【川崎大輔の流通大陸】インドネシア、オークションが目指す方向性

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オークション会場
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日本の中古車市場が辿ってきた道をインドネシアも辿ることになれば、日系企業はインドネシアにおいて何をすべきか。インドネシアにおける中古車流通オークションの現状から方向性を示してみた。

◆優位な立ち位置にいる日系企業

一般的に日本の中古車ディーラーは自動車オークションから仕入れ中古車を仕入れる。しかし、インドネシアではブローカーから仕入れる。ブローカーネットワークの大きさと質が中古車ビジネスの強みとなる。まさに数十年前の日本と同じ構造となっている。

日本の中古車流通市場も元々は、価格は非表示、中古車店は客を見て販売価格を決める売り手優位の市場で買い手(ユーザー)としては、詳しくなければボッタクリにあうような市場であった。しかしながら、オークション流通が出来上がりオークション価格の情報開示などにより公正な価格情報、更にはガリバーなどの買い取り専門店の出現によって均一的な査定方法ができ流通が拡大した。なぜなら情報が市場の中古車選びを変えたためだ。

情報が入るようになったことで、売り手は車を下取りに出さず、高価で買い取ってくれる店を探すようになった。つまり自ら適正価格で売却ができるようになったためブローカーの存在意義がなくなった。

日本が辿ってきた道をインドネシアも将来辿ることになると考えれば、日系企業はインドネシアにおける自動車ビジネスにおいて優位な立ち位置にいる。なぜなら、インドネシアの市場に先手を打つことができる。それが中古車市場の活性化、アフタービジネスの市場拡大、車を購入するエンドユーザーの信頼獲得、につながる。

◆インドネシアの中古車流通の構造

インドネシアにいるブローカーの役割の1つは、ジャカルタなどの都市から地方へ中古車を流通させていることだ。地方のエンドユーザーは買いたい中古車があると、近所の中古車ディーラーに行く。中古車ディーラーは地元の知り合いブローカーに条件を伝える。すると、地元のブローカーはジャカルタに住む顔なじみのブローカーに電話をする。電話を受けたジャカルタのブローカーは、仲間のブローカーにも情報を流してジャカルタ近郊の中古車ディーラーで希望の中古車を見つける。ジャカルタで仕入れた中古車は、ディーラー・ブローカーの中間マージンが加算されながら、最終的に地方のエンドユーザーの元に届く。

販売の場合も同じようにブローカーが関与する。販売したい中古車があった場合は信頼できるブローカーに情報を流す。顧客がディーラーに来なくてもブローカーが売ってくれる。昔の日本と全く一緒でインドネシアではブローカーが暗躍しやすい市場の構造となっているのだ。

◆中古車流通オークションの活性化で情報透明化を目指せ

インドネシアの自動車アフター市場はグレーな市場だ。ブローカーによる関与度合いが高い中古車流通の中では、車両状態に見合った価格での取引が難しい。情報が入ってこないためだ。これからのインドネシアにおける中古車流通オークションは車両状態を評価する車両検査方式を導入し、情報を公開することで市場の透明化を目指す必要があるだろう。

インドネシアの中古車流通の品質や市場価格を公正化するためには、ブローカーを活用した流通から品質評価基準があるオークションを活用した流通へシフトすることが近道なのではないだろうか。

◆インドネシアに進出した日系オークション

2016年のある日、ジャカルタ市内から西に30キロほど車で離れた場所にあるオークション会場に向かった。空調設備が整った300人収容できる立派な施設だ。水曜日の13時過ぎに会場の中に入ると、威勢の良い女性の声が聞こえてくる。手競りオークションを仕切るインドネシア人MCの声だ。価格をあげていき価格を競わせる。訪問した日は、120名ほどのインドネジア人バイヤーが来ていた。バイヤーは、専業の中古車ディーラーで占められ、残りはブローカー。個人でくる人はほぼいない。

出品される中古車のリストがバイヤーたちに配られる。スタッフが運転して商品の中古車を順番に建物の前に移動する。すると女性MCの掛け声に合わせて競りが始まる。番号が書かれた札がバイヤーからあがる。入札は50万ルピア(約5,000円)ずつ競りあがる。競り値があがり、競合者がいなくなると中古車の落札が決定する。

会場の目の前にある大きなスクリーンには、入札中の中古車の出品車両情報が映し出される。車両状態を評価した車両検査シート情報もそこに掲示されている。バイヤーは最初にもらったリストで自分が欲しい中古車の入札順番を知り、会場の前に来た現車とスクリーン情報を見ながら入札を行う。

出品車はファイナンス会社での引き揚げ車両が95%で、一般ディーラーからの出品はまだまだ少ない。1回の開催で150台ほどの出品台数であり、月間600台ほどの出品台数だ。スタート価格は基本的には売り手のリクエストとなる。出品される中古車はオークション開催の3日前から会場の裏にある中古車ストックヤードで見ることができる。バイヤーは事前に下見をして、欲しい車の目星をつける。まだインドネシアの中古車市場では玉不足な状態が続いており、中古車価格は比較的高値で安定している状況だ。

◆インドネシアビジネスの魅力

インドネシア自動車製造業者協会(ガイキンド)によれば、2016年の新車販売台数は106万台だ。インドネシア自動車市場の魅力は更に高まっていくだろう。アセアン最大の人口を持つ巨大市場であり、自動車購入可能な潜在的中間層が増加することで、本格的なモータリゼーション期に突入するためだ。新車販売台数が中古車市場の先行指数になる。そう考えれば将来的なインドネシアの中古車市場にも一気に拡大する。

更に、首都ジャカルタ以外の地方都市もインドネシアの経済発展に大きく貢献しており、更なる自動車需要が見込まれる。ジャカルタで発展してきたオークション流通が地方へ横展開していく可能性は高い。

前述したようにインドネシアの中古車市場も今後、数年以内に日本と同じ課題を抱えることになる。今まで日本が解決してきた課題に対する、制度・知識・技術は必ずインドネシアでも役に立つ。大きな優位性があるのを、もっともっと日本人自身が認識をすべきだ。更に、日本企業は課題解決先進国としてインドネシアのためにも彼らが持つ課題解決に向けて果敢にチャレンジしていく必要があるだろう。そのチャレンジが新しい成長になる。

<川崎大輔 プロフィール>
大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

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