【東京モーターショー2017】レクサスLS+…伊藤若冲にもインスパイア、遠目の大胆と近目の緻密[デザイナーインタビュー]

自動車 ニューモデル モーターショー
レクサスデザイングループ長の袴田浩昭氏
レクサスデザイングループ長の袴田浩昭氏 全 24 枚 拡大写真

レクサス『LS+コンセプト』は、2020年に向けてレクサスデザインの新たな可能性と、近い将来に実現を目指す最新の自動運転技術を兼ね備えたコンセプトカーだ。つまりデザインを含め、レクサスの将来の方向性を表現したモデルなのである。

◇次世代LSのあるべき姿とは

----:では早速LS+コンセプトのデザインコンセプトを教えてください。

レクサスデザイングループ長の袴田浩昭氏(以下敬称略):名前の通り発売されたばかりの『LS』をベースに開発したコンセプトカーです。その想いとしては、2020年を視野に入れた自動運転技術や、先進技術を搭載した次世代のLSのあるべき姿を意匠としても表現したものです。例えば、冷却性能や空力、灯火類ではレーザーを使った光源などを使用し、次世代のランプの意匠的なスタディも含めたコンセプトカーになっています。

----:自動運転も踏まえたということですが、そのあたりはデザインの表現に関係してきていますか。

袴田:いえ、自動運転だからというデザインではなく、デザインスタディという意味で、次の世代のレクサスとして、どういうアイコンであるべきか、どういう造形であるべきかということを考えデザインしています。

----:では具体的にどういうところが挙げられますか。

袴田:まずフロントのスピンドルグリルです。今回外板色化して、なおかつグリルシャッターを搭載することで、閉じた状態では全体が外板色化して、立体的なスピンドルグリルとして表現し、強いメッセージ性を持たせているのです。

そこを起点にして、スピンドルグリルからキャビンにつながっていきます。つまり、センターの立体が人を中心にしたデザインも表している、“ヒューマンセンターシルエット”をより明確に表現しているのです。また、両脇のフェンダーの部分が、センターとは分割されたような見え方になっていますので、タイヤの四隅配置をより強調しています。この2つ、センターの人を中心に、それから両サイドのタイヤを見せるという要素をよりピュアに見せた造形にしているのです。

また、両サイドにサブラジエーターグリルがあり、ランプの上にも穴が開いています。それはサブラジエーターから入った空気を上から抜くという考え方です。つまりより高効率な冷却性能を満足させるように考えデザインも行っているのです。

さらにスピンドルグリルのグリルシャッターは、当然閉じたときには空力に貢献し、必要なときに開けて冷却にも効果をもたらします。つまり、顔全体で空力と冷却というのを最適制御する考えを意匠としてしっかり表現しています。

リアについてもフロントと同様、センターのスピンドル形状の立体と、両サイドのフェンダーの立体を強調するという、同じテーマを持たせてクルマ全体としてひとつのメッセージ性をより強く見せています。

◇ネガポジ反転

----:冷却性能という点に絞ると、冷却性能を考えたうえでスピンドルグリルを合わせたのでしょうか。それとも、スピンドルグリルありきで、そこに冷却性能の効率化を図っていったのでしょうか。

袴田:発想の原点としては両方考えながらやりました。フロント周りでは、もうひとつ大きな特徴を持たせています。通常のレクサスの顔の構成は、スピンドルの部分は黒系で、両脇はボディ色系という構成です。それに対し、LS+コンセプトはネガポジを反転させています。そういう構成がまず面白いのではないかという発想とともに、冷却や空力にうまく合わせて両方を満足するものになるのではないかと考えています。

----:サイドのキャラクターラインについても教えてください。

袴田:新型LSのボディサイドのデザインテーマは踏襲しています。そのうえで、今回は片側10mmずつホイールアーチ部分で拡幅して、よりフェンダーフレア部分のメリハリをつけた構成にすることで、前から後ろへのドラマティックな流れを表現しました。例えば高速道路で照明があたったときの美しさなど、刻々とリフレクションが変化していく様を、ドラマティックに、エモーショナルに表現できるボディサイドを目指しています。

◇二律双性の想いを込めて

----:レクサスデザイン部主任の平井望美さんはこのLS+コンセプトのオリジナルアイディアを創出されたとのことですが、具体的にどういうことを踏まえてデザインに挑んだのでしょう。

