スポーツカーの自動運転、あり? なし?…アウディが描く自動運転の未来【インタビュー】

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「レベル3」自動運転を初めて市販車に搭載するアウディ。スポーツカーへの採用は?(写真はアウディRS5)
「レベル3」自動運転を初めて市販車に搭載するアウディ。スポーツカーへの採用は?(写真はアウディRS5) 全 16 枚 拡大写真

市販車として世界初となる「レベル3」自動運転を採用した高級セダン、新型『A8』を発表したアウディ。同社はこれを「レベル4実現に向けたベースモデル」として、2018年より段階的に自動運転技術を市販車に投入していくという。今回、新型A8の発表の場となった「アウディサミット」(7月11日 スペイン・バルセロナ)で、アウディの技術部門トップ、ペーター・メルテンス氏へのグループインタビューが実現。アウディの考える自動運転とは、そして「レベル4」実現への道筋、その課題とは。

◆「25時間目」を生み出す自動運転

アウディサミットの中でアウディは、「ドライバーを運転の緊張から解き放ち、車内で自由な時間を過ごせるようにするための様々な革新テクノロジーやシステム」の総称として「アウディAI」を発表した。アウディAIは人工知能やマシンラーニングを取り入れ、さらにネットワーク化された大量の交通データなどをもとに周囲の状況に的確に対応、「高い知能と共感力を備えたクルマになる」ことで、競合に対するアドバンテージを持つという。

そもそもあらゆる自動車が自動運転化していった場合、車種あるいはメーカーごとの差別化を図ることは可能なのだろうか。マーテンス氏は、「大いに差別化は可能だ。アウディは業界をリードすることができる」と自信を見せる。この理由は、アウディAIが単に自動運転機能を指すものではなく「革新テクノロジーやシステムの総称」としているところにある。

「アウディAIには4つのメリットがある。ひとつは安全性。ふたつ目はインフラを利用することができること。3つ目は信号など道路状況を予測することで燃料消費を改善できる。4つ目は利便性。運転をクルマに任せることで、ドライバーは他のことをすることができる」とメルテンス氏はその特徴を語る。また「自動運転の技術は、それを開発したら一晩で世界が変わる、というものではない。スプリントレースではなくマラソンのようなもの。時間をかける必要がある。だがVWグループは非常に競争力がある技術を持っていて、その開発スピードはとても早い。これはアウディの理念にも則ったものだ」と自信をのぞかせた。
自動運転によって退屈な時間を削減することで「25時間目」を得ることができる(アウディサミット)
加えて、サミットの中でも繰り返されたのは、「車内での退屈な時間を有効に使う」というメッセージだ。新型A8には、「中央分離帯のある比較的混雑した高速道路を60km/h以下で走行しているとき、ドライバーに代わって運転操作を引き受ける」ことができる自動運転機能「トラフィックジャム」が採用された。この条件にあてはまる状態であればドライバーはハンドルから完全に手を離した状態で走行が可能で、つまり「運転以外の何かをする」ことができる。

さらに将来的には、自動運転機能の使用範囲拡大だけでなく、自動パーキングや自動洗車、車内インフォテイメント機能の充実化、それにともなう車内での過ごし方の変化に応じたインテリアづくりなどによって、次世代のラグジュアリーカーをめざすという。これをアウディは「25時間目」プロジェクトと呼ぶ。つまり退屈な運転の1時間をクルマが引き受けることで、ドライバーは失うはずだった1時間を取り戻し、有意義に使うことができるということだ。

◆自動運転車の事故「共同責任はない」
アウディ技術開発担当取締役、ペーター・メルテンス氏
一方で、有意義な時間を手に入れたところで、万が一の事故の不安は払拭できないだろう。自動運転車が事故を起こした場合の責任は、クルマ(メーカー)側か、あるいはハンドルを握っていないドライバー側なのか。メルテンス氏の回答は明確だ。「レベル3においても責任は重要だ。しかし、共同責任や連帯責任という考え方は存在しない。自動運転中はクルマ、運転中(ハンドルを握っている間)はドライバーの責任だ」。つまり「クルマに起因する事故の場合、それが立証できればメーカー側の責任であることは今と全く同じ」であるということだ。ただし万が一のトラブルを避けるため、システム側はダブルでバックアップし常に周囲の状況に対応する。さらにフライトレコーダーのようにクルマの動きを記録しているため、責任の所在も明確であるとメルテンス氏は説明する。

今回発表された新型『A8』の自動運転機能「トラフィック・ジャム・アシスト」の作動条件は、「中央分離帯のある比較的混雑した高速道路を60km/h以下で走行しているとき、ドライバーに代わって運転操作を引き受ける」ものとしている。すでに試作車では、速度無制限の高速走行にも対応する自動運転機能を実現しているが、今回60km/hに機能を制限した理由は「テクノロジーの成約ではない」とメルテンス氏は話す。「自動運転機能に限界が来た時、便利にかつ安全にコントロールをドライバーに戻す。これにはおよそ10秒が必要」として、現段階での「時間と(速度)のスイートスポット」が60km/hなのだという。ただし、「ずっとこのままではない。あくまで自動運転レベル4に向けたベース」であり、インフラの整備や各国の規制への対応によって完全自動運転を実現して行く。
ミュンヘンで自動運転の実証実験をおこなっているアウディA7“Jack”
ただレベル4実現の時期については慎重だ。「今まで入ったことのない領域。これは(メーカーだけでなく)当局側も同じだ。クルマが責任を引き受けるというのは、これまで以上の大きなチャレンジであり、ステップだ」(メルテンス氏)。その進化については、「各国での認証が課題となる」いっぽうで、技術については「段階的にではなく、進化的に進む。ディープラーニング、センサーの進歩、処理能力、解釈が正確になって、様々な要素がまとまっていき、次のレベルに行く」との見解を示した。

◆スポーツカーの自動運転「矛盾しない」

最後に、こんな質問が投げかけられた。「スポーツカーのような“運転を楽しむクルマ”にも、自動運転技術は必要なのか」。退屈な時間を解消するための自動運転を掲げるアウディだが、一方で有数のスポーツカーメーカーでもある。スポーツカーの楽しみを奪う可能性や、スポーツカーの存在そのものを憂う声も少なくない。メルテンス氏はこう答えた。

「私にとってもクルマを所有し運転することは大きな楽しみだ。だが、スポーティなクルマに乗っていても通勤で渋滞にはまったり、つまらない時間というのは必ず訪れる。自動運転にするか、自分で運転するかは常にドライバーが選択することができる。もちろん、すぐにスポーツカーに自動運転機能を搭載するわけではないが、そこに決して矛盾はない」

今回発表されたA8をはじめ、これから登場する新型『A7』や新型『A6』へと順次自動運転機能を採用していくアウディ。当面は限定されたレベル3だが、レベル4への歩みはゆっくりと、しかし確実に進められて行く。メルテンス氏は「本当にレベル4のクルマがお客様の手に届くのは、5年プラスアルファの年月が必要だ」と話す。2025年には、アウディによる完全自動運転車が行き交う風景を見ることができるか---。

《宮崎壮人》

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