マクラーレンは2022年までにハイブリッド投入、SUVはやらない…グローバル販売およびマーケティング責任者【インタビュー】

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マクラーレンオートモーティブグローバル・セールス&マーケティングエグゼクティブ・ディレクターのジョリオン・ナッシュ氏
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マクラーレンが名古屋に新しいショールームとサービスセンター開設に合わせ、マクラーレンオートモーティブグローバル・セールス&マーケティングエグゼクティブ・ディレクターのジョリオン・ナッシュ氏が来日。そこで、今、そして今後のマクラーレンについて話を聞いた。

◇日本市場は急成長

----:マクラーレンオートモーティブでは、東京をはじめ、名古屋、大阪、福岡にショールームやサービスセンターをオープンさせるなど、積極的な展開を行っています。台数自体も2012年の42台以降、右肩上がりで昨年は179台(いずれもJAIA調べ)販売されました。この成長についてどう思われますか。

ジョリオン・ナッシュ氏(以下敬称略):急成長出来て、とても嬉しく思っています。2015年は90台でしたから、前年比198%の伸びです。グローバルでは100%少々の伸びでしたので、世界の平均をはるかに上回る速度で日本市場は成長しているといえます。日本はマクラーレンにとって、アメリカ、イギリス、中国に次いで第4の市場規模です。

----:なぜこのような伸びを記録出来たのでしょう

ナッシュ:一番大きいのは「スポーツ」シリーズの投入にあります。スポーツシリーズは、2015年の第4四半期から日本で納車が始まりましたので、2016年はスポーツシリーズにとって初めて1年を通して販売出来た年だったのです。

そして嬉しいことにスポーツシリーズのお客様のうち、75~80%が初めてマクラーレンブランドを購入したお客様です。つまりスポーツシリーズで新規のお客様をマクラーレンに迎え入れることが出来たということです。

----:しかし、スポーツシリーズは日本に限らず、グローバルで展開されています。それにも関わらず日本が大きく伸びたのはなぜでしょう。

ナッシュ:そもそも日本とマクラーレンというのは関係浅からずというところがあります。F1を例に挙げると、かつてのマクラーレンホンダ、特にアイルトン・セナの時代ではマクラーレンはよく知られたレーシングチームでした。そのマクラーレンが、スーパースポーツカーのメーカーとして再び日本市場に登場したのです。

日本へは当初、『650』や『12C』でしたが、2015年にスポーツシリーズという、より魅力的な価格帯のクルマが出たことで、日本のお客様の心を捉えることが出来ました。

もうひとついえることは、日本のハイエンドラグジュアリーカーマーケットというのはかなり大きなポテンシャルを持っています。そこで、新規のお客様を得たということで、世界的な平均よりも大きな成長を日本市場で遂げることが出来たのです。

----:スポーツシリーズの魅力は何ですか。

ナッシュ:それはスポーツカーセグメントの価格帯で、スーパーカーを買えるという点です。カーボンファイバーのモノセルは標準装備ですし 、ミドエンジン・ツインターボエンジンやギアボックスはすべてマクラーレンの自製です。そのようなスーパーなパフォーマンスをスポーツカーの価格帯で買えるということがアピールしたポイントだと思います。

----:では日本市場は今後、台数は更に増えていくと思いますか。

ナッシュ:はい、その通りです。今年も昨年よりも多くの台数が出ると期待しており、来年は更に成長してほしいと思っています。我々は若いブランドです。特に日本のお客様は、新しいものに対して信頼してもらうにはある程度の時間がかかる傾向にありますので、今後も信頼が深まり、成長が見込めるのではないかと期待しています。

その信頼ですが、日本のユーザーは他のマーケットのユーザーよりも運転することを楽しんでいます。マクラーレンのキャラクターを踏まえると、マクラーレンは日本のお客様に対し本当の意味での素晴らしいドライビングエクスペリエンスを提供出来ていますので、そこでお客様の信頼と評価が更に高まると考えているのです。

また、世界で最も厳しいお客様がいるのも日本です。特にクオリティに対する要求がとことん高い。例えばペイントについての要求水準も非常に高い。つまり、この日本のマーケットで成功出来れば他のマーケットでの成功は約束されたも同然なのです。

◇プレミアムブランドと台数

----:素晴らしい伸びが実現出来るといいですね。しかし、一方で台数を追い求めるとプレミアムブランドとしての価値がだんだん下がってくるということも考えられます。その点を踏まえると台数の上限はどのくらいだと思いますか。

ナッシュ:日本市場というよりもグローバルで考えましょう。マクラーレンのお客様は、エクスクルーシブ性や希少性を求めています。例えばレストランに行ってその駐車場に何台もマクラーレンがあったり、ショッピングモールに入ったらマクラーレンだらけだったりというのは求めていません。

我々もエクスクルーシブ性、希少性に拘りを持っています。昨年度の実績では3300台、今年は全てが上手くいけば4000台ぐらいのレベルにはなる予定ですが、中長期的に見てリミットは4500から5000台と考えています。つまり、1万台とか1万5000台を売る気はありません。そうなってしまったらもはやそこでマクラーレンの看板を下ろした方がいいでしょう。

もうひとつ述べておきたいのは、マクラーレンは軽量のハイパフォーマンススポーツカー、あるいは軽量ハイパフォーマンススーパーカーメーカーなのです。例えば、SUVを作る気ははありません。SUVはライトウェイトの対極に位置するクルマですから。我々のお客様はマクラーレンが、ピュアなスポーツカーだからこそ購入しているのです。

