『S1000RR』は、2009年に衝撃的デビューを果たしたBMW初のスーパーバイクモデルである。市販車ベースの最高峰レースである「スーパーバイク世界選手権」で勝つために作られたモデルということもあり、従来のBMWの路線とは異なる並列4気筒エンジンにテレスコピック式フロントサスペンションを採用するなど、それまでのBMWとは異なる車体構成が話題を呼んだ。
さらにドライブモードやトラクションコントロール、レースABSに電子制御サスペンションなど最新の電子デバイスが投入されるなど、初期型にして先進性でもライバルを大きくリードするスペックが与えられていた。
その最新版である2017年モデルは、欧州の新排ガス規制であるユーロ4に適合したエキゾーストシステムが採用され、キャタライザーの大型化に伴いエンジンスポイラーの形状が若干変更になっている。その他カラーリング以外には変更はなく、スペックも従来どおりである。
見た目はまさに戦闘機。「デザインは機能に宿る」と言われるとおり、“機械”としての完成度の高さをアピールする造形にはBMWの美学を見出すことができる。 車格はやや大柄だが、このクラスとしてはシートも815mmと低めで足着きも良い。上体も前傾しすぎず、ステップも高すぎずと自然なライポジがとれる。
最高出力199psと聞くと思わず身が引き締まるが、乗ってみるとパワーの出方は意外なほど穏やか。最強の「レース」モードでもスロットルを雑に操作しなければ街中でも普通に乗れる。 ワインディングはS1000RRの魅力を存分に味わえる場所だ。
軽快かつタイヤの接地感も豊富に伝わってくるので安心感が高く、バンク角に応じて最適な制御を行うコーナリングABSや、トラクションコントロールの恩恵を受けつつ気持ちよくペースを刻める。特にレインモードは、電子制御の本分を申し分なく発揮してくれる。濡れた路面の立ち上がりでちょっと強めに加速しようとすると、即座にトラコンが介入して後輪のスライドを収めてくれる。言わば、安心の保険のようなものだ。
高速道路も快適で、ウエッジシェイプされたカウルに軽く伏せれば、走行風をほとんどかわすことができる。サウンドチューニングされた直4エンジン独特の甲高いエキゾーストノートも魅力。ジェット機が離陸していくときのような高周波の吸気音が耳に心地いい。そして、意外なのはグリップヒーターが標準装備されていること。冬だけでなく朝晩の冷える時期には本当に有難い装備だ。そのままレースに出られるスーパーバイクなのに、ツーリングでの使い勝手も視野に入れて設計されている点がBMWらしい。
強大なポテンシャルを最先端の電子制御テクノロジーでパッケージングした、BMWらしいユーザビリティに溢れたモデルである。たとえサーキットを走らなくても、その性能と設計思想に触れることができるのはライダーとしての大きな喜びと言えるだろう。
■5つ星評価
パワーソース:★★★★★
ハンドリング:★★★★★
扱いやすさ:★★★★
快適性:★★★★
オススメ度:★★★★★
佐川健太郎|モーターサイクルジャーナリスト
早稲田大学教育学部卒業後、出版・販促コンサルタント会社を経て独立。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。(株)モト・マニアックス代表。バイク動画ジャーナル『MOTOCOM』編集長。日本交通心理学会員。MFJ公認インストラクター。