ランドローバーのデザインは悪路走破性とともに我が社の強み…デザイナー【インタビュー】

自動車 ビジネス
ランドローバークリエイティブ・ディレクターエクステリア担当のマッシーモ・フラスチェッラ氏
ランドローバークリエイティブ・ディレクターエクステリア担当のマッシーモ・フラスチェッラ氏 全 8 枚 拡大写真

SUV専業メーカーとして積極的にニューモデルを展開しているランドローバー。デザインにおいても一目でランドローバーのモデルだということがわかる。この度ランドローバー社のデザイナーが来日したので、同社でのデザインの位置づけ等について聞いてみた。

ランドローバークリエイティブ・ディレクターエクステリア担当のマッシーモ・フラスチェッラ氏は、1997年にIstitudo D’arte Applicataにて交通デザインの学位を取得後、スティーレ・ベルトーネに入社。その後、フォード・リンカーン・マーキュリーデザイン部門を経て、起亜のデザインマネージャーに就任。そして、2011年11月にランドローバーに入社した経歴を持っている。

◇デザインで妥協することはない

----:現在ランドローバーはSUV専業メーカーとして多くのモデルを揃えています。そこで語られるのはSUVの機能性や有効性が中心ではありますが、デザインにおいても様々なトライがなされているように感じます。そこで、ランドローバー社としてデザインはどういう位置づけなのでしょうか。

フラスチェッラ氏(以下敬称略):デザインはとても強いポジションです。特にデザインとエンジニアリングは会社の中で一番強いポジショニングです。この2つがリードして製品を作っています。そしてエンジニアリングエクセレンスをとても大切にしているのです。我々のクルマにはすでに認知されている機能も含め、様々なエンジニアリングが搭載されています。それをきちんと維持しながらも、素晴らしいデザインを纏わせているのです。従って、デザインとエンジニアリングのどちらかを優先するかではなく、お互いに協力しながら両方が求める姿を追求し、実現しているのです。

----:エンジニアリングという面ではランドローバーは悪路走破性が非常に高いという評価がありますね。

フラスチェッラ:はい、オフロード走破性は我々のブランドのDNAです。また、それぞれのクルマが属するセグメントでその性能はリーダーといってもいいでしょう。

----:では、エンジニアリングは悪路走破性だとすると、デザインではどういう表現になりますか。

フラスチェッラ:デザインはそのブランドのビジョンを実現する舞台、ブランドの資産を築いていく部門です。また、我々のビジネスのとてもパワフルなツールでもあります。特にレンジローバー『イヴォーク』からそういった方向に焦点をシフトしていますので、お客様を惹きつけるデザインが、どれだけパワーを持っているかを認識してきています。つまり、デザインで妥協するということはありえないことなのです。

◇エモーショナルで“生きた”デザイン

----:では、ランドローバーのデザインフィロソフィーとは何でしょう。

フラスチェッラ:いくつかの要素があると思ういますが、イノベーションやサスティナビリティ、現在のお客様にとって魅力あるもの、購買意欲を掘り起こすことができるかどうかが大きな要素になるでしょうね。これらが重要なポイントで、それをもとにデザイン戦略を考えています。

----:そのデザイン戦略を具体的に教えてください。

フラスチェッラ:まずは我々のブランドの構成についてご説明します。我々には3つのファミリー、レンジローバー、ディスカバリー、ディフェンダーがあります。この3つのファミリーをそれぞれの個性、特性をもとに、違うものとして表現していく必要があるのです。しかし、あくまでもランドローバーという会社の傘の下にありますので、当然共通点も持ち合わせています。

まずレンジローバーではリファインメント、ラグジュアリー。ディスカバリーでは多用途性やレジャーといったイメージ。そして、新型ディフェンダーを導入する際には、耐久性やデュアルパーパス性を持たせた表現になるでしょう。

ランドローバーのデザインは常にロジカルでとてもシンプルです。すごく複雑なデザインにはこれまでもしてきてはいません。飾らずにすごくシンプルなデザインなのです。例えばドイツメーカーのSUVは、我々から見るとすごく複雑なデザインです。これは良し悪しではなく、方向性が違うのです。ランドローバーはそういった方向ではなく、さらにシンプルさを追求してきます。我々のデザインで大切なのは、よりエモーショナルでありながらも、純粋なイメージを表現することなのです。そして今後も、よりミニマリズムで、シンプルで純粋な方向に進んでいくでしょう。

また、当然のことながら“中身”のあるデザインでなければなりません。気を付けなければいけないのは、シンプルにするために、色々なものを削っていくのですが、だからといってプレーンで退屈で、命のないもの、何も訴えてこないようなものでは人々を惹きつけられません。我々は中身のある生き生きとした、退屈さを感じさせないデザインを目指しているのです。いらない飾りを削り落としても、エモーショナルな面は伝えられるということを体現しているメーカーなのです。

