VWディーゼル開発幹部来日…ディーゼルはサスティナブルなのか

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エッケハルト・ポット博士
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2月14日、ミッドサイズセダン『パサート』と同ステーションワゴン『パサートヴァリアント』に、ターボディーゼルモデル「TDI」を追加ラインナップしたフォルクスワーゲングループジャパン。2016年にディーゼルエンジンの排出ガス規制対応の不正行為が発覚したかどで投入は遅れに遅れた。今後も搭載車種は徐々に拡大するものとみられ、ようやくラインナップ拡充に復帰できた格好だ。

発売に合わせ、昨年1月に先進ディーゼルエンジン開発推進部長となったエッケハルト・ポット博士が来日し、スピーチと座談会を行ったが、その内容はフォルクスワーゲンのディーゼルは大丈夫なのかということと、ディーゼルは果たしてサスティナブルなのか、の2点に集中した。

まずはユーザーにとって最大の関心事であるフォルクスワーゲンのディーゼルは大丈夫なのかということについてポット氏は、

「我々はあってはならないことをやってしまったが、そこから多くのことを学んだ。まず開発のプロセスをゼロから組み直しました。またRDE(実走行試験)や台上試験にとどまらずあ、らゆる状況で排出ガスレベルを低減することに取り組みました。不正があって以来、NGOなど第三者機関が各社のモデルの排出ガスをテストしていますが、我々は常にトップ3以内にいます」

と、問題の修正に強い姿勢で臨んだことを強調した。

フォルクスワーゲンはディーゼルのNOx削減の中核技術に「デュアルサーキットEGR(排出ガス還流装置)」を据えてきた。これは低圧と高圧2系統のEGRを装備し、低負荷時やコールドスタート時には高圧EGRを使ってNOxを積極低減させ、排出ガス処理が楽になる中~高負荷になるにつれて高圧と低圧の併用、さらに低圧のみと連続変化させてエンジンのパワー特性を損なわないようにするというものだ。

が、そのデュアルサーキットEGRと酸化触媒を組み合わせたシステムでは排出ガス浄化の能力が足りず、モード走行による排出ガス測定であることを検出してそのときだけ浄化装置をフル稼働させ、エンジンパワーを落とすという不正に手を染めることになった。そこでフォルクスワーゲンが新たに追加したのは尿素(CH4N2O)を使ってNOxを化学的に分解する尿素SCR。

「尿素SCRも、従来型のものは満足のいくものではありませんでした。そこで我々は、通常の尿素SCRの上流に還元触媒化したDPF(粒子状物質フィルター)を置き、それぞれに尿素を噴射するという方式を取りました」

ディーゼル排出ガス不正で戦略の見直しを迫られたフォルクスワーゲンは現在、次世代ディーゼルを開発中という情報がある。その過渡的なユニットが出てくるのは2020年、本格的な次世代ユニットが出てくるのはさらに先とみられている。それまでは今回パサートに搭載された「EA288」型2リットルディーゼルでつながなくてはならない。

還元触媒用の尿素水「AdBlue(アドブルー)」の使用量は走行1000kmあたり1.5~2リットルと、トップランナーのディーゼルに比べるとかなり多い。そのぶんアドブルータンクを大容量化し、おおむね1万kmインターバルでの補給ですむようにしている。いささか苦しい措置ではあるが、アドブルーの価格は高いものではないため、排出ガス処理を徹底させるほうに振っても商品性は保たれるという判断だろう。実際、日本でもターボディーゼルを待っていた顧客は相当数いるようで、「手応えは十分」(東京東部のフォルクスワーゲン販売会社幹部)という。

清水和夫、石井昌道両名のモータージャーナリストを加えた座談会ではディーゼルのサスティナビリティについての話題が相当部分を占めたが、ポット氏は慎重な言い回しに終始した。

フォルクスワーゲンは2025年に販売の25%を純EVにするという野心的な目標を立てている。それが達成されたとしても、75%のクルマには内燃機関が何らかの形で搭載されいていることになる。

ポット氏は「そのことからも内燃機関の効率向上や排出ガス低減はこれからも重要な競争分野と言える。ディーゼル、ガソリンとも10年以内に実施されるであろうさらに厳しい排出ガス規制に対応する必要があるが、我々はそれに対応できると考えているし、その準備を進めている」としながらも、

「ディーゼル車、ガソリン車とも、将来的には排出ガス抑制のためにコストはどんどん上がっていく。それに対してEVはコストが下がっていく。いずれ両者がぶつかる時が来ることは避けられない」

と、厳しい戦いになることを示唆した。清水氏は「ディーゼル燃焼に向いた新組成の合成燃料を使うことでディーゼルの排出ガス処理が楽になる時が来るのではないか」と水を向けた。合成燃料に限らず、EV分野で将来の技術革新が期待されるように、排出ガス処理の世界でも今後、ドラマチックな技術やアイデアが出てくる可能性はある。が、ポット氏は「何の燃料を使っても後処理は必要」と、手堅い姿勢を崩さなかった。

ただし、温暖化防止の取り組みのなかで、ディーゼルがいいプレーヤーになれるという従来の主張が崩れたわけではない。

「ユーザーの平均燃費ひとつとっても、ディーゼルがガソリンより優れているのは明らかで、地球の平均気温の上昇を2度以内に収める過渡技術として意味があると考えていますし、とくに長距離を走るユーザーにとってはクルマとして良い選択になると思っています。ぜひ、ディーゼルエンジンのドライブを楽しんでいただきたい。そして良いことだけでなく、悪いこともどんどん指摘してほしい。私たちはそれを必ずドイツにフィードバックして、もっと良いエンジン作りに役立てたいと考えています」

ポット氏はこう語ってトークセッションを締めた。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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