27日、キャタピラーは次世代油圧ショベル3機種を10月1日より発売開始すると発表した。明石市の同社工場では、取引先や報道陣を招いて新型『Cat320』シリーズの商品説明会や出荷セレモニーが行われた。
冒頭の挨拶で、キャタピラージャパンのザック・カーク会長は「25年ぶりとなる大幅なデザイン変更は、競合他社との競争、テクノロジーの進化に対応するため必要だった。コネクティビティやセミオート機能といった最新技術を投入し、ワークサイトのデジタル化をコミットする製品」と、新製品が次世代油圧ショベルであることを強調した。
続く、キャタピラージャパンの前畑秀和代表執行役員のスピーチでは「およそ55年前、国内最初の油圧ショベルが製造された明石事業所は、油圧ショベルの聖地ともいえる場所。その聖地から新しい時代の製品を出荷できることを嬉しく思う」とその意義を語った。
発表されたのは「320GC」「320」「323」の3機種。特徴は大幅なデザイン変更にともないプラットフォームを共通化した。新型の電動油圧ポンプとセンサーによる「グレード2Dアシスト」「Catペイロード」「Eフェンス」が標準搭載(320、323)となった。GPS等を使ったi-Construction対応の「グレード3D」はオプションだ。
プラットフォーム共通化は自動車では一般的だが、架装部分やアクセサリにカスタムニーズが多い重機ではあまり進んでいない。キャタピラーでは、320GCをベースのプラットフォームグレードとして、次世代機能を搭載した320、323を開発した。ねらいは、設計や部品の共通化によるグローバルでの競争力確保だ。また、今後普及が予測されるコネクティビティや自動化や環境性能への対応も考えて、プラットフォーム刷新を決めた(カーク氏)という。
当然、各所・各機能の改善・改良が行われている。エアコンなどコンプレッサー、油圧ポンプなど従来はエンジンからの動力を利用していたものを電動化およびハイブリッド制御とし、燃費改善(320で従来モデル比で25%改善)を実現している。エンジンに関しては3機種とも2014年基準のオフロード法に対応している。
作業性やメンテナンスコストに関する改善も多い。エントリーおよびイグニッションはBluetoothを利用して、キー穴に差し込むことなく(コンソールにキー穴がない)始動可能だ。専用アプリをダウンロードすればスマートフォンをキー代わりにすることもできる。このとき登録するIDはリモートで操作・管理することも可能で、レンタルユースでの利便性が向上する他、オペレーター交代を事務所から管理することもできる。
燃料タンクは新開発の樹脂製を利用する。樹脂製タンクは形の自由度が高く容量効率もよくなるので、タンクそのものを右サイドの昇降ステップと一体化した。右サイドのフラット化のおかげで直接視界が広がっている。
フィルター交換、尿素タンクの補充、オイルチェックなど日常点検の多くが、車体の上に乗らず地上でできるようにも工夫されている。フィルターは2重構造として交換サイクルを伸ばす。
これまでオプション扱いだったグレード2Dアシストやペイロード管理が標準装備(320GC除く)になったのも作業効率アップや燃費改善に貢献する。アーム等に取り付けたセンサーと電動油圧ポンプによってミリ単位の制御が可能だ。
グレード2Dアシストでは、ショベルが切り崩す角度や掘る穴の深さを指定すれば、レバーを操作するだけでアームやバケットを操作してくれる。施工面をいちいち降りて確認したり、何度も作業を繰り返したりする作業が軽減される。
ペイロード管理は、バケットがすくった土砂などの重さを正確に管理できるので、トラック積載量のギリギリまで積むことができる。現場の計量台で積載オーバーとなると、その場で重さの調整をしなければならない(通常人力となる)。
Eフェンスという機能は、アーム類の稼働範囲を設定することで、それ以上の領域にアームを飛び出させてしまう事故を防げる。設定は旋回位置、アーム・バケットの最高点、穴の深さ制限ができる。これにより、車道にはみ出たり、周辺の建物に当ててしまったり、電線や水道管を切断・破壊してしまう事故を防ぐことができる。
自動車の場合、プラットフォームの共通化となると、いまどきは「EVも同じプラットフォームにするのか」という質問が定番となる。発表会の最後にEV化や次世代パワートレインの計画はあるかを聞いてみた。回答は「もちろんある。トランスミッションとアクスルを発電機とモーターに置き換えたハイブリッドブルドーザーは2009年から発売している。長期的な戦略だが電気、燃料電池、CNGについて投資を行っている」(ブライアン・アボット・プロダクトマネージャー)。とのことだ。
取材協力:キャタピラージャパン