レクサスデザイン部主任の平井望美氏(以下敬称略):二律双生というのが我々レクサスデザインのマインドセットとしてあります。その点では、遠目でぱっと見の違いが挙げられます。今回、新しいスピンドルグリルをトライしようとなったときに、ネガポジ反転した状態で大胆に変えました。

さらに、ヘッドランプ周りでは、通常DLR(デイタイムランニングライト)がサブで、ヘッドランプがメインで見えますね。しかしこのクルマの場合、非点灯時はヘッドランプの63個のドットの部分が消えてしまいます。そうなるとDLRだけがメインで“ドン”と見えます。そこで主従逆転させてしまおうと考えました。基本は守りつつもガラッと大きく変えられないかという挑戦をしているのです。

ぱっと見、遠くから見たときに、スピンドルグリルが外板色になったことで、より立体的に見えたりする大きな変化を感じてもらい、近くで見るとものすごく細いデザインをしていて、色々なところにある“Lパターン”が隠れています。つまり近くで見たときの緻密さと、遠くから見たときの大胆さという、相反する2つの要素を二律双生させたいという想いを込めてデザインしていきました。

◇隠れミッキーさながらのLパターン

----:その“Lパターン”を教えてもらえますか。

平井:たくさん、色々なところに隠れています。

----:まるでディズニーリゾートの隠れミッキーみたいに?

平井:まさにそんなイメージです(笑)。例えば、ヘッドランプの黒い部分があるのですが、そこの目の周りにLの文字が細く入っています。またサブラジエーターの部分もメッシュ状ではなくLの文字が入っています。ここは、上の方は小さなLで、下の方に行くほど大きくなり、どれひとつ同じものはないのです。実はマイナーチェンジした『CT』も同じパターンを使用し、同じところはひとつもないという、よく見ると細い処理がしてあります。

袴田:ランプ類も非常に細いものを採用しており、これはレーザーを使って表現しています。これも緻密さにつながっているといえます。

平井:LEDを使ってしまうと 濃淡が出てしまい濃さが変わってしまのです。細かく同じ光の強さで最後の端末まで光らせるにはレーザーではないと出来ませんでした。0.9mmの細さです。

袴田:ホイールに関しても、ブルーの部分はカーボン製で、実は稼働します。ブレーキ冷却が必要なときにはそこが開き、そうでないときは閉じる。その方が空力に貢献するので、そういう意匠となっています。

ホイールをはじめランプやグリルシャッターなどの動きをうまく演出に使うことで、今後AIなどの人工知能の時代が到来したときに、クルマ自身が意思を持つようなメッセージ性につなげたいと思っています。

平井:生物を作るような感じで挑みました。

袴田:知的生命体。

平井:みたいなものを作りたいというような想いです。

◇遠目の大胆、近目の緻密。伊藤若冲から学んだこと

----:フロントグリルが閉じたり開いたりするのは一瞬魚の鱗のようなイメージにも見えますね。

平井:イメージのきっかけに深海魚もありましたし、クラゲやイカも眺めていました。

袴田:いわゆる透明で体内で発光しているようなものなどです。

平井:深海魚そのものの形というよりは、部分的なモチーフや体の中の細胞がどのように動いているのかなどを見ながら、透明な部分が綺麗だなと思いながらインスパイアされていったのです。

また、伊藤若冲も参考にしました。もともとジャーマンスリーとは違う独自の世界観を表現したい、日本らしさも少し感じたいと考えていました。いかにも日本らしい何かを表現するのではなく、根底にもともと持っているもので何かあるのではないかと調べたときに、若冲の絵に出合ったのです。遠目ではすごく大胆な構図の迫力のある鶏図などです。大胆な構図にもかかわらず、近くで見ると緻密に色を何層にも重ねていたり、裏からもう一度描いていたり、4色以上裏表で使ったり、最近のスキャナーで調べてようやくわかったというくらい、緻密に描かれているのです。そういう話を聞いたときに、こういう世界があると感じ、遠目の大胆、近目の繊細、緻密さみたいなところは若冲からインスパイアされました。

袴田:具体的に何か形のモチーフ云々を取り入れたのではなく、その緻密さというのは若冲などからインスパイアを受けながらデザインしていきました。レクサスとしての匠の技を表現するひとつの要素として、緻密な造形、Lを緻密に微妙に変化させながら構成させたり、そういったところで表現しています。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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