ロールスロイスのビスポークは同社のトップに位置するもの…担当デザイナー【インタビュー】

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ロールス・ロイス・モーター・カーズビスポーク部門リード・デザイナーのマイケル・ブライデン氏
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ロールス・ロイス・モーター・カーズにとって、ビスポークは非常に重要なポジションにある。その理由はほとんどの注文主が何らかの特別注文(ビスポーク)をするからだ。今回日本からのオーダーと、インスピレーションを得るために来日したビスポークデザイナーにインタビューすることが出来たので、ビスポーク部門の特徴や、最近の手掛けたモデル、そして、今後の可能性について聞いてみた。

ビスポーク部門リード・デザイナーのマイケル・ブライデン氏は、コヴェントリー大学にて自動車および交通デザインを専攻し、学生時代はアストンマーティン、それからスーパーヨットやプライベートジェットの内外装デザインの会社でインターンシップとして働いた経験を持つ。2012年9月にロールス・ロイス・モーター・カーズに入社し、ビスポークデザインチームに所属している。

◇最上級ブランドの最上級に位置するビスポーク

---:早速ですが、ロールスロイスにとってビスポークの位置付けはどういうものなのでしょう。

ブライデン氏(以下敬称略):ロールスロイスは、最上級のラグジュアリーなブランドで、その中でもビスポークはロールスロイスのトップに位置するものです。このビスポークは、最終完成品はもちろんですが、それ以上にパーソナライズするまでの体験を提供することが核となっています。つまりデザイナーがお客様と会って、お客様がどうしたいかというニーズを聞いて、インスピレーションを紐解きながら、よりクリエイティブさを発揮していくという経験が重要なのです。まさにお客様が体験するということ自体がビスポークなのです。

テーラーメイドをオーダーするということは、ロールスロイスのヘリテージ、遺産でもあります。20世紀初頭、ロールスロイスはお客様にシャシーやエンジンを提供し、そこからコーチビルダーがユーザーの意見を取り入れながらボディを作っていたという歴史に重なるところがあります。従って全てのロールスロイスはビスポークであり、それぞれのお客様だけのものを作っているといえるでしょう。

ロールスロイスの本社があるグッドウッドにはおよそ1700人が働いています。その中にはデザインスタジオや、お客様のクルマをハンドビルドしている工場もあります。因みにこの地は元々イギリスのモータースポーツなどが開催された歴史的な地域です。

このグッドウッドの中には、実際にお客様に訪問してもらい、話を聞きながら、お客様が求めているニーズ、生活スタイルなどを理解するための特別な部屋があります。ここにはレザーやウッド、ペイントなどのサンプルが置いてありますので、ここから想像の羽根を広げることが出来るのです。

そういったお客様とクリエイティブなセッションをした後に、デザイナーが実際に仕事に取り掛かります。そして、イメージはこうなるというものをお客様に送り、それに対してお客様と一緒にフォローアップの打ち合わせをしながら詰めていくのです。

---:具体的にインスピレーションを高めるためにどういった方法を取るのでしょう。

ブライデン:例えば夜空、景色、海、自然、発見、星空、星座など様々な写真やスケッチなどを見ながらインスピレーションを高めていきますが、こういったものを全て1台のクルマに表現するのではありません。お客様がクルマを作るうえ上で、こういったイメージのクルマにしたいというインスピレーション、着想の源の様なもので、ここから発想を広げていくものです。こういったものを見ながら、宇宙船のテクニカルな雰囲気を自分のクルマに再現したいというお客様もいました。

お客様があまりイメージがわかない、どうしたらいいかわからないというときには、話をしながら、例えば高級なファッションブランドは好きかとか、ヨットが好きか、ボートは好きかなどそういった話題の中からでお客様の好きなテーマを提案していくこともあります。

◇様々なビスポーク

---:では、いくつかお話が出来る範囲で手掛けたビスポークのクルマたちを紹介してください。

ブライデン:ロールスロイスがビスポークとして提案しているモデルも含めてご紹介しましょう。

まずドーンインスパイアbyファッションというモデルがあります。ハイエンドな高級なファッションに関連した、世界の中で最もラグジュアリーな素材を組み合わせてデザイン。インテリアはクラシックな黒と赤で出来ています。また、高級なファッションブランドのスカーフに使われるイタリアのシルクの工場と提携し、ドアポケットの部分を作成しています。このドアポケットの部分を近くで見るとスピリットオブエクスタシィが見えるようになっています。我々のお客様はミラノやオートクチュールなどファッションの前線をご存知の方ばかりですので、ロールスロイスとファッションを結びつけてデザインしました。

次に、イタリアのサルデーニャ島にあるポルトチェルヴォとネーミングされたものです。『ドーン』は、夜明けを意味しており、『レイス』は黄昏をテーマにしていますのでそれぞれ対照的なデザインになっています。
ポルトチェルヴォの黄昏は、紫色が表れてくる特徴的なカラーです。そこで内装に2つの種類の紫を使いました。またファッションでは、レザー部分にオーストリッチを使用しています。
また、ポルトチェルヴォはサルデーニャの宝石と呼ばれているところです。ポルトチェルヴォの日中は海がエメラルドグリーンなのでボディカラーもそういった色に因んでいます。
このシリーズは、ビスポークはどんなことが可能かということをお客様に示すためにロールスロイスが作ったもの。ロールスロイスのユーザーにはポルトチェルヴォが好きな方もいるので、そこから着想を得てデザインしました。

また、ロールスロイスのダークな面を表現しているブラックバッジもビスポークです。よりダークでパワフルなイメージは、美的にもテクニカルな面も含めて、すごく存在感のあるクルマに仕上がっています。

◇出来ることと出来ないこと

---:大変よくわかりました。では、ビスポークにおいて出来ることと出来ないことがあると思います。それは法律の面で出来ないことがあることは承知していますが、ロールスロイスというブランドとしてはどうでしょう。

ブライデン:お客様自身がロールスロイスというブランドに対して敬意を持っています。例えばスピリットオブエクスタシィを見たときや、RRというロゴを見たときにヘリテージを感じ、そのうえで自分のクルマをビスポークしたいと考えますので、そういったヘリテージに反するような要望はありません。つまり、例えばパルテノングリルを変えたりとかは考えられないのです。

---:インテリアで、ロールスロイスのデザインとして、守らなければいけないことはありますか。

ブライデン:我々としてはまっさらなキャンバスと捉えています。そこにお客様が色々飾りの手を加えていく。それをお客様独自のものにしていくと考えていますので、特にそういう縛りはありません。

---:ロールスロイスの伝統を踏まえ、20世紀初頭と同じように、ワンオフモデルのオーダーは可能ですか。

ブライデン:今のところお客様からはボディデザインは気に入ってもらっているので、それを変えたいとは聞いていませんが、特に全く新しいクルマを作るということは法律面や技術的な部分で調査をしなければならなくなるでしょう。

同社は、5月に開催されたヴィラ・デステコンクールデレガンスにおいて『スウェプテイル』を発表した。ファントムクーペをベースとしたワンオフモデルで、ボディをはじめかなり手が加えられたモデルであることを鑑みると、安全基準に抵触しない範囲であれば、かなりのことが出来るようである。因みにスウェブテイルのオーダー金額はおよそ14億5000万円と伝えられている。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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