ネオジム使用量を2割減らしても高温時の保磁力が強化---トヨタが世界初の省ネオジム耐熱磁石を開発

自動車 ビジネス 企業動向
左が一般的なフェライト磁石、中央が従来のネオジム磁石。右が新開発の省ネオジム耐熱磁石。レアメタルを含んだ従来のネオジムと同等の磁力を見せた。
左が一般的なフェライト磁石、中央が従来のネオジム磁石。右が新開発の省ネオジム耐熱磁石。レアメタルを含んだ従来のネオジムと同等の磁力を見せた。 全 7 枚 拡大写真

トヨタ自動車がまた、ハイブリッドやEVの可能性を広げた。世界で初めて、ネオジムの使用量を減らしながら耐熱性を高めた磁石の開発に成功したのである。

レアアースの供給問題が起こってからというもの、様々な研究機関、メーカーがレアアースの使用量を削減する技術を次々に開発している。その結果、レアアースフリーのモーターが登場しているが、実はジスプロジウムやテルビウムといったレアメタルは不使用というだけで、鉄に次いで使用量の多いネオジムの使用量は減らせずにいた。

トヨタもモーターに使用するレアメタルの割合は、現在の4代目『プリウス』でかなり減らすことに成功していたものの、依然としてネオジムの使用量は全体の3割を占めている。つまり、レアメタルの使用量を減らした分は、ネオジムを増やすことで補っているのである。

昨年秋にもNEDOプロジェクトで、デンソー先端研究所が東北大学金属材料研究所と構造解析を、筑波大学数理物質系と合成方法の開発を行う産学連携グループが、ネオジムを使わないFeNi超格子磁石材料の高純度合成に世界で初めて成功しているが、こちらも量産化まではまだまだ遠い道のりのようだ。

その点、技術レベルで言えば今回トヨタが発表した省ネオジム耐熱磁石は、すでに実用レベルの磁石が作られており、これからはコストと品質を安定させることが課題だと言う。ちなみにこちらもNEDOプロジェクトであり、トヨタは委託を受けて独自の磁石を新開発したのである。

開発したエンジニアの1人であるトヨタ自動車先進技術開発カンパニー先端材料技術部の庄司哲也グループ長によれば新たに開発に成功した、省ネオジム耐熱磁石の生産プロセスの特徴は大きく分けて2つある。

まず原料となるネオジム、鉄、アルミ、銅、ホウ素などを混ぜて溶解した合金を、冷却中の銅ローラーに噴射して急冷する。これにより従来の1/10以下の粒子に微細化することが可能となり、粒子の周囲に発生する磁力を高めることができるのだ。温度上昇によって保磁力が低下していく特性をこれで補うことができる。これは2010年に特許を出願しており、この技術を応用して4代目プリウスはレアメタルの使用量削減を可能にしたと思われる。

今回発表された省ネオジム耐熱磁石では、さらにネオジムの使用量を減らすために粒子の構造を二層化した。粒子同士の境界に高い保磁力が発生することから、粒子の内部はネオジムの濃度を減らし、粒子の表面にネオジムの割合を増やしているのだ。

そんなこと、どうやって実現するのだろうと思われるかもしれない。具体的には前述の微細化した合金ではネオジムの配合を低くした状態を作り、その後に半溶融状態にしてネオジムを添加することにより粒子にネオジムを染み込ませるようにすることで、ネオジムリッチな層を粒子の外側に作れるそうだ。

粒子内部のネオジムが薄い部分にはランタン、セリウムといった軽希土類を配合することで、保磁力の低下を抑えている。これもランタン1に対しセリウムが3という配合の割合を見つけるまで、かなり試行錯誤を繰り返したそうだ。

またランタン、セリウムといったレアアースは、蛍光灯やクルマの触媒に使われているものの、リサイクルによって使用量が削減されており、なおかつレアアースに含まれる割合が多いために非常に安価(ネオジムの1/20、レアメタルの1/100!)で手に入りやすい。

この技術によって、どういうメリットが生じるか。まず考えられるのは1台あたりのネオジムの使用量を減らすことができるため、素材であるネオジムの総量を増やすことなくEVやハイブリッド車の生産台数を増やすことができる。今後、クルマの電動化がますます進むことは確実だから、ネオジムの供給問題が起こる可能性は決して低くない。だが省ネオジム化によって、ネオジムの価格上昇リスクに対応することができるようになる。

しかも20%ネオジムを削減した磁石の場合、130度以上の温度域ではレアメタルを使用した従来のネオジム磁石よりも保磁力が強いのだから、モーターの効率アップも望めるのだ。熱損失が30%もあるエンジンほどではないが、ハイブリッドやEVのモーターも安定した磁力を維持するために冷却している。だが、磁石の耐熱性が高まれば熱損失を抑えることも可能になる。

ハイブリッドやEVの駆動用モーター用の磁石としては10年以内に実用化したいとしているが、それより前にまずはEPS(電動パワーステアリング)や家電用など駆動力の低いモーター用として量産にこぎ着けたい考えのようだ。そういった意味ではモーターメーカーや家電メーカーとの協業も視野に入れている。

日本近海の海底熱水鉱床からレアメタルを取り出す研究も進んでいるが、一方で既存のレアアース採掘による環境問題も無視できないから、レアアースの使用量削減はこの先不可欠な技術と言える。リサイクル技術も進むことによって、レアアースの輸入量増加を抑制していくことを進めなければ、供給不足による生産量の頭打ちや価格上昇は避けられない。ブレイクスルーの勢いを止めずに、この先も革新的な技術で難題を突破して欲しいものだ。

《高根英幸》

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

アクセスランキング

  1. マツダ、電動セダン『EZ-6』世界初公開、24年発売へ SUVコンセプトも…北京モーターショー2024
  2. 【ホンダ ヴェゼル 改良新型】開発責任者に聞いた、改良に求められた「バリュー」と「世界観」とは
  3. トヨタが新型BEVの『bZ3C』と『bZ3X』を世界初公開…北京モーターショー2024
  4. Sズキが電動マッサージ器を「魔改造」、25mドラッグレースに挑戦!!
  5. <新連載>[低予算サウンドアップ術]“超基本機能”を駆使して「低音増強」を図る!
  6. 見逃せない! ホイールのブレーキダスト除去術 ~Weeklyメンテナンス~
  7. 中国製部品の急成長で2025年以降日本製の車載半導体は使われなくなる…名古屋大学 山本真義 教授[インタビュー]
  8. 郵便局の集配車が「赤く蘇る」、KeePerが8000台を施工
  9. 多胡運輸が破産、首都高のローリー火災事故で損害賠償32億円
  10. ホンダ『ヴェゼル』マイナーチェンジで3グレードに集約、納期改善へ…「HuNT」「PLaY」新設定で個性強調
ランキングをもっと見る