----:それではよりライトウェイトで装備を簡素化した、ケーターハムスーパーセブンのような小さなスポーツカーを作ることは考えませんか。

ナッシュ:それはないですね(笑)。先程のコメントに追加をすると、ライトウェイトでハイパフォーマンス、そこにラグジュアリーを加えます。それがマクラーレンなのです。

◇将来のビジョン「Track22」

----:4500台から5000台というのがマクラーレンのエクスクルーシブ性、希少性を保つおおよその上限ということはわかりました。では、そこに至るまでの方策やマーケティングについて、明かせる範囲で教えてください。

ナッシュ:我々はジュネーブショー2016において“Track22”というビジネスプランを発表しました。この“22”とは2022年を指しています。このハイライトを紹介しましょう。

第一のポイントは、マクラーレンは独立した会社です。親会社がいないということはとても幸運なことで、このままこの独立性は維持したいと考えています。その理由は、マクラーレンの経営陣が独自にマクラーレンの製品開発をはじめ、マクラーレンの未来を決められるということなのです。つまり、我々はブランドに対してピュアのままでいられるということです。

2つめのハイライトは、2016年から2022年の間に新製品の開発に10億ポンドを投じます。別の言い方をすると、この時期の収益の20~25%を全て製品開発に投入するという計画で、非常に大きな投資額になります。

そして、この10億ポンドを使い2016年から2022年の間に15のニューモデル(含むバリエーション)を市場に投入します。我々の参入しているセグメントでは新製品があるということは非常に重要なことなのです。マクラーレンにはスポーツシリーズ、「スーパー」シリーズ、「アルティメット」シリーズという3つのプロダクトシリーズがあります。そのそれぞれのシリーズに合わせて新製品を投入していきます。

そして、製品のライフサイクルですが、スポーツシリーズとスーパーシリーズとも5年を考えています。この5年のライフサイクルの間にバリエーションが登場すると考えてください。例えば720Sでは、5年間のライフサイクルの間に、今年はクーペがあり、それからほぼ2年後にスパイダーが登場します。それよりも後に最終的なハイパフォーマンスバージョン、おそらく「LT」を投入します。このような形でお客様に対してマクラーレンの方針をクリアに見せていくということも重要なことです。

駆動システムについても述べておきましょう。2022年にはマクラーレンのほぼ半数に何らかのハイブリッドシステムが採用される予定です。そして先程申し上げた4500台から5000台という数字も、2022年ぐらいには達成するのではないかと考えています。

このようなビジネスプランに基づき、マクラーレンは既存のお客様、あるいは将来マクラーレンに来てくれるお客様に対して、しっかりとしたビジョンを与えなければいけないと思っています。

◇EVを考えるにあたり

もうひとつ電気自動車についてお話しをしておきます。自動車業界はそれほど遠くない将来、EVにいかなければならないのが現状です。それが一体いつなのか、5年先か10年先か20年先かはわかりませんが、将来的にはEVの方向にいくのは現時点でほぼ確実でしょう。

そこでマクラーレンなりのEVは何かを考えなければなりません。電気モーターというのはものすごくパワーが出ることはわかっています。ここで大切なことは2つ。ひとつめはEVのスーパーカーにエモーショナル性があるのか。それからお客様がクルマの運転に積極的に関わる、エンゲージメントのあるクルマになれるのかどうかです。

現在のマクラーレンを運転すれば、今自分がスーパーカーを運転しているのだということがすぐわかるでしょう。五感の全てに訴えてくるのがマクラーレンです。これと同じことがEVに出来るかどうか、それがポイントです。

もうひとつ問題があります。それはバッテリーです。現在のバッテリー性能は、パワーに振るか航続距離に振るかのどちらかしかありません。この2つを両立させるバッテリーはいまのところないのです。例えば、航続距離重視のものを使ってしまうとマクラーレンのくせに、エンジンでいうならば1500回転くらいしか回らない、まるで船のエンジンみたいなことになってしまうでしょう。一方でパワーを追求してしまうと8000回転や9000回転まで回りますが、ガソリンタンクには5リットルしか入らない、その程度しか航続距離が求められないクルマになってしまうのです。

というわけでプロトタイプを作り、EVをどのようにしたらスーパーカーになるのか、スーパーカーになる可能性があるのかどうかを見極めていきたいと考えています。

◇五感に訴えるマクラーレン

----:五感に訴えるということは非常に重要なことだと思います。その中のひとつに音がありますね。マクラーレンのエンジンサウンドは非常に素晴らしいのですが、EVになった時にそれをどう再現、表現するのでしょう。

ナッシュ:そこが大きなポイントです。一部のメーカーでディーゼルエンジンモデルにハイファイのスピーカーなどで音を作っているところがありますが、我々マクラーレンはそういうことは考えたくありませんね。

----:では具体的にはどのようなことを考えられていますか。

ナッシュ:ラッキーなことに私はエンジニアではないので(笑)。しかし音は重要なこととして考えていきます。どのようなソリューションになるかは全くわかりませんが、プロトタイプを作り、2年から3年ほどしたらひとつの方向性が現れてくるのではないかと思っています。もしかしたら10年後には、エンジンから音が出たらまずいだろうということになるかも知れませんね。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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