【SUBARUテックツアー】ボーイング787の要…中央翼を作っているのはスバルだ

航空 テクノロジー
ボーイング・787
ボーイング・787 全 18 枚 拡大写真

SUBARU(スバル)はテックツアーと題し、報道陣に対して同社のフィロソフィやDNAを伝えるイベントを開催している。今回第7弾として、“SUBARU中央翼体感フライト&スバル研究実験センター美深試験場見学”が開催された。

◇ボーイング787の中央翼を作るスバル航空宇宙カンパニーとは

ボーイング787の中央翼はスバル航空宇宙カンパニーが製造している。この事業所はヘリコプターのような回転翼機、翼のついた固定翼機、人が乗る有人航空機と無人航空機、防衛省向けと民間向けなど、あらゆるタイプの航空機を作っている。

また、「JAXAや防衛省はもとより、ボーイングをはじめとする世界中のパートナーと協業しながら様々な製品を提供している」と自社を紹介するのは、SUBARU航空宇宙カンパニー技術開発センター研究部長の齋藤義弘氏だ。スバルの航空機分野は1917年の飛行研究所設立以来100年の節目を迎えた。因みにボーイングは1916年に設立なのでひとつ違いということになる。

スバル航空宇宙カンパニーの最新のトピックスとして齋藤氏は、ヘリコプターの分野では、「ベルヘリコプターテキストロン社と最新のヘリコプターを国際共同開発しており、さらにはこれをプラットフォームとして陸上自衛隊のUH-1Jヘリコプターの後継機を開発」。

旅客機の分野では、「ベストセラー機、ボーイング777の改良版である、777Xの開発に参加しており、777、787に引き続き機体の要である中央翼を請け負っている」と紹介した。

◇女性におすすめの787

ボーイング787は、数多くの日本企業も参画し、国際共同で開発された旅客機だ。構造質量の50%に相当する部分にはCFRP、炭素繊維強化プラスチックを使用しており、機体の軽量化を果たしている。

主翼の形状は滑らかで洗練された形だ。これもCFRPの採用によるもので、「つるんとした滑らかな形状の羽を作ることが可能となった。また、それによって、軽くて空気抵抗が少なく、低燃費で長距離を飛ぶことができる非常に効率の良い旅客機となっており、ゲームチェンジャーとも呼ばれている」と齋藤氏。

CFRPを採用したメリットは他にもある。それは窓だ。「大きさが通常の旅客機に比べ大きくなっており、機内が明るく感じられるだろう。また、室内の気圧がより地上に近いレベルに設定されている。旅客機は高度の高い、空気の薄いところを飛ぶので室内にも気圧をかけている」という。

この気圧について斎藤氏は、「これまでの旅客機は富士山の5合目くらいの高度になるように気圧をかけていたのだが、787ではCFRPを使うことによって、構造の強度が上がり富士山の3合目ぐらいの高度にまで気圧を上げることが可能となった」と話す。そのため、「気圧の変化によって、耳がツンとなりにくいと感じるだろう。また、室内の湿度、湿気も普通の旅客機よりも高く、乾燥しにくく設定されているので、肌に優しく女性にはおすすめだ」と述べた。

◇中央翼は500トンもの力に耐えている

787の中央翼は、その名の通り航空機の中央に位置しており、左右の翼と前後の胴体をつなぐ役割を果たしている。そのため機体の中に隠れて外から見ることはできない。

航空機は飛んでる間、胴体は重力によって下方向に引っ張られ、それを翼に作用する空気の力で空中に持ち上げている。787の場合、主翼の端は、「通常の飛行でも地上にいる時と比べ、最大で約3メートルも上方向に大きくたわむ。これだけ大きくたわむと、中央翼に作用する力も非常に大きく、通常の飛行でも、トータルで約500トンもの力が作用しているといわれており、これを支えているのが中央翼なのだ」と説明。

中央翼は、前後左右は動体と翼が結合され、上は中部胴体の床面、つまり客室の床になっている。また後方には飛行機の脚を収納する部位がある。中央翼の内部は燃料タンクとなっており、たくさんの燃料を積むことが可能になっているという。

この中央翼は、数多くの構成部品から成り立っている。中央翼はちょうど箱のような形になっており、齋藤氏によると、「前後は桁、上下面はパネル 、左右は翼動力骨に囲まれ、内部は構造強度を保つためのビームが配置され、配管や機能部品が取り付けられている。そしてそれぞれの桁やパネルは、さらに細かい部品から成り立っている」と述べる。

スバルは中央翼ボックスの製造と、主脚収納部との結合を担っており、組み立てられた中央翼は愛知県半田市にあるスバルの工場から、セントレア中部国際空港に船で運ばれ、そこからアメリカに向けて空輸されている。

◇安全性は最優先

787の中央翼には数百トンもの力が作用する。その力に耐えるために、「一番分厚い部材ではCFRPの薄いシートを100枚以上も積み重ねて制作。飛行機が一生のうちに作用する、最も厳しい飛行条件のさらに4倍程度の力が作用しても壊れないように設計している」と齋藤氏は高い安全性を強調。その一方で、「むやみやたらに補強してしまっては、重たく燃費の悪い飛行機になってしまうので、余計な肉は削り必要なところには十分に手当てをするというメリハリをつけた設計を行っている」とした。

使われている素材はCFRP、アルミだけでなく、チタンなどの素材を目的に応じ適材適所で使い分けている。構造同士をつないでいるボルトも787の中央翼では「2万本以上を使い分け、しかも一本一本全て強度計算を行い、求められる機能性能が十分であることを確認している」と話す。さらに中央翼の内側は燃料タンクになっているので、燃料が一切漏れることがないよう、何重にもプロテクションをかけた設計だ。さらに、飛んでいる最中に万が一雷が当たっても絶対に安全性が確保される特別な設計となっている。

品質面においても緻密な製造公差のコントロールを行っている。「部品の厚さは0.3mm以下。ボルトの直径は0.1mm以下。穴とボルトのはめ合いは1/100mm以下の精度でコントロールしている」と齋藤氏。

燃料が一切漏れない設計において、製品として実現するシーリング技術も非常に高度なものを持っており、「ボーイング社から是非お手本にしたいといわれたほどだ」とそのレベルの高さをアピールした。

品質保証体制について齋藤氏は、「製造工程ごとに作業の記録を取り、検査を行い、確認をしていき、それを記録化していく。つまり誰がいつどこで何を使ってどのように作ったか、どのように検査したのかが分かるようになっており、それを追跡出来るようになっている」とし、「我々は常に安全と品質を第一に生産活動を行っている。これが航空機メーカーとしてのDNAにつながっていると認識している」と述べた。

◇組み立てに90日かかる

さて、今回のフライトでは日本航空が全面協力。日本航空が保有する機体のメンテナンス等を行う、JALエンジニアリング技術部システム技術室気体技術グループの盛崎秀明氏によると、「2012年3月25日に初号機及び2号機を同時に受領して以来、やや胴体の短い787-8型機25機、胴の長い787-9は10機の合計35機を運行。世界26都市へフライトしている」と話す。

この787は、スバルを始め三菱重工、川崎重工など日本のメーカーはもちろんのこと、アメリカ、イタリア、韓国、オーストラリアなど様々な国々のパートナーと呼ばれる企業において、それぞれ巨大な部品が作られ、それがアメリカワシントン州シアトル及び、東海岸サウスカロライナ州チャールストンにあるボーイングの2つの工場に運ばれ航空機の組み立てが行われる。

盛崎氏は、「組み立て、塗装、飛行試験、そして機体を受領し、簡単な整備をした上で路線に投入されるまでにおよそ90日かかる。航空会社にとっては航空機を運行することが使命なので、ある路線に投入したい場合には、その航空機の組み立て自体が、運行開始日の最低でも90日前には開始をしないと物理的に間に合わない」と製造日程を説明。

そこで、各工場での製造進捗具合は大きな関心事だ。実は盛崎氏はボーイング工場にある日本航空のオフィスに、2011年から約3年駐在していた。「当時の使命はボーイング社のみならず各パートナーの製造進捗状況のレポートも含まれていた」。その理由は、「2011年、新生JALとしてボストン線、ヘルシンキ線、サンディエゴ線の路線を開設し、ここに787を投入するというビックイベントがあったからだ。お客様を裏切るわけにはいかないので、飛行機を受け取る日を死守する必要があった」と振り返る。

しかしながら、「現実にはパートナーによって、残念ながら製造時のミスや、作業者が確保出来ないなど、色々な問題がありスケジュールが若干遅れ気味になることが多数あった」と明かす。一方でスバルは、「納期は確実で、しかもミスはほとんどない。非常に綺麗な中央翼を製造している。他社においては注意深くモニターをしているが、スバルの中央翼製造に関しては全くといっていいぐらい全面の信頼を置いていた」と絶賛だ。

さらに、初号機就航後6年が経とうとしている。通常6年経った機体は、「ランディングギアと呼ばれる脚を格納する部屋がある。この中は油まみれで、若干の錆が見られたりするものだが、787においては白のペンキが綺麗に残っており、本当に美しい状態で、整備の実感としても複合材製の中央翼は素晴らしいものだといつも感心している」と大いに評価した。

前出SUBARU航空宇宙カンパニーの齋藤氏は、「スバルは約10年にわたって787の生産を行ってきており、これまでに累計で約670機を出荷した。これからもお客様の安全と品質を第一に生産活動に取り組んでいく」と語った。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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