◇レンジローバーとディスカバリーはあえて近づけた

----:現在のランドローバーのデザインはパッと見た瞬間にその差別化があまりできていないという声も聞かれます。そこで、もっと大きく差別化するということは考えられないのでしょうか。

フラスチェッラ:たぶんレンジローバーとディスカバリーのことですね。ディスカバリーについてはあえてレンジローバーに近いデザインにしているのです。その理由は、ディスカバリーはさらにプレミアムな位置づけにしたかったからなのです。ディスカバリーの歴史を振り返ると、初代から徐々にプレミアム方向にシフトしてきています。特に第3世代から第4世代かけては顕著です。

そこで、レンジローバーのデザインエレメントを、ディスカバリーに取り入れたことによってすごく大きな成功を収めることができました。そこからいえることは、ディスカバリーのユーザーはもっとプレミアムなクルマを求めているということで、それを反映したのが新型ディスカバリーなのです。

しかしデザインエレメントで、ディスカバリーのCピラーは明確に存在していますが、レンジローバーにはありません。7シーターなどをはじめとした多用途性もレンジローバーにはないものです。

この2つのファミリーがお互いに似ているのは構わないと考えています。なぜならどちらもランドローバーのファミリーだからです。

このあと新型のディフェンダーが出た時に、全体像がもっと説明しやすい構成になるでしょう。

----:ディスカバリーをレンジローバーに近づけたということですが、次のレンジローバーはディスカバリーから離すということは考えられますか。

フラスチェッラ:もちろんそういうことも考えていくかもしれませんが、今回この場ではお話できませんよ(笑)。もちろん実際に次期型車の開発は始まっており、差別化は図ります。レンジローバーとディスカバリーは違うデザインになってはいきますが、それでもランドローバーのファミリーなので共通点は当然持たせます。

◇連綿と続くヘリテージ

----:さて、ランドローバーは長い歴史を持ったメーカーです。例えば、ここ最近のレンジローバーのデザインと、クラシックレンジローバーとの共通点は何かありますか。

フラスチェッラ:まずクルマ本来のコンセプトと同様、デザイン面においてもラグジュアリーSUVというところは共通です。クラシックレンジローバーはこのセグメントを実際に生み出したモデルで、現行車はそこから進化を遂げてきました。つまりポジショニングは変わらずに車両が進化してきたのです。

デザイン要素の一部には共通項があります。例えばフローティングルーフはその一つですし、クラムシェルボンネットもそうです。クルマの周囲を取り囲むウエストラインもそうですね。また、ウインドウグラフィックも何も邪魔をされないつながりのあるものです(注:どちらの場合もピラーはあるもののブラックアウトなどであまり目立たなくしている)。それがレンジローバーなのです。しかし、ウエストラインを下げて、グラス部分が上下方向に広くなっているのは新しいレンジローバーの特徴です。またドライビングポジションも少し高くなっている。これも進化したデザインエレメントです。

◇子供のころ、クルマに興味はなかったんだ

----:少しフラスチェッラさんのことを教えてください。どんな子供時代を過ごしていましたか。

フラスチェッラ:他の人と距離をおくような大人しい子供で、とてもシャイで恥ずかしがり屋でした。面白いのは子供時代、クルマには全く関心がなかったのです。17歳くらいになった時に、父親が1989年式の日産『プリメーラ』を購入しました。そこから興味を持つようになり、ディーラーを回ってカタログを集めて、クルマのスケッチを描いたりしながら、クルマに興味を惹かれるようになっていったのです。

----:ではクルマに目覚めてから凝縮した自動車人生を送っているということですね。

フラスチェッラ:はい(笑)。それにはメリットとデメリットがあったと思います。最初にクルマの仕事に携わった時、私の同僚はイタリアの1950年代60年代のクルマの知識をたくさん持っていたのに対し、私はあまり知らなかったのでデメリットでした。しかし、同時に過去のクルマに影響を受けないということはメリットでもあったのです。つまり新しいものを創造する、創るという意味では私の方が有利だったかもしれません。

----:なぜカーデザイナーになろうと思ったのですか。

フラスチェッラ:8歳から9歳のころから芸術やデザインが大好きでした。いつも油絵を描いていたので、アートやグラフィックには関わっていたのです。なので自然にこうなったのでしょうね。クルマのスケッチを始めたころ、周りの人たちからこのデザインを誰かに見せなさいといわれたので、学校に行き始めて、自分の描いた絵を見てもらったりしました。そういったことがきっかけだったのです。

----:そこからスティーレ・ベルトーネに入るということは、素晴らしい成果ですね。

フラスチェッラ:本当に素晴らしく、私の夢でもありました。ベルトーネは本当に素晴らしい学校でした。今でも常に学び続けていますが、ベルトーネでカーデザインの基礎を学んだと思っています。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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