【藤井真治のフォーカス・オン】激化する「7シーターズカー」戦争、ブームは日本にも?

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トヨタアバンザの牙城を崩した三菱のMPV「エクスパンダー」
トヨタアバンザの牙城を崩した三菱のMPV「エクスパンダー」 全 4 枚 拡大写真

年間100万台レベルの安定した新車市場が続くインドネシア。日本市場の5分の1のサイズだがアセアンでは最大の市場で日本車シェアは世界で最も高い(日本よりも高い)。ここでの売れ筋は乗用車の3列シートモデル。100万台総市場の半数以上、乗用車の中では何と70%近くが3列シートモデルなのだ。

もともとのMPV(マルチ・パーパス・ビークル)やミニバスと言われるモデルに加え、 最近ではスタイリッシュでタフイメージを持ったSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)の3列シート車も増えており、インドネシアの「7シーターズカー戦争」は激化の一途をたどっている。

◆スズキのMPV『エルティガ』のフルモデルチェンジ
フルモデルチェンジしたスズキのMPV「エルティガ」
4月29日まで開催されたインドネシア国際モーターショー。主催者側の利権抗争で2つに分裂した後の「盛り上がらない方のモーターショー」とも言え、トヨタ、ダイハツ、ホンダの3大メーカーは展示予算を8月開催のもう1つのモーターショーのためにセーブした感がある。そうしたなかで、中位下位ブランドはこのモータショーを絶好の情報発信機会・販売機会と捉えているようだ。

初日の4月19日、現在5位ブランドのスズキは量販モデルである『エルティガ』を6年ぶりにフルモデルチェンジし記者発表を行った。 このエルティガ、初代モデルの発売当時はインドネシアMPV市場の王者であるトヨタの『アバンザ』の対抗モデルとして「アバンザ・キラー」とも言われたモデル。ところがその後はアバンザ自体の巻き返しや他社のモデル投入によって低調な販売にとどまっていた。新モデルはやや保守的な外観であるもののサイズアップされたエンジンやソツのない内装は、再びスズキファンの心を掴むに違いない。

◆三菱エクスパンダーの出現に焦るトヨタ
トヨタアバンザの牙城を崩した三菱のMPV「エクスパンダー」
一方、月間1万台レベルの販売台数を売り上げるベストセラーカーのアバンザは、今年に入ってその地位が危うくなっている。2月、3月と三菱が昨年末に発売したMPVの『エクスパンダー』に2か月連続で首位の座を奪われたのだ。

昨年9月に発売開始された同モデルは、三菱のアイデンティであるタフイメージを持ったSUVのようなスタイリングや豪華内装、お手頃な価格帯を持ったモデル。MPVのコア市場への新参者と言うハンディを完全に克服し、ユーザーの高評価を得ている。モデル投入にあたっては生産工場、販売体制、販売網まで乗用車ビジネスを完全に商用車部門から切り離すといった三菱の本気度が成功につながったわけだ。

日産の資本参加前からスタートしていたプロジェクトでありインドネシア駐在経験のある益子CEOの「意地のプロジェクト」とも言えよう。ただし。インドネシアではシェア低下が激しい日産がこのエクスパンダーの日産販売店への併売供給を決めているとも言われ、三菱側としてはこの成功を手放しで喜べない微妙な状況でもある。

◆中国ブランドも7シーターでインドネシア攻略を図る
中国ブランド五菱(ウーリン)の「コルテス」
昨年三菱のエクスパンダーと同時期に発売された中国車、五菱(ウーリン)『コンフェロ』も7人乗りのMPVセグメント。これまでの中国ブランドイメージを跳ね返す品質感と競合モデルに対してざっと3割安の価格により月販2000台を維持しているモデルだ。

今回のモーターショーでは上級車種の『CORTEZ/コルテス』を追加しさらなる販売量の上乗せを図っている。ウーリンに続け、とばかりウーリンブースの向かいには別の中国ブランド「SOKON」が『GLORY580』というSUVを展示、会場入り口では試乗会まで実施していた。このモデルもインドネシアの市場に合わせ3列シートの7人乗り。今後の販売網の整備や国産化投資などウーリン並みの本気度が試されている。

◆7シーターズカー戦争は他のアセアン諸国にも波及するか?

インドネシアの7シーターズカー比率がこれほど高いのは、大家族主義のライフスタイル、4ドアセダンに対する税制優遇措置や未発達な道路インフラなどと言われている。国産化促進のための輸入車規制の長い期間を経て、国際スタンダードとは異なる独自市場が発展したと言えよう。

一方、近隣のマレーシア、タイ、フィリピンはというと全く異なる市場構造となっている。例えば、タイは伝統的に1トンピックアップトラックと4ドアセダンの独断場でやっとSUVが伸び始めた段階。マレーシアは完全にセダン市場である。

しかしながら、トヨタをはじめとするインドネシアの生産基地がこの7シーターズカーの近隣諸国への完成車やCKDの輸出拠点になっており、マレーシアなどでは、低価格の7シーターMPVがじわじわと台数を伸ばしている。

世界的にも、テスラの『モデルX』のような3列シートSUVのようなモデルが出始めており、3列シート車がちょっとしたブームになりそうな予感もある。

今年秋に日本市場で復活が予定されている、ホンダの『CR-V』にも7シーター仕様が設定されるようであり、あながち「7シーターズカー戦争はインドネシア・ローカルだけの現象」とも言えないのではないだろうか?
2017年インドネシア新車市場構造
<藤井真治 プロフィール>
(株)APスターコンサルティング代表。アジア戦略コンサルタント&アセアンビジネス・プロデューサー。自動車メーカーの広報部門、海外部門、ITSなど新規事業部門経験30年。内インドネシアや香港の現地法人トップとして海外の企業マネージメント経験12年。その経験と人脈を生かしインドネシアをはじめとするアセアン&アジアへの進出企業や事業拡大企業をご支援中。自動車の製造、販売、アフター、中古車関係から IT業界まで幅広いお客様のご相談に応える。『現地現物現実』を重視しクライアント様と一緒に汗をかくことがポリシー。

《藤井真治》

藤井真治

株式会社APスターコンサルティング CEO。35年間自動車メーカーでアジア地域の事業企画やマーケティング業務に従事。インドネシアや香港の現地法人トップの経験も活かし、2013年よりアジア進出企業や事業拡大を目指す日系企業の戦略コンサルティング活動を展開。守備範囲は自動車産業とモビリティの川上から川下まで全ての領域。著書に『アセアンにおける日系企業のダイナミズム』(共著)。現在インドネシアジャカルタ在住で、趣味はスキューバダイビングと山登り。仕事のスタイルは自動車メーカーのカルチャーである「現地現物現実」主義がベース。プライベートライフは 「シン・やんちゃジジイ」を標榜。

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