると、1週間にA3で150枚描かなければいけないのです。これは死に物狂いでやらないと、クオリティが落ちるか、全部出来ないかのどちらかになってしまいます。私は、こういわれたからには見返してやれと思って、そこだけは欠かさずやりました。そうしたら卒業する時に首席だったのです。

これは実力があったからとかそういうことではないのです。実力は誰でも描けば描くほどついてくるものですし、考えれば考えるほど色々な考え方が出来るようになって、新しいアイディアの生み出し方が出来るようになります。

しかし、継続は力なり、ではありませんが、色々な経験をして自分の中に飲み込んで真面目にやっていくということは、実はイタリアでも変わらないのだなということを思いました。たぶん、他の人たちで完璧にやって来た人達は少ないと思いますが、私は最初から最後まで全部やりました。

イタリア人は仕事をあまりしないとか、考え方が全然違うとかいいますが、確かにそうかもしれません。それでも真面目さというのはイタリアでも通用するということがわかったのはとても勉強になりました。

もうひとつ、実は私はイタリア人になりたいと一時期すごく思っていたのです。イタリアのデザインは格好良いですが、日本人にはこういったデザインは出来ないと思っていたのです。そこを目指して目指してイタリア人になろうとしました。そして自分でなったと思った瞬間に、イタリア人から「わ~格好良い、とても日本ぽいね」といわれたのです(苦笑)。結局、日本人は日本人なんだと思い至りました。しかしイタリア人になりたいという経験をしたことが、格好良い日本の絵になったのだと思います。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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