【SUBARUテックツアー】“絶対に壊れない”をめざして…ボーイング787の中央翼

航空 テクノロジー
旭川空港に初飛来したJALのボーイング787-8型機とスバルWRX
旭川空港に初飛来したJALのボーイング787-8型機とスバルWRX 全 14 枚 拡大写真

SUBARU(スバル)は10月20日、北海道・美深町にある「スバル研究受験センター美深試験場」を刷新。そのお披露目を報道関係者向けに行うにあたり、最寄りの旭川空港までのフライトに利用して最新鋭旅客機・ボーイング787-8の「中央翼体感フライト」を実施した。

このイベントは、これまでにもスバルが衝突実験や中央翼製造現場の見学会を実施してきた「SUBARUテックツアー」の一環として、報道関係者向けに行ったもの。

スバルは今年4月に「富士重工業」から「SUBARU」に社名を変更したが、そのルーツは1917年に中島知久平によって創業された飛行機研究所に遡る。つまり、スバルにとって今年は創業100周年に当たる。それを機にスバルが携わる航空機産業を知って、そして体感してもらおうということでこのツアーは企画された。

スバルの航空機産業やボーイング787の中央翼の製造について話してくれたのは、スバルの航空宇宙カンパニー ヴァイスプレジデントの若井洋氏だ。

若井氏によれば、「当時、中島飛行機は陸軍などから戦闘機の製造を依頼されてきたが、フランスから導入した技術をベースに“パイロットを守る飛行機”の開発をモットーとしていた。そのため、しっかりとした防弾鋼板を備え、その上で運動性能も高めた。その意味では(防弾鋼板を省いてまで)軽量化して運動性能の高さを重視した零戦とは対極の位置にいた。つまり、パイロット、すなわち“人を守る”という思想がクルマに活かされているのも、この時の思想が連綿と受け継がれているから」なのだという。

また、一見すると、クルマと航空機の製造に当たっては、お互い何のつながりもないように見える。しかし「吉永社長になってから互いの技術交流が盛んになっており、それぞれの経験が多くのメリットを生み出している」と若井氏は話す。たとえば、自動車の空力設計やカーボンの利用方法などでは、航空宇宙カンパニーのエンジニアから自動車の開発スタッフがアドバイスを受けているそうで、その一方、航空機側では、ボーイング社の次世代大型機777-Xのロボットによる生産ラインの設計を、群馬の自動車生産設備を担当する技術者に関わってもらっているという。

そんな中、ボーイング787の中央翼は、愛知県にあるスバルの半田工場で製造される。この中央翼はCFRP(炭素繊維強化プラスチック)で出来ており、主翼の中央部分の、機体の真ん中に位置するものだ。そもそも中央翼は、左右の翼と前後の胴体とをつなぐ要の役割を担っている。飛行中は空気の力で翼が持ち上げられ、地上にいる時よりも先端が3mも上方にたわんでいるのだ。一方で重力によって動体は下方に引っ張られ、これらの力の作用で中央翼にはトータルで約500トンもの力がかかる。

それだけに「中央翼は機体すべての荷重がかかってきており、飛行機の中で最も強固に作る必要がある。しかも、部品として設計されるのは最後で出荷は一番最初という、製造にとっては一番困難な部分でもある」と若井さんは説明する。

その精度とはどのぐらいなのか。若井さんによれば、「ボーイング787の中央翼は、長さが約9m、幅6m、高さ4mの巨大な部品だが、精度はコンマ1ミリの精度で作られる。最も厳しいところでは0.03mmの精度」を要求されるという。

しかも忘れていけないのは「内部は燃料タンクであって、万が一不時着しても絶対に壊れてはいけない」(若井氏)ということ。「仮に衝突した際は燃料が9Gもの加速度で前方の壁にブチ当たる。そのため、内部を細かく分けて衝撃を吸収する工夫をしている。飛行機そのものは安全な乗り物だが、敢えて言えば中央翼付近は飛行機の中で最も安全な場所」(若井氏)なのだという。

スバルでは、このボーイング787の中央翼を2007年に初出荷し、今では毎月の生産数は12機から14機分にまで向上。すでに累計670機を出荷する安定生産の領域に入っている。生産する機体も現在は、787-8型と基本設計が大きく異なる、次世代型の787-9型や、2019年頃に初飛行となる予定の787-10型に生産の中心が移っているという。そして、完成した中央翼はボーイング747LCF「DREAM LIFTER」によって中部国際空港から出荷されるわけだ。

《会田肇》

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