【岩貞るみこの人道車医】超高齢化時代に「車内の音」はこのままでいいのか?

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シートバックにスピーカーを内蔵するマツダロードスターRFのカスタムモデル。オーディオだけでなく警告音の聞きやすさにも効果があるかもしれない(参考画像)
シートバックにスピーカーを内蔵するマツダロードスターRFのカスタムモデル。オーディオだけでなく警告音の聞きやすさにも効果があるかもしれない(参考画像) 全 3 枚 拡大写真

【人】2017年5月、世界三大レースのひとつといわれるインディ500で、佐藤琢磨選手が日本人初の優勝を果たした。私も選考委員を務めさせていただいた2017-2018日本カーオブザイヤーでも、その功績をたたえて実行委員会特別賞が贈られた。授賞式では佐藤選手といっしょに巨大なシルバーの優勝トロフィーも登壇し感激したものである。

モータースポーツはマシンの性能が優劣をつける部分もあるけれど、ドライバーの技量やコースにあわせたドライバーのセッティング能力も大きく問われる。そして、高速で命を削るようにして走る過酷なスポーツでもある。もうひとつ大変な部分があるとしたら、それは引退後まで影響する耳へのダメージじゃないだろうか、と勝手に考えている。

というのも、先日、インディにずっと参戦されていた松田秀士さんにお会いしたとき、あるエピソードを教えていただいたからだ。

◆「耳を大切に」レーシングドクターの親心
インディ500
「インディのメディカルチェック(ドライバーの体調が万全かどうかの確認)はすごく厳しいんですよ。丸一日がかりでやるんです。視力などはもちろん、耳がちゃんと聞こえるかどうかもチェックします。でね、耳の検査が終わったあとに、出口のところに使い捨ての耳栓が山のように置いてあって、ドクターが大きな手でごっそりつかんで渡してくれるんですよ。『耳を大切にしろよ。歳をとってから苦労するから。』って言いながら。」

松田さんはそう言いながら、ごっそりつかむ様子を再現してくれた。それはほんとうに、ごっそり!という感じで、ドクターの親心(?)が伝わってくるようだ。

レーシングドライバーは、マシンに乗っているときだけではなく、ピットでマシンをとめてエンジンを調整するときも爆音にさらされる。私も若かりし頃、F1マシンをはじめ、サーキットで何度も体験し、思わず耳に手をあてたものだ。

松田さんが言うには、メディカルチェックのドクターの言ったとおり、引退後のレーシングドライバーのなかには耳が聞こえにくくなる人もいるという。年齢を重ねると自然に耳は遠くなるけれど、おそらく、レーシングドライバーの耳が悪い割合は高いと思われる(だからといってレースがよくないと言うつもりはありません!)。

◆車内の警告音はこのままでいいのか?
機能が増えるにつれ、車内で聞こえる警告音の種類も増え、聞き分けが難しくなる。写真はレクサスの「アクティブ操舵回避支援」の作動イメージ
ここからが本題である。

以前、被害軽減ブレーキやレーンキープアシストの音について、「なんでもかんでもポンやらピピやらと音がして、どの音なんだかよくわからない!」という意見をこのコラムで書いた。今回、新たな懸念材料として挙げたいのは、これからの日本は超高齢化社会になり、高齢者が運転をする状況が確実に増えるなか、音のボリュームや音質は、このままでいいのか?という点である。

出展を忘れてしまったけれど、ある北米の研究機関のデータによると、2017年に生まれた人の平均寿命は114歳だそうだ。会社員は65歳で定年退職したあと、ものすごい年月を生きなければならないことになるが、健康寿命、運転寿命が延びていれば100歳になっても、ほいほい運転しているだろう。そして、その中には、耳が遠い人がたくさんいるわけだ。

元レーシングドライバーのA氏は(体調の話なので匿名にさせていただく)、やはり耳が聞こえにくくなり数年前から補聴器や収音器を身に着けていらっしゃる。とても好奇心旺盛でメカに詳しいA氏らしく、いつも違う補聴器をつけて、「補聴器ジャーナリストができそう」と、明るく笑っておっしゃるほどだ。昨年末、A氏がつけていた収音器は、これまでとは違うタイプだった。女性のヘアバンドのようなカタチのものを後ろから肩にかけ、そこから左右のイヤホンが伸びているというもの。どうもこのタイプは最近の流行らしく、いろんなメーカーから出ている。A氏が使っているタイプは、設定すればイヤホンを耳に入れなくてもテレビの音がヘアバンド部分(つまり、耳から近いところ)から出てくるので、音が聞き取りやすいのだそうだ。

そこで私が思ったのは、車内で警告音の出る位置である。超高齢化~耳が聞こえにくい化が進むなか、いまのほとんどの車両がそうであるように、ハンドル付近から音を出すだけでいいのだろうか。耳が悪くても聞こえるように大きい音にすると同乗者が寝ているときに起こしてしまい、運転者としてはものすごく気まずい。とくに、被害軽減ブレーキやレーンキープアシストなど、自分が注意力散漫でふらふら走っている(?)証が音として出ているものは、同乗者から「あんた、ヘタなんじゃないの?」という視線が投げつけられ、とてもやるせない気分になるのである。

だとしたら。もしも、A氏の収音器のように耳から近い位置、たとえばシートバックとかヘッドレストあたりから音を出すようにしたらどうだろう?ドライバーにははっきり聞こえ、同乗者には聞こえにくいやり方がきっとあるはずだ。

ヘッドレストや背もたれ部分から音を出す方法、アリだと思うんですが、どうなんでしょ?

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、最近は ノンフィクション作家として子供たちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。9月よりコラム『岩貞るみこの人道車医』を連載。

《岩貞るみこ》

岩貞るみこ

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家 イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。著書に「ハチ公物語」「しっぽをなくしたイルカ」「命をつなげ!ドクターヘリ」ほか多数。最新刊は「法律がわかる!桃太郎こども裁判」(すべて講談社)